深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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 背後から突如現れた声に俺とリカは少し距離を取……ろうとして、だが1人がシズクだと分かって少し落ち着く。
 少年、年齢は13歳ぐらいだろうか? くるっとした金髪と、寝起きで家から出てきたばかりのようなパジャマ姿が目を引いた。

「誰だ?」

 いくら相手が小さな子供でも警戒心は解かない。シズクだって復讐の仲間として俺と行動を共にしているが、まだ俺はその話を了承していない。故に完全な仲間とは言えない。
 リカも杖を前に構え、何か敵対的な姿勢を見せればすぐにでも魔法を撃つ気だった。

「しがない転生者さ。ボクの能力でキミ達のことは把握しているよ、少なくともボクはキミ達の邪魔はしない」
「俺たちを転移させたのはお前か?」
「あぁ、そうだね。その方が都合が良かっt」
「っ<石弾ストーンバレット>!」

  ── パスっ!!
 
 リカは少年が言い終わらないうちに石の弾丸を発射する。こぶし大の礫、当たればそこそこのダメージがあるだろう。少し攻撃の判断が早い気もするが、その足踏みが命取りになるかもしれない。そう感じさせるほどの何かが少年にはあった。

 だが、

「<上書きリライト>、『綿がボクを守るように隆起する』」

 <石弾ストーンバレット>は綿の大地が突如として隆起したことで完全に防がれる。

「なっ!?」

 リカも俺も、リカの魔法によって出現したはずの綿が少年によって操られたことに目を丸くした。当の少年はと言うと、いつの間にか手に持っていたペンをくるくると回して、つまらなさそうにしている。

「攻撃しない方がいいよ、敵対しなければ大丈夫だから」

 ようやくシズクが口を開き、それに少年は深く頷いた。

「そうだね。ボクの目的はシズクかリューロに殺してもらうことだから。まぁその前にやらなきゃならない事はあるんだけど、取り敢えずは……えーっと、ちょっと失礼するね」

 少年はそう言って、未だ状況が掴めない俺たちを置いて下に飛び降りた。

***

「……ってことがあったの」
「そんなことが……エレナを圧倒してたって、なかなかにヤバいな」
「なかなかなんてもんじゃないぞ、『世界図書』が聞いた通りの能力だとするならばわしらじゃ到底敵わん」

 シズクに今までの経緯を聞き、取り敢えずの方針として俺たちは彼に逆らわずに流れに身を任せることに決定した。

「そう言えばシズクに聞きたいことがあったんだが」

 こうして腰を落ち着けて話せる場が今度いつあるかも分からない、というかいつ誰が死ぬかも分からない。だから今の状況とは関係は無いが疑問に思っていたことを俺は聞くことにした。
 それは3層で、帝国のヤツらとアラクネとエレナが三つ巴になった時のこと。

「エレナが魔王の話をしてた時『本人は四天王しか名乗らないけど』って言ってたんだ。あれは……」
「あぁ、それね。私もエレナにさっき直接聞いたんだけどさ、どうにも勝手に宣戦布告したことにされてたみたい」
「勝手に?」

 一体誰が、何のために。それを聞こうとした俺に、シズクは手をパーにして前に差し出して「待って」とする。

「その前に聞かせて欲しい、答えを」

 答えというのは以前シズクが言っていた、復讐を手伝ってくれたらこのダンジョンから出ることに協力する、って話の返答のことだろう。
 そして、今その話を持ち出したことで自動的にシズクを語って宣戦布告した奴が復讐相手だと想像出来た。『連国議会』を操り、全世界に魔王の宣戦布告を偽装する、それほどのことを一人の人間がやっているとは到底信じられない話ではあるが。

「リューロよ、この先もっと魔物は強くなるぞ。それにわしとしても、あの魔王との戦が全て嘘だったというのは少々許しがたい話じゃ」
「そうだな……」

 断ったとしてもシズクと敵同士になることは無いと思う。ただ、シズクと行動を共にしてしまった時点で、この先も黒幕とやらに狙われ続けるのは変わらないだろう。
 ならば、

「分かった。シズク、復讐を手伝う」

 俺の言葉にシズクは嬉しそうに頷いた。

「良し、じゃあ標的の話をしよう。私をドン底に落とし、魔王討伐という茶番を始めたのは、先代の[転生者の篝火]だ」
「え、篝火が……?」

 意外な相手に俺はそのままシズクの言葉を復唱してしまう。てっきり俺は篝火は転生者を集める寄せ餌のように利用されている側だと思っていたからだ。
 そして、リカはもっと驚いていた。実際に彼女は当時の篝火に会ったことがあるからだろう。

「間違いない。これは少年の『世界図書』でも裏は取ってあるし、篝火が転生者特典を集めて強くなるためにやったことだとすると納得がいく」
「シズクはどうやってこのことを?」
「えっ……まぁ、それは企業秘密ってことで……」

 目を泳がせて、上擦った声でそう答えるシズクに俺は苦笑する。なにやらまだ隠しごとがあるらしいが、まぁそれは置いておいても、もうひとつ分からないことがあった。

「……じゃあ、なんでリカの転生者特典は俺に?」

 リカが死んだ時、転生者特典は俺に移った。篝火が全て仕組んだと言うならば、リカの転生者特典は俺じゃなくてそいつに渡りそうなものなのだが。

「それは……分からない。何か心当たりある?」

 俺とシズクに見つめられリカは懸命に当時のことを思い出そうと、唸り、「あっ」と声を上げた。

「そういやわしだけあのおっさんと握手しとらんかったな。単純に気持ち悪くてのぉ」
「じゃあ、それが転生者特典が篝火に移る条件なのかも」

 確かに、言われてみれば俺は初めて会う人と握手をする癖がある。まぁ百年前の各国に散らばった途方も無い数の転生者全員の転生者特典を集めることを考えれば、恐らくそれ以外にも発動条件があるのだろうが……。それにしてもまさかそんな簡単な条件だったとは、思いもよらなかった。

「確かあの男……ウォーカーって呼ばれてたのぅ」
「ウォーカー……で、仮に俺たちがダンジョンから脱出したとして、具体的にどうやってソイツに復讐する?」
「それは簡単」

 シズクはぴん、と指を立てる。

「私には彼によって付けられた枷があるから、これを逆探知して、リカの魔法で転移したら」
「なるほど、まぁそれなら……」

 そう俺が納得した時だった。 とんっ── と、下から飛び上がってきた少年が綿の上に音もなく着地する。

「じゃ、話は終わったみたいだし、こっちも片付けようか」

 少年はタカダマサトを抱えていた。
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