深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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起床

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「起……! ……るん……じゃ」

 目に見える範囲の家具を手当たり次第に<封印>と<開放>してスキルの仕様を理解しようとしていると、ふとそんな声が遠くで聞こえることに気づいた。俺は声の主を探そうと小さな窓に前傾姿勢になって外を覗きこみ、

「っ!?」

 その風景に言葉を失う。

 外の世界はめちゃくちゃだった。雪が積もって葉のついてない木と青々と生い茂る木が同じ場所にあったり、地面が割れて宙に浮いていたり、月と太陽が同時に視認出来たり。

「起き……! ……じゃ!」

 まだ声は聞こえる、それどころかさっきより大きくなっていた。だから、声がどこから聞こえるのかも分かった。真上だ、空よりも上。そして、その幼い女子の声に俺は聞き覚えがある。

「リカ……?」
「起きるんじゃ!!!」

 ──ぱちんっ!!

 俺の頬が奏でる乾いた音で俺は目覚めた。
 目を開ければリカが俺の胸の上に跨って、もう一撃ビンタをしようと腕を振りかぶっているのが見え、俺は慌てて「起きた起きた!」と叫ぶ。

「ん? おぉ、ようやく起きたか。何をしてたんじゃ、まったく……待ちくたびれたぞ」

 ビンタがちょっと楽しくなっていたのか、若干残念そうな顔でリカはそう言って俺の上から退いた。周りを見れば、俺たちを夢の世界に捕らえた女は、何故か『セーフゾーン』の中に上半身だけ入れた状態で倒れていて、それをマサトが監視している。

「あぁちょっと過去とケリをつけてた。どうやって脱出したんだ?」
「ん、簡単な話じゃよ。世界全体に負荷をかけてやればいい」
「……?」

 負荷、その意味が分からずに首を捻る俺にリカはやれやれと頭を振った。

「記憶から世界が作られているんじゃろ? ならば、わしの知らない場所まで移動したり、わしの知らない行為をやってみればいい」
「あ……そうか。そこまで世界は補完出来ないから、どうしても違和感だったり歪みが出るのか」
「そういうことじゃ。わしのお陰で起きれたんだ、感謝するんじゃぞ」

 俺の理解にリカは大袈裟に頷きつつドヤ顔でそう言って、その後ろからマサトがひょいと顔を出す。

「だが……俺の方が先に覚醒してリカを起こした」
「うっ、まぁそれはそうじゃが……」

 ──って、マサトの方が先に気付いてたのかよ。

「それより! あの女の<鑑定アプレーザル>は終わったんか!?」
「あぁ……説明する」

 マサトはそう言って、後ろで倒れている女を一瞥した。

 恐らくだが彼女も眠っているのは、<夢界門>とやらの調整の為なんだろう。3人分の記憶を使って世界を構築した上で、嫌な相手に襲わせるなんて相当な集中力を要するだろうし。彼女だけがまだ起きていないのは、開門の宣言を初めにしたということから推測されるに、正規の手順では閉門の宣言の必要が最後に必要なんだろう。だが、俺たちが予想外の方法で出てきてしまったから、それの尻拭いでもしているのかもしれない。

「魔人種、個体名リン。『夢双』の転生者とウンディーネを合成した魔人と『水操術』の転生者の合成体……」

 と、そこで急にマサトは言葉を紡ぐのは中断して、俺とリカの顔をまじまじと見つめた。その不可解な行動に俺もリカも顔を見合せる。

「えっと、どうしたんだ?」
「驚かないんだな……この魔人が自己紹介した時もそうだった。知っていたのか? ……ってことを」

 ──あっ、そうか、知らないのか!

 すっかり失念していた。リカも「あちゃー」と額に手を当てている。

 そうだ、マサトが知っているのはせいぜい[転生者の篝火]の性能と俺たちが何回もの出会いと別れを繰り返しながら、ダンジョンから脱出するために潜っていることぐらいだ。
 帝国から使命を受けた時にどれほどの情報を与えられたかは定かじゃないが、流石に魔王が演出だった話や裏迷宮が人造魔物の研究所だったことは知るはずが無い。

「そうだな、知っていた。話さなかったのはわざとじゃなくてだな……」
「いや、良いんだ……アレだろ、ここの『セーフゾーン』に入った時に言ってた知らない方がいいこ──」
「ちょっ待て、なんか目眩が」
「──? いや、俺も……」

 隣を見ればリカも頭を抱えている。
 それに怪訝な顔をしながらマサトが呟いた時だった。瞬間的に、記憶の固体が俺の頭をぶん殴るような衝撃。

 ──なっ!?

 大昔の建築様式、幾人もの転生者と協力して魔物を倒す景色、裏迷宮の大量の魔物、次々と死んでいく仲間、白衣の人間に何かを注射される……。

 魔人リンのものであろう記憶が、暴力的なまでの速度と量のまま殴ってきたかのようになだれ込んでくる!
 
 記憶の旅、約5秒ほどで300は超えるだろう切り取られた場面の数。最後の方はほとんど同じ景色、裏迷宮7層の海の中で泳ぐだけのものだった。だが、そんな代わり映えの無い毎日の中でも、何度か一人だけ人間が出てきていた。

「……やはりのぉ、なんてこの裏迷宮に1人しかおらんじゃろうて……」

 リカも同じ記憶を見たんだろう、そう呟いて困ったような顔をした。俺もだ、俺も困惑している。

 だって、映っていたのはシズクだったのだから。
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