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波間
信用
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魔人リンがシズクによって殺され、魔人の生態通り光の粒となって消えた後。
シズクと正常な意識の状態のマサトが出会うのは初めてだったので、まずは二人の自己紹介をすることになった。と言ってもほとんど名前を名乗るだけのものだったが。
「じゃ、同じ故郷のよしみだし、よろしくねマサトさん」
「……」
自己紹介の締めとして、ほとんど一方的にシズクがマサトの手を取ってそう言い、マサトはいつにも増してそれを無表情に受ける。
「じゃあ……お互い誰か分かったところで、今まで何があったか情報共有でもするか」
「おっけー、じゃあ私から言うね」
やや食い気味に、シズクが俺の提案に乗っかる。
そこには、俺やリカが何かを言うのをシズクが嫌がったような雰囲気も感じられたが、どちらにせよ彼女の身に何があったかは知りたいところなので、俺もリカも何も言わなかった。
「6層で、天変地異みたいになったのは私のせいなんだ」
シズクは申し訳なさそうに首をすぼめる。
「リカさんもリューロさんも何となくは気付いてるかもだけど、『世界図書』を<奪力>で継承して、その力が暴走したの。ホントに酷い副作用だったよ」
頭痛が~、大量の情報が~、知らない言葉が~、沢山の数字が~、色んな声が~、とか思い出すのも嫌といった顔で今も続くらしい自身の不調を口をへの字にして次々に訴えるシズクは、いつも通りの彼女らしくて俺はちょっと安心する。
「結局、あの少年はどうなったんだ?」
「……亡くなった。それがあの子の望みだったからね」
そう言ってシズクは目を下にやって少し寂しそうに微笑む。儚げなその表情からは、ついさっき魔人リンを殺した時の片鱗はひとつも窺えなかった。
「そうか……」
「ふむ、結局あの少年はなんで死にたがっていたんじゃ?」
今度はリカが俺の隣から聞く。が、シズクはその問いに力なく首を横に振った。
「分からない。ただ転生者特典に苦しめられていたのは事実だと思う。生まれてからほとんど寝たきりだ、って言ってたし……」
「なるほど……それが動機だとして、リューロかシズクを自殺の相手に選んだのは能力を残すためかもしれんの。『世界図書』ならば転生者特典を引き継げる相手も簡単に探せるじゃろうしな」
そう言いながらもリカは首を捻っていた。あまり自殺の動機に納得出来ていないのだろう、俺も同感だ。
アレはもっと積極的な死だった。それにあの掴みどころのない少年が、そんな理由で死ぬともあまり思えない。が、分からないものはいくら考えても分からないのだ。
俺は考えるのを辞めて、今度は俺たちの話をしようと口を開いた。
「俺たちは直ぐに7層に逃げて──」
「待て」
マサトが手で俺が喋ろうとするのを制する。
「信用、出来ない」
名を名乗って以降は沈黙を貫いていたマサト、彼がきっぱりと言ったその一言で、『セーフゾーン』内に一気に緊張が走った。
「あんな風に知った人間を殺すような狂った奴に俺の能力を知られるわけにはいかない」
「ちょっ、そんな言い方はっ……」
いくら何でも言い過ぎだろう、と俺がシズクとマサトの間に割って入って止めようとするが遅かった。
「っ……じゃあリューロさん達を見捨てたら良かったの!?」
「……」
シズクの悲痛な叫びも、マサトは無視する。
「私だって……リンとは親友だったのに……!」
消え入りそうな声で、肩を震わせてしゃくりあげながらシズクは、一つ二つと涙を零す。
「ああしなきゃ……リンは、リンは止まらないんだもん……っ!」
とめどなく涙を流す彼女を見て、俺は自分の過ちをようやく自覚した。
そうだ、俺はリンの記憶を見たじゃないか。
シズクが何度も何度も植え付けられた本能によって暴走するリンを必死で止めるところを。シズクとリンが本当に仲良く話しているのを。
恐らくは百年間の中、リンだけがこのダンジョンの中で友人だったんだろう。そんな親友を斬って、俺たちを助けてくれたのに、シズクを俺は少しでも怖がってしまっていた。
──恥ずかしいな、浅はかな自分が。
気付けば俺はシズクに頭を下げていた。
「悪かった、シズク。俺もお前のことをちょっと疑っていた……が、それは間違いだったと今は思ってる。だから悪かった」
「うん……」
「でも、マサトの考えも分かる。だから、マサトの能力については話せない。大丈夫か?」
「うん……」
シズクは、子供のように顔を伏せたまま頷く。まだ体はしゃくりあげて震えていたが、一先ずは彼女も落ち着いたようで俺も安心する。
「あー……わしはちょっと野暮用が出来た。一旦ダンジョンから出る、直ぐに戻るがな」
そんな気まずい空気から逃げるように、リカは虚空にそう呟いて『セーフゾーン』から出ていき、数秒後に自爆音が響いた。
シズクと正常な意識の状態のマサトが出会うのは初めてだったので、まずは二人の自己紹介をすることになった。と言ってもほとんど名前を名乗るだけのものだったが。
「じゃ、同じ故郷のよしみだし、よろしくねマサトさん」
「……」
自己紹介の締めとして、ほとんど一方的にシズクがマサトの手を取ってそう言い、マサトはいつにも増してそれを無表情に受ける。
「じゃあ……お互い誰か分かったところで、今まで何があったか情報共有でもするか」
「おっけー、じゃあ私から言うね」
やや食い気味に、シズクが俺の提案に乗っかる。
そこには、俺やリカが何かを言うのをシズクが嫌がったような雰囲気も感じられたが、どちらにせよ彼女の身に何があったかは知りたいところなので、俺もリカも何も言わなかった。
「6層で、天変地異みたいになったのは私のせいなんだ」
シズクは申し訳なさそうに首をすぼめる。
「リカさんもリューロさんも何となくは気付いてるかもだけど、『世界図書』を<奪力>で継承して、その力が暴走したの。ホントに酷い副作用だったよ」
頭痛が~、大量の情報が~、知らない言葉が~、沢山の数字が~、色んな声が~、とか思い出すのも嫌といった顔で今も続くらしい自身の不調を口をへの字にして次々に訴えるシズクは、いつも通りの彼女らしくて俺はちょっと安心する。
「結局、あの少年はどうなったんだ?」
「……亡くなった。それがあの子の望みだったからね」
そう言ってシズクは目を下にやって少し寂しそうに微笑む。儚げなその表情からは、ついさっき魔人リンを殺した時の片鱗はひとつも窺えなかった。
「そうか……」
「ふむ、結局あの少年はなんで死にたがっていたんじゃ?」
今度はリカが俺の隣から聞く。が、シズクはその問いに力なく首を横に振った。
「分からない。ただ転生者特典に苦しめられていたのは事実だと思う。生まれてからほとんど寝たきりだ、って言ってたし……」
「なるほど……それが動機だとして、リューロかシズクを自殺の相手に選んだのは能力を残すためかもしれんの。『世界図書』ならば転生者特典を引き継げる相手も簡単に探せるじゃろうしな」
そう言いながらもリカは首を捻っていた。あまり自殺の動機に納得出来ていないのだろう、俺も同感だ。
アレはもっと積極的な死だった。それにあの掴みどころのない少年が、そんな理由で死ぬともあまり思えない。が、分からないものはいくら考えても分からないのだ。
俺は考えるのを辞めて、今度は俺たちの話をしようと口を開いた。
「俺たちは直ぐに7層に逃げて──」
「待て」
マサトが手で俺が喋ろうとするのを制する。
「信用、出来ない」
名を名乗って以降は沈黙を貫いていたマサト、彼がきっぱりと言ったその一言で、『セーフゾーン』内に一気に緊張が走った。
「あんな風に知った人間を殺すような狂った奴に俺の能力を知られるわけにはいかない」
「ちょっ、そんな言い方はっ……」
いくら何でも言い過ぎだろう、と俺がシズクとマサトの間に割って入って止めようとするが遅かった。
「っ……じゃあリューロさん達を見捨てたら良かったの!?」
「……」
シズクの悲痛な叫びも、マサトは無視する。
「私だって……リンとは親友だったのに……!」
消え入りそうな声で、肩を震わせてしゃくりあげながらシズクは、一つ二つと涙を零す。
「ああしなきゃ……リンは、リンは止まらないんだもん……っ!」
とめどなく涙を流す彼女を見て、俺は自分の過ちをようやく自覚した。
そうだ、俺はリンの記憶を見たじゃないか。
シズクが何度も何度も植え付けられた本能によって暴走するリンを必死で止めるところを。シズクとリンが本当に仲良く話しているのを。
恐らくは百年間の中、リンだけがこのダンジョンの中で友人だったんだろう。そんな親友を斬って、俺たちを助けてくれたのに、シズクを俺は少しでも怖がってしまっていた。
──恥ずかしいな、浅はかな自分が。
気付けば俺はシズクに頭を下げていた。
「悪かった、シズク。俺もお前のことをちょっと疑っていた……が、それは間違いだったと今は思ってる。だから悪かった」
「うん……」
「でも、マサトの考えも分かる。だから、マサトの能力については話せない。大丈夫か?」
「うん……」
シズクは、子供のように顔を伏せたまま頷く。まだ体はしゃくりあげて震えていたが、一先ずは彼女も落ち着いたようで俺も安心する。
「あー……わしはちょっと野暮用が出来た。一旦ダンジョンから出る、直ぐに戻るがな」
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