78 / 124
6人目
伝授
しおりを挟む
「なぁ……父さんは転生者だったのか?」
当然返事は無く、父はぶつぶつと決められた文言を呟くだけだ。そんな父の機械のような様子を見て、夢の中とはいえ、俺を殺すためだけに記憶から蘇らされた父を見て、俺は嫌な気持ちになった。それになにより、何も知らない奴に父を思うように操られていることに、独占欲のようでそれとは少し違う怒りを覚えた。
──覚悟はある、やるしかない。
父を止める、これ以上苦しませたくない。この夢の世界から脱出することとは関係ないかもしれないが、ほっとけなかった。
「……<クナイ>」
スキルによって空中に出現したクナイを、放出せずに右手に持って父の背後に立つ。狙うは首、頸動脈だ。ゆっくりと、肌に触れないように左手を大回りに首へ回し、刃もギリギリまで接近させる。一瞬で、一回で確実に死なせるために。
「父さん……ごめん」
ザシュッ──という音と確かな皮膚を抜けてやわらかい内部を切り裂いた生々しく手に残る感触。人を、しかも近接武器で殺すなんて初めての経験で、俺は反射的にクナイを手放して、数歩後ずさってしまう。からんからん、と赤く染まったクナイと父の剣が床に落ちる二つの音だけが響いた。
「リューロ……隠れ……きろ……」
剣を手放した手で傷口を抑え、膝から崩れ落ちながらも父は首だけを後ろに回して、目を見開きながらこちらを凝視した。出血はひどく、みるみる真っ赤に床が染まっていくが、俺はその血だまりに足を踏み入れて、倒れてうめき声をあげる父に近づく。
「父さん……」
「……」
もう返事は無かった。動くなってしまった父を抱きしめる。生暖かい血が俺の身体に染み込んでいく。
と同時に、体の奥で何かが燃えるような感覚に突如として俺は襲われた。
──なっ、熱っ……!?
ぽかぽかと心が温まるような、しかし灼熱のように俺を焦がすような力の濁流に俺は困惑する。
「<封印>が開いた」
どこからか父の声が聞こえた。
──生きてっ……いや、違う……?
直ぐに抱える父の胸に耳を当てるが、鼓動は無く落胆する。そんな状況が呑み込めていない俺を置いていくように、父は喋り始めた。
「これは<封印>した音声だ、お前が父さんから受け継いだ不完全な転生者特典が<開放>された時に同時にこの音声も流れるようになっている」
「封印した音声、受け継いだ特典の開放……」
「あー、今は何歳だ? 好きな人は出来たか? 仕事は……って、いや時間が無いな」
声しか聞こえていないが、それでも明確に父が腕時計を見て焦る姿が目に浮かぶ。それほどに音声は父らしかった。いつも俺の将来を心配してくれていて、お節介なほどに俺に話を聞く。
が、そこから父は「手短に話させてもらう」と言って真面目なトーンに一変した。
「まずはもうわかっているとは思うが、父さんは転生者だ。特典は『封印と開放』、どんなものでも箱に<封印>し、どんな時でも<開放>出来る能力」
溶岩と氷柱、夢の世界で父が放ったものはその2つだったが、俺が<潜伏>して攻撃を止めさせていなければ、あの黒い箱からもっと色んなものが出てきたということか。
「父さんは<封印>によって、リューロ、お前が不完全ながらもスキルとして受け継いだ<封印>と<開放>、そして俺が転生者特典を使っていた場面の記憶、の2つを奪っていた」
記憶……? 待て、確かに黒い箱を俺は知っていたじゃないか。なんで今まで……。
いや違う、今思い出したんだ。封印が解かれたことによって思い出した。父が黒い箱から食べ物を、魔物の死体を、炎を、なんでも出していたことを。
「恨まないで欲しい。転生者の息子と世間にバレてしまえば奴に……いや、これは知らなくてもいいか。ただ出来るだけ平和に生きて欲しかったんだ」
奴……というのはウォーカーのことだろう、と俺は推測する。父も何らかの方法で転生者を殺す何者かの存在を察知していたのだ、だからこそ父はうるさく俺に「隠れて生きろ」と言っていたのだ、と俺は今になって父の真意にようやく気付いた。
「<開放>の条件は、第三者の力によるものか、もしくは自身で中に残る父さんの残滓を消滅させるか、だ」
「残滓を消滅……そうか、今ここで俺が殺したから……」
「今から、その力の扱い方を伝授する。と言っても、リューロの場合は父さんのようにはなんでもとはいかないし、量にも限りがあるがな」
当然返事は無く、父はぶつぶつと決められた文言を呟くだけだ。そんな父の機械のような様子を見て、夢の中とはいえ、俺を殺すためだけに記憶から蘇らされた父を見て、俺は嫌な気持ちになった。それになにより、何も知らない奴に父を思うように操られていることに、独占欲のようでそれとは少し違う怒りを覚えた。
──覚悟はある、やるしかない。
父を止める、これ以上苦しませたくない。この夢の世界から脱出することとは関係ないかもしれないが、ほっとけなかった。
「……<クナイ>」
スキルによって空中に出現したクナイを、放出せずに右手に持って父の背後に立つ。狙うは首、頸動脈だ。ゆっくりと、肌に触れないように左手を大回りに首へ回し、刃もギリギリまで接近させる。一瞬で、一回で確実に死なせるために。
「父さん……ごめん」
ザシュッ──という音と確かな皮膚を抜けてやわらかい内部を切り裂いた生々しく手に残る感触。人を、しかも近接武器で殺すなんて初めての経験で、俺は反射的にクナイを手放して、数歩後ずさってしまう。からんからん、と赤く染まったクナイと父の剣が床に落ちる二つの音だけが響いた。
「リューロ……隠れ……きろ……」
剣を手放した手で傷口を抑え、膝から崩れ落ちながらも父は首だけを後ろに回して、目を見開きながらこちらを凝視した。出血はひどく、みるみる真っ赤に床が染まっていくが、俺はその血だまりに足を踏み入れて、倒れてうめき声をあげる父に近づく。
「父さん……」
「……」
もう返事は無かった。動くなってしまった父を抱きしめる。生暖かい血が俺の身体に染み込んでいく。
と同時に、体の奥で何かが燃えるような感覚に突如として俺は襲われた。
──なっ、熱っ……!?
ぽかぽかと心が温まるような、しかし灼熱のように俺を焦がすような力の濁流に俺は困惑する。
「<封印>が開いた」
どこからか父の声が聞こえた。
──生きてっ……いや、違う……?
直ぐに抱える父の胸に耳を当てるが、鼓動は無く落胆する。そんな状況が呑み込めていない俺を置いていくように、父は喋り始めた。
「これは<封印>した音声だ、お前が父さんから受け継いだ不完全な転生者特典が<開放>された時に同時にこの音声も流れるようになっている」
「封印した音声、受け継いだ特典の開放……」
「あー、今は何歳だ? 好きな人は出来たか? 仕事は……って、いや時間が無いな」
声しか聞こえていないが、それでも明確に父が腕時計を見て焦る姿が目に浮かぶ。それほどに音声は父らしかった。いつも俺の将来を心配してくれていて、お節介なほどに俺に話を聞く。
が、そこから父は「手短に話させてもらう」と言って真面目なトーンに一変した。
「まずはもうわかっているとは思うが、父さんは転生者だ。特典は『封印と開放』、どんなものでも箱に<封印>し、どんな時でも<開放>出来る能力」
溶岩と氷柱、夢の世界で父が放ったものはその2つだったが、俺が<潜伏>して攻撃を止めさせていなければ、あの黒い箱からもっと色んなものが出てきたということか。
「父さんは<封印>によって、リューロ、お前が不完全ながらもスキルとして受け継いだ<封印>と<開放>、そして俺が転生者特典を使っていた場面の記憶、の2つを奪っていた」
記憶……? 待て、確かに黒い箱を俺は知っていたじゃないか。なんで今まで……。
いや違う、今思い出したんだ。封印が解かれたことによって思い出した。父が黒い箱から食べ物を、魔物の死体を、炎を、なんでも出していたことを。
「恨まないで欲しい。転生者の息子と世間にバレてしまえば奴に……いや、これは知らなくてもいいか。ただ出来るだけ平和に生きて欲しかったんだ」
奴……というのはウォーカーのことだろう、と俺は推測する。父も何らかの方法で転生者を殺す何者かの存在を察知していたのだ、だからこそ父はうるさく俺に「隠れて生きろ」と言っていたのだ、と俺は今になって父の真意にようやく気付いた。
「<開放>の条件は、第三者の力によるものか、もしくは自身で中に残る父さんの残滓を消滅させるか、だ」
「残滓を消滅……そうか、今ここで俺が殺したから……」
「今から、その力の扱い方を伝授する。と言っても、リューロの場合は父さんのようにはなんでもとはいかないし、量にも限りがあるがな」
10
あなたにおすすめの小説
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
異世界子供ヤクザ【ダラムルバクト】
忍絵 奉公
ファンタジー
孤児院からスラムで育ったバクト。異空間収納と鑑定眼のダブルギフト持ちだった。王都西地区20番街では8割を縄張りとする先代のじいさんに拾われる。しかしその爺さんが死んだときに幹部同士のいざこざが起こり、組は解散。どさくさにまぎれてバクトが5・6番街の守役となった。物語はそこから始まる。7・8番街を収めるダモンとの争い。また後ろ盾になろうと搾取しようとする侯爵ポンポチーコ。バクトは彼らを越えて、どんどん規格外に大きくなっていく。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる