深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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「いひひひひっ、見たな……? あたしの記憶を見たな?」
「くそっ……起きたぞ!」

 魔人リンの膨大な記憶をごく短時間で取り込んだせいか、刺すような頭の奥が痛む。それに加えてシズクが映っていたというよく分からない事態に困惑しているというのに、リンはゆらゆらと海に浮かび、怒りを露わにして今にも攻撃しそうな雰囲気を醸し出している。

「待て! シズクを知っているのか!?」
「シズ……? いひっ、時間稼ぎしようとしたって無駄だ」

 シズク、という名前には本当に心当たりが無いようでリンは怪訝な顔をした後、すぐに気を取り直して、こちらを睨み付けてくる。その目に含まれる、苛立ちと怨みに俺は気圧された。

「ここからは本能じゃなくて殺意、いひひひっ……覚悟しな。いひひひひひひっ!!」

 対話へ持ち込もうとしたが失敗に終わり、完全に自身の意思でこちらを殺そうと覚悟を決めたであろうリンは片手を真上に、片手を俺たちに向ける。
 そして、スキルを発動した。

「<水獄ウォーターヘル><夢顕メモリージェネレイト>」

 瞬間、ドォォン──という轟音と共に直径にして10メートル程度の広さの『セーフゾーン』、それを取り囲むように海底が下がった。完全に逃げ場を塞がれた形となる。
 俺がマサトの方に目をやると、マサトは「何もしていない!」と叫んだ。つまり、リンがわざと俺たちを避けて海を落としたということだ。

 その真意は掴めないが、それでも取り敢えず短期決戦に持ち込もうと考え、<隠密ハイド>を発動させようとする。

「<ハイdっ」

 が、無視できない頭の違和感にそれは中断された。

 ── ……ん? なんだ!?

 突然、頭が引っ張られるような感覚に襲われたのだ。俺がそれに驚くのも束の間、ぶちっ──という音と共に、何か黒いどろどろした物が俺の頭から飛び出した。
 いや、俺だけじゃない、リカからもマサトからも同じように黒いどろどろが抽出されて、意志を持ったようにそれらは俺たちとリンの間で集まる。

「なっ……!?」

 リカもマサトも頭に手をやりながら、俺と同じように戸惑いの表情を浮かべている。やがて、それらは集まり膨らんだかと思えば、3つに分かたれ、さらに膨らんで何かの形を作っていった。

 そこに向かって、リカは冷静に杖を向ける。

「黙って見てやる義理はないのぉ、<礫岩砲ロックランチャー>!」
「……<風握エアハンド>」
「確かにな、<烈爪フィアスクロー>!」

 明らかに危険な雰囲気にリカが先手を取って、巨岩を高速でどろどろにぶつけた……が、ただ貫通しただけに終わった。続くマサトの圧縮も、俺の爪の斬撃波も全て水を殴っているかのように、すり抜けて有効打にならない。

「いひひっ……記憶にそんなものが効くわけないだろう!」

 気味の悪い笑みを浮かべながらリンはそう叫んで、そのまま少し離れた場所まで泳いでいった。分かってやっているんだろうが、そうされると本体を攻撃するのが不可能となる。怒りに囚われているかと思いきや抜かりない行動に、俺は心の中で舌打ちをした。

「リューロ、奴よりも前だ!」
「あぁ、分かっ……はっ!?」

 リカの叫びに俺は上を泳ぐリンから目を外し前方を見る。そして、先の3つのどろどろを再び視界に収めるはずだった。なのに、そんなちっぽけな物はどこにも無い。代わりに化け物が三体佇んでいた。

 向かって左、真っ赤な鱗と鋭い眼光、吐く息すらも燃えるように熱いソイツにまず目を奪われる。鋭い爪を光らせながら、巨体をもって俺たちを見下ろすソイツはドラゴンだった。神話級の魔物、数々の転生者を屠り、国を滅ぼした災害だ。
 向かって右、馴染みのある鶏の頭をずっと見ていたくなるが、目を合わせるわけにはいかないが故に、その非現実的な胴体に視線を動かさざるを得ない。鶏の頭、蛇の頭に龍の翼、完全にこの特徴はコカトリスだ。石化の殺人犯、不治の呪いを操る超危険モンスターだ。
 そして正面、八つの長い首をうねうねと動かして俺たちを値踏みするかのようにめつける。八つ首の大蛇、それぞれの口からは長い舌が別の生物かのように伸びていて、さらに毒液のようなものを吐き出している。

 正面の魔物に関しては、こんなのは父からも冒険譚でもギルドでも聞いたことがなかった。だが、隣のマサトとリカは知っている様子で、そこから推測されるに恐らくは2人の記憶から作られたもの、転生者が元いた世界の魔物なんだろう。
 
「<鑑定アプレーザル>っ! ……ダメだ、『記憶から作られた生物』としか出てこない!」
「魔法もスキルも効かんとはのぉ……」

 ──絶望的、だ。

 焦るマサトとリカを見てそう思ってしまう。
 『代償成就』では、仲間の一人の死でここを脱出できるらしいが、それは選択肢が無いのと同義だ。転移も、この階層はどこに行っても海だから使えない。
 海に出ても死ぬ、ここに留まっていても死ぬ。完璧に手詰まりに思えた。

「勝った……いひっ、いひひひひひひっ!!!」

 海自体が発しているかのように、リンの笑い声は『セーフゾーン』に居る俺たちに対して全方向から重複して聞こえてくる。その悪趣味な声と目の前の死に俺は気が狂いそうだった。

「……いひひひひひひひhっ……えっ?」

 が、突如として笑い声は止まった。それと同時に三体の魔物も溶けていき、俺もリカもマサトも突然の異変に上を見る。

 まず目に入ったのは、時間が止まったかのように硬直しているリン。そして次に彼女の腹を貫く1本の長剣。最後に、その剣を持つリンの背後に立つシズク。
 
「えっ……エイミー? なんdっ」

 ──ぶすっ、ぶすっ、ぶすっ、ぶすっ。

 水中じゃなければこんな音が聞こえたんだろう。
 それ以上リンが何かを口走るのを防ぐかのように丁寧に、それとも楽しんでいるかのように執拗に、シズクはリンに剣を突き刺す。刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す。

 貫かれる度に反応していたリンの身体も次第に鈍くなり、海は真っ赤に染まっていった。そしてその始終を俺たちは何もせずに、ただ口を開けて見るだけだった。


***


「はい、握手。ギリギリ死んでないから」
「え?」

 シズクは脱力したリンを片手で持ち上げて、海の中から降りて開口一番にそう言う。
 俺に転生者特典を受け継げ、と言っているんだろう。頭では理解していたが、その倫理観の欠如した行動が彼女のものとは思えず間抜けな返事しかできなかった。

 リンは友人じゃなかったのか。リンの記憶にはシズクの笑顔が沢山あったのに、どうしてこんなことが。殺すだけならそこまでしなくて良かったんじゃないか。

 思うところは山ほどあったのに、そのどれもが言葉に出来ない。それは衝撃のあまりなのか、それとも恐怖からなのか。見れば、リカもマサトも俺と同じように呆然としている。

「ちゃんと魔人の復活もから発生しないよ、だから……あ、く、しゅ!」

 俺はシズクの見た目をしたソイツに言われるがまま、既に生きているのか死んでいるのかも分からぬリンの手を一方的に握った。


ステータス 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
[リューロ・グランツ] 19歳 人族 男
レベル 70
体力 S
魔力 SS
膂力 S
俊敏性 S

スキル 
<逃亡エスケープ>< 疾走スプリント ><軽量化ウェイトリダクション><隠密ハイド><治癒ヒール><反転リバース><対象変更ターゲットチェンジ><鑑定アプレーザル><瞬歩><クナイ><空中歩行><烈爪フィアスクロー><盾空エアシールド><爆哮バーストロア><封印クローズ><開放オープン><波撃タイダルインパクト><渦烈槍ヴォルテックスランス><水獄ウォーターヘル>

称号
[転生者の篝火]⋯ 転生者と出会い導く運命を神に与えられた者の称号。その篝火を灯せば転生者は正しく道を歩み貴方に感謝するだろう。その篝火を消せば転生者は霧の中を彷徨い、全ての力は貴方の手の上のものになるだろう。

転生者特典
『超回復』『忍びの術』『魔道の極み』『代償成就』『水操術』

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