深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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復活

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 少年は抱えていたタカダを慎重に下ろす。

「さて、今からタカダマサトを生き返らせよう」
「えっ?」
「どういった理由で、じゃ?」

 思ってもいなかったことを言う少年に俺もリカも驚きを隠せない。何かしら理由があるとしても、リスクが高すぎる。
 あれだけ苦労して倒したタカダ、一度使った手はもう通じないだろう。生き返らせて、もう一度戦いになっても勝てる保証は無い。
 
「全知のボクが生き返らせよう、って言ってるんだよ? そうした方が良いんだよ、そうした方が面白くなる」
「面白くなる、なんて理由じゃのぉ……」

 渋る俺とリカに、少年はやれやれと首を横に振った。

「気にならないのかい? 彼の身に何があったのか。帝国の彼がどうして共和国のエレナと一緒に行動していたか、一緒に転移したアレスとライアンはどうなったのか。彼は明らかに強くなっていたがそれは何故か」

 確かにそれは言う通り、謎だ。イグニススコーピオンごとタカダ、アレス、ライアンを転移させて、共和国と教国でいざこざを起こして時間を稼ぐという俺の目論見は見事に外れ、それどころか協力関係を結んだようにさえ思われる。
 とは言え、裏で全てを操ってるとかいうウォーカーが何かを仕組んだ、と考えればそれまでの話だ。

「まぁ具体的なところに関しては気にはなるが……というか、生き返らせるぐらいお前の『世界図書』で一人でもどうにかなるんじゃないのか?」
「うーん、実の所はそうでもない」

 少し説明しようか、と少年は綿の上に正座して俺たちにも腰を下ろすように促した。

「もう聞いてるっぽいけど、ボクの転生者特典『世界図書』は全てを知り得て、さらに全てを書き換えることができる能力だ」
「あぁ、シズクからある程度は聞いている」
「過去形で力を使えば、対象を含めそれに関する歴史も記憶も全てが書き換わるし、現在形で力を使えば対象だけが書き換わる。まぁここらへんの仕様はちょっと難しいし、今は特に関係ない。重要なのはボクの力は転生者に効力を持たないってところだ」

 転生者に効力を持たない。それがどういうことなのか、俺は首を捻る。

「例えばリカは6層の地形が変わったことに気付いていたけど、この世界の人間であるリューロは気付かなかったでしょ?」
「えっっ?」

 突然、素っ頓狂な声をあげたシズクに、みんなが注目すると彼女は気まずそうに手を顔の前で振る。

「あっ……いや、あの、私以外にも急に地形が変わったの把握してる人いたんだ~って」
「そう、シズクも転生者だから感知出来た。逆にエレナが変化を認識していなかったのは現地の人間だからなんだ。転生者はこの世界の理からは外れているから、ボクの力が及ばないってこと。一応この世界の人間にワザと改変を気付かせることは出来るけど、その逆は出来ないってこと」
「ふむ……」

 ここに来て新たな、俺という存在について重要そうな事実が判明したことに俺は気付くが、取り敢えずは関係が無さそうだし、話の腰を折りたくなかったので言わない。全てを知っているであろう少年だけは、そんな俺の心の内も読めているのかニヤついてこちらを見ているが。

「んんっ、まぁ勿論これは認識の話だけじゃなくて、直接的な改変も転生者には効かないってことで」
「直接タカダは治せない……ってことになるのか」
「そういうこと」

 少年はようやく分かってくれたかいう顔で、長々説明して疲れたのか「ふぅー」と息をついた。
 というか、『世界図書』でさえ死者を復活させることなんて出来ないならどうやって……。

「じゃあどうするんじゃ? リューロの『超回復』も死人は治せんし、『代償成就』は対価が大きすぎるじゃろう。わしも蘇生魔法なんてものは知らんし……シズクは?」
「私も無理だね。そんなのはまさしく神の領域だよ」

 俺もリカもシズクも少年も死者を復活させる方法なんて持ち合わせていない。

「簡単な話さ、ボクの力はこっちの世界の人間には作用するんだよ? リューロが『死者を蘇生出来る』ようになればいいのさ」

***

「さて、じゃあタカダマサトのことは彼らに任せるとして、シズク、転生者特典が移るのは先か後、どっちにする?」
「後にしようかな。その方が正式だから」
「それもそうか。一応忠告しとくけど、『世界図書』はその情報量と力が強大がゆえに反動が尋常じゃない。移って数時間は暴走して手もつけられなくなる。十分にリューロ達と距離を取ったから大丈夫だとは思うけど、気を付けてね」
「あぁ、……それにしても、少しなぁ」
「もうボクを殺してしまうのが? ボクが死にたいって言ってるんだ、許してくれ。それに『世界図書』を見れば死にたがってる理由も分かるよ。この世界に救いなんて無いからね」

***

 少年に復活のお礼として『義足は既に届けられた』と書き換えて貰い、新しくなった右脚を動かしながら、俺はタカダを見下ろしていた。

 そろそろ蘇生がなされるはずだ。

「っが……!? がはっ……げほっ、げほっ……」

 死者を甦らせるという、決して覆せないはずの、覆してはいけないはずの法則を捻じ曲げてしまった。あまりにも簡単に起こった現実に、俺もリカも最早乾いた笑いしか出ない。

「ここは……!? 俺は奴に捕まってたんじゃな……っ!?」

 起き上がったタカダはぐるぐると周りを見渡して、次に俺とリカの姿を見て硬直した。が、それを俺は手を貸して立たしてやる。

「大丈夫だ、お前が変なことをしない限り、こちらからは何もしない」

 少年は蘇生する前「タカダは洗脳状態にあっただけだ、仲間に引き入れた方がいい」と言っていて、だからこそ蘇生に踏み切ったわけだけど、やはりそれは本当のようだな。
 目の前の彼は全く現状を把握出来ていない。それどころかさっき口走った言葉から推測するに、共和国から何か酷い扱いを受けていたと思われる。それをエレナが知っていて引き連れていたとはあまり思えないが……。

 それから、俺は今まで起きたことを彼に説明をすることにした。リカにはその間、綿を風で動かしながら上空から7層に降りる道を探してもらった。シズクにそうするように言われたのだ。

「……というわけで、俺はお前を蘇生して」
「待て! 人が生き返る……のか!? じゃあ今すぐ来てくれ! アレスとライアンがっ」
「すまない、復活は一度だけなんだ」

 そう、少年に与えられた力は一度だけと制限されていた。彼曰くそれが俺にはそれが限界だからだそうで、俺としても死を拒絶するのは気持ち悪いような感覚があったからそれで良かった。
 が、俺の言葉を聞いてがっくりと肩を落とすタカダを見ていると、ちょっと申し訳なくなる。

「なぁ、共和国で、お前たちに何があったか……話してくれないか?」

 俺がそう言った、まさにその時だった。

 ── バンっ!!

 猛烈な熱風が俺たちを襲う。綿は一瞬で溶けて、気付けば空中に俺たち3人は放り出されていた。

「<空中歩行>!」「<風固定>」「<風翔フライウィンド>!」

 3人ともそれぞれ、ほとんど反射的にスキルや魔法を発動させてどうにかその場で留まる。

「なんだ? これは!?」

 俺は周りを見渡して思わずそう叫んだ。それも仕方が無いだろう、今まさに目の前で天変地異が起こっているのだ。
 大地がうねり、溶け、砂や溶岩、雪、草に溢れ、再び元に戻る。天井が無くなり、太陽が出てきて、かと思えば月が、闇が、第二の大地が、現れ再び元に戻る。

「リューロ! すぐ真下が7層の入口だ! 飛び込むぞ!」

 そう叫んだリカは、返事も待たずに7層に飛び込んで行った。だが、一刻も早くここから離れなければ、というのは同感だ。俺とタカダもわけも分からず、それについて行くのだった。
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