深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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最終章?

時間

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 俺たちが飛ばされたのは、観客の居ない闘技場だった。上を見ても真っ暗なことから未だに地下ではあるのだろうが、それが信じられないほどに闘技場は広い。その中心に俺たちは消失させられていた。

「クニヒコ、左の二人はお前だ。やれるな?」

 正面で、ウォーカーは背中を見せてクニヒコに話しかける。一見、隙にしか思えない態度だが、攻撃に入ろうとした途端に殺気が放たれて動けなくなる。

「まぁ時間稼ぎくらいならギリって感じすわ。もうほとんど使しもうてるんやけど」
「はっ、そのぐらい持ちこたえてみせろ」
「はいよ。<消失ヴァニッシュ>」

 クニヒコが詠唱して姿を消すと同時に隣に居たミレイとマサトの二人も一瞬にして消える。だが、驚きは無い。会話からこうなることは推測がついていた。

 そして、体を縛っていた殺気の拘束も解ける。隣で、右脚を大きく前に出して姿勢を低くし、駆け出せる体勢を取ったシズクは狂気的な笑みを浮かべていた。

「さて、俺の相手はお前ら二人ということだが、先に言っておこう」
「……<超加速ハイパーアクセラレート><筋力強化ストレングス><俊敏強化アジリティ>」
「神の御名において、俺はお前らを討つ。神意に刃向かう愚かな反逆者共よ」
「……<抵抗力強化レジスタンス><体力強化スタミナ><知覚強化プロセプション><幸運強化ラック><神具召喚サモンミシックウェポン>、ミョルニル、デュランダル」
「覚悟を決めろ」

 シズクが呟くように自己強化の類のスキルを多重発動させる中、ウォーカーはその片脚を少しだけ上げ、ドォンッ!! ──と、地を踏み抜いた! 一秒にも満たない時間、地面が粉々に崩壊し、闘技場の更に下にあった空洞に、ウォーカー諸共俺たちは自由落下していく。

 真下を見れば、底が見えないほどに奈落。このまま落ちれば確実に死ぬであろう高さだ。

 そんな中シズクは独り、瓦礫を器用に蹴って上へ上へと一瞬にして移動していった。眼球では追えるが、一度でも視界から外れれば、もう二度とその姿を捉えられない程の速度。さながら雷のようだった。

 ──俺もなんとかしなければ……!
 
「っ<重力操作グラヴィティ>!」

 何度も使ってきた<重力操作グラヴィティ>、今度は対象を人間ではなく空間全体に、一瞬だけ重力方向を上にして慣性を消したあとに無重力にする。それによって、俺の周り半径10メートルほどの瓦礫ごと、完全な落下しない状態となる。
 
 ホッと息をついたのも束の間、全身の毛が逆立つ。これは殺気!? しかも、後ろから!!

「っ<盾空エアシールド>!!」
「チッ……運がいい」

 瞬間的に、振り返りながらも後方に防御を展開する。と、そこに居たのは、ウォーカーだった。まさに首を掴むように、少し開いた手が俺の首筋を掠めて、そのまま超速でウォーカーは無重力圏を抜けていく。

「っ!? いてぇっ!」

 数瞬の出来事、何が起こったのか理解したのは、自分の首の肉が抉り取られた痛みを感じてからだった。

 ウォーカーが攻撃を、もっと言えば直接的な物理攻撃を外すとは思えない。恐らくだが、急に無重力になったせいで方向転換が出来なくなったんだろう。だから。落下に対して、俺が<空中歩行>を発動していたら死んでいた。偶然、死ななかったに過ぎなかった。
 
「<雷槌トールハンマー>!」

 重力圏から抜けたウォーカー、奴に対してシズクは上から攻撃を仕掛ける。その速度はウォーカーと引けを取らないものだ。片手でミョルニルを投げながら、デュランダルを前方に構えて、シズクはウォーカーに迫っていく。

「<波撃タイダルインパクト><魔法剣>!」

 ウォーカーの後ろに位置する俺は、上からの攻撃に対処にしなければならない奴の背中刺すように、多量の水を暴流として放ちながら、更にそこに魔法剣を織り交ぜる。

 シズクの手にあった時は普通のハンマーの大きさだったミョルニルは、宙を舞ってウォーカーに近付くにつれて急速に巨大になっていった。バチバチと周りの空間にすら雷の閃光を纏わせるその巨大な槌は、最終的に人間の十倍ほどの大きさになって、ウォーカーを襲う。

「直接的な世界関与は無いとは言え……神の名を用いて攻撃されるのは癪に障るな」

 が、しかし、それをウォーカーは。ミョルニルの頭を、手のひらを広げて、だ。

「なっ……!?」

 回避もしなければ、防御スキルも発動しない。ただただ肉体ひとつで神器であるミョルニルを止められたことに、俺は動揺する。だが、シズクはそれすらも想定内だったかのように、ミョルニルで塞がっている方の腕を落とすように、デュランダルで鋭い一撃を放った。

「こっちが本命か」

 ウォーカーは呟きながらも、ミョルニルを簡単に振り回し、俺が放った<魔法剣>と<波撃タイダルインパクト>を散らしてから、一周させてシズクの体ごと吹っ飛ばす。

 ハンマーの頭の部分に手をべたっと付けていただけなはずなのに、なぜ振り回せる? そう思って、よくよく目を凝らせばウォーカーはミョルニルの頭の部分に、指を刺していた。腕は焦げ、黒く変色しているがウォーカーは顔色ひとつ変えていない。

「<治癒ヒール>」

 吹っ飛んできたシズクを、俺はキャッチし回復させる。通常ならば即死するレベルの衝撃だったはずだが、デュランダルを上手く使って防いだようで、幸い生きていた。そして生きていれば、俺が治せる。

「ありがと、リューロ」

 それだけ言って、完全治癒したシズクは直ぐにまたウォーカーに立ち向かっていく。

「<眷属召喚サモンサーヴァント>、アラクネ! リューロ、アラクネが落ちないようにお願い!」
「了解! 『代償成就』、レベル5を犠牲にアラクネに浮遊効果を付与!」

 アラクネの落下が俺の能力によって、完全に停止する。

「<神具召喚サモンミシックウェポン>、如意棒!」
「まだ来るか、懲りねぇnっ──」

 余裕の表情で煽るウォーカー、そんな奴が初めてその態度を崩す。シズクがウォーカーの右指を切り落としたのだ。その圧倒的速度によって。

 ミョルニルが虚空に落ちていった。

「チッ……今まで手ェ抜いてたな、お前」
「本気を出したなんて言ってないからね」

 そう、恐らくだがシズクは今までワザと速度を落としていた。自分の最高速度を誤認させるためだけに。だから、ウォーカーは本気を出したシズクの速度に対応できなかった。

 そして、その一瞬の動揺を見逃すシズクではない。

「<壊弾ディストラクション><壊弾ディストラクション><壊弾ディストラクション>!」

 連撃、連発、連撃、連発。今まで見たことが無いほどの速度と身のこなしでシズクはウォーカーを攻撃し続ける。右手でデュランダルを振るい相手の回避を強制させながら、左手に持つ如意棒が、回避によって生まれた隙を的確に突いていく。

 接近戦がゆえ速度のアドバンテージは失ったが、しかし新たに下からのアラクネの攻撃が増えたことが大きかった。

「<身体改造キメラ>!」

 更に、ダメ押しと言わんばかりに、シズクはスキルを発動させる。

 ──って、なんだアレは!?

 シズクの背中から新たに二本の腕が生えてきている!?

「人の身を捨てたか……っ神敵に相応しい外見になったなぁ!」
「お前を殺せたらどうでもいい!」

 新しく背中から生えた二本の腕、そこからも絶え間なく即死級のスキルをもぶつけ続ける。ウォーカーが避けたものが、まだ残っている闘技場の端の地面にぶつかる度に、そこが崩落していった。

「くそが……」

 ウォーカーは悪態をつきながら、ポケットに手を突っ込む。絶体絶命に圧されている時に取る怪しげな行動、それが俺はどうしようもなく危険な気がした。だから、反射的に右手を前に向けていた。
 
「<封印クローズ>っ!!」

 咄嗟の判断だ。が、どんな奥の手をウォーカーが用意しているか分からない。であれば、発動前に全て封印してやればいい。

「あ……? お前、それはなんだ? <記憶視メモリームービー>」

 切り札を奪われてウォーカーが絶望的な表情をする、と俺は思っていた。が、しかしウォーカーは俺の<封印クローズ>を見た途端、そう呟いてスキルを発動させる。

 さっきまでシズクの攻撃を正面から受けていたのに、わざわざ途端に回避し距離を取って、だ。

 シズクは必死の表情で追いかけ、さらにアラクネも俺も弾幕を下から浴びせるのだが、しかし回避に徹したウォーカーに誰も追いつけなかった。

「は? お前、転生者の血を引いているのか……!? あぁ……そういうことか。ふはっ……ふはははっ!!」

 ウォーカーは笑う。何を視たのか分からないがウォーカーは心底楽しそうに、笑う。

「お前、?」
「……? 何の話だ」

 シズクから逃げながらも、ウォーカーは俺の周りを回ってニヤニヤと話しかけてくる。

「そこの女の本性は知らないだろうと思っていたが、まさか使命すらも知らないとは……ははっ、いやぁ全く完全に騙されていたとは……なんて愚かなんだ!」
「そこの女……? なんの話しをしている!?」
「しかし、ならば勝機は見えたか。仕方ない、一回しか使えないんだが……<時間支配クロックフォース>」

 そして、時間が止まった。

 俺とウォーカーだけを残して。
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