深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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『最終章』

深きダンジョンの奥底より

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「……?」

 転移特有の閃光が消えたと同時にエイミーの目に映ったのは、俺がウォーカーやクニヒコと共に彼女を見下ろす景色。場所はやはり共和国の地下深くに作られた闘技場のような空間だ。

「『世界図書』<人生譚ライフブック>」
「なっ」

 足枷が爆破したことによる負傷を意に介さずエイミーは俺を目にした途端に、俺に対して『世界図書』を発動させ、その情報に逡巡しながらも目を丸くしたのが見えた。困惑しながらも最適解を取る彼女にクニヒコは後ろから駆け寄る。

「これ以上好き勝手させるわけにはいかんなあ、<ヴァニッ──」
「<回帰リカージョン>」
「──シュ>」

 能力の効果範囲まで接近したクニヒコが<消失ヴァニッシュ>を発動させた

 ……がしかし、それがエイミーを消失させることは無かった。

「篝火が二人、転生者が一人か。それじゃあ私も本気を出さないとね」

 それどころか、足枷の爆発で全身から出血していた全てが治療され、服すらも元通りになっている。さらにいつの間に召喚したのか、エイミーの片手には大剣が握られていて、切っ先が地面に刺さっていた。

「あれ、奴に回復能力は無かったんやないの?」
「その可能性が高いと言っただけだ。俺も初めて見……いや、あの時使っていたアレか!」

 少し考え、直ぐにその聞き覚えのあるスキルの発音に記憶が鮮明に蘇る。完全に失念していた。ユミと戦っていた時、確かにエイミーは破れた俺の鼓膜を治しているじゃないか!

「無駄口を叩いている暇も無い。それにどちらにせよこちらに数の利はある」
「まぁ……確かに、そうやなぁ」

 ウォーカーの言葉にクニヒコが同意する。そこからは圧倒的な暴と暴のぶつかり合いだった。

 近接戦においては他の追随を許さないウォーカーがひたすらに殴り蹴り殴り、それら全てをエイミーはバックステップしながらも棒立ちで<鉄壁インヴィンシブル>のみで涼しい顔をして防ぐ。エイミーも反撃を行う構えを見せるのだが、武器を持とうものなら全てクニヒコと俺が片っ端から『消失』させ、スキルで攻撃しようとすれば俺が『停滞』させる。それでも物量でこの防御陣を押し切られそうなら、<封印クローズ>などの俺の持つ盾や支援となる能力『風固定』『強度変更』『水操術』<盾空エアシールド><重力操作グラヴィティ><樹鎧ウッドアーマー>で全力で前衛となるウォーカーを守りきる。あまりにも危うい場面ではクニヒコがウォーカーを短距離だけ消失させて、回避させる。

「<眷属召喚サモン>、アラクネ!」
「「<消失ヴァニッシュ>」」
「チッ……」

 味方を呼んだと同時にどこかへ飛ばされたエイミーは舌打ちをする。下を向いたまま肩を上下させる彼女は相当に疲労しているように見える。ウォーカーがすかさず追撃しようと、拳を振り上げる。それと同タイミング、彼女は片腕を縦に思い切り振ってこう叫んだ。

「なんてね。<空斬ディメンションカット>!」

 視界が歪んだと思えば、次の瞬間にはエイミーはクニヒコの眼前まで迫っている。空間ごと切って距離そのものを無効化したんだ、と俺が理解した時にはもう遅い。エイミーは手を真っ直ぐにクニヒコへと向けて、攻撃を放つところだった。

「まずは一人、<ライトニっ」
「──<結円コネクト>」
「……っ゛!?」

 突如としてエイミーの目の前に現れた点と点を繋ぐゲートの出口。入口は俺の目の前で、それを発生させたのはこの戦場には居なかったはずのメイラだった。突然の出来事にエイミーは口を開け、何も言えずにいる。というか発声が出来ない。

「それはクニヒコじゃないぜ」

 俺の言葉と同時に、クニヒコの体が崩れていき、代わりにメイラが姿を現す。『変装』という転生者特典を<対象変更ターゲットチェンジ>によって、他人に付与する。俺は、これによりメイラの姿と能力を完全にクニヒコと変えていた。本物のクニヒコは現在アズサと共に帝国軍を抑えてくれている。

「ぁ゛……あ゛……」
「苦しいだろうな、息が出来ないのは」

 俺はタカダマサトから継承した<空埋めエアストラングル>を既にゲートに向かって発動させていた。エイミーの周りを覆うように、一分の隙もなく空気の壁で囲い込めば、それは酸素の供給を経つ不可視の棺桶となる。

「なぜ、あの少年がわざわざタカダマサトを蘇生したのかを考えていた」

 その理由は、ついさっきダンジョン内で< 鉄壁インヴィンシブル >を理解するまでは全く見当もつかなかったが、それでも決めるなら『風固定』だという直感はあった。だから、前衛であるウォーカーを支える後衛がわざと注意を引き、それに痺れを切らしたエイミーが俺かクニヒコの姿をしているメイラを狙った瞬間に仕掛ける、これはウォーカーとひとつ前の世界で決めたことだった。

「一見、無敵にも見える<鉄壁インヴィンシブル>……だが、透明で認識不可能な空気を、呼吸に必要な空気に対して、お前はどうしてその侵入を拒める?」

 エイミーは必死にもがき、空気の壁を壊そうとするが、俺がその度に<封印クローズ>と<停滞リポーズ>を使って妨げる。あまりにも呆気ない結末、しかし初めから、この戦場にエイミーを一人でおびき寄せた時点でほとんど勝ちは決まっていた。前回の敗因さえ取り除いてしまえば、それはそれほど難しいことじゃないんだ。戦力自体ではこちらの方が上回っている。

 やがてエイミーは完全に動きを止めた。全身を脱力させ、首は下を向いている。生気を失ったように見えるその姿に、俺を含め誰もが息をついたその時、彼女は口を開いた。

「  」

 発音は出来ない、ただ口を動かしただけだが、俺はそれに明確な死のイメージを抱く。加えて、エイミーのこちらを見て笑うその表情は邪悪そのもので、俺は心臓が凍りつくのを感じた。そして次の瞬間、俺は空間が揺らめいているのに気付く。まるで何か強大な力を必死に押さえつけているかのような……

「逃げっ──」
「っ<盾っ空エアシールド>!!!!」

 世界全てを塗り替えるのではないかと錯覚するほどの熱と光の膨張に俺は直感する──防げない、と。エイミーとこのまま心中するのも悪くないのかもしれないと、俺が諦めようとした時、何か黒い獣のような影が、凄まじい勢いでエイミーと俺の間に割り込んできた。それを見た瞬間にエイミーの顔は歪む。

「<盾空エアシールド>!」

 懐かしい声が、もう聞けるはずがないと思っていた声が聞こえたと同時に俺の視界は爆発の閃光に塗りつぶされ、そのままに体を爆風が襲った。なのに不思議と熱も痛みも無かった。

◇◇◇

リカ・ローグワイスへ

あれから世界の時間はなんら変わらず進み続けている。一度は帝国の手に落ちた魔道国も、帝国軍が壊滅させられたことによって解放された。今は復興の為に内閣の一人オウサ・ブラストの息子が指揮をとってるらしい。ウォーカーにはユリウスを殺すべきだと言ったんだが、それはそれで世界が不安定になるからとか言って断られた。ウォーカーは変わらず、クニヒコとアズサとエレナと潜伏しながら世界各地の転生者の情報を集めている。ひとつだけ変わったのは、転生者を直ぐに殺すことは辞めたという点だ。本当に篝火による死という惨いやり方でしか、転生者の魂を元の輪廻に返せないのか、最近俺はずっとそれを研究していて、魔道国とかミレイやマサトにも協力してもらってるんだ。俺を最初に裏迷宮に追い込んだミノタウロスの魔力の残滓を調べたら面白いことが分かってな、今はもっぱらそれの研究に夢中だ。
君の残した国は立派に未来へと進み始めた、だから心配しなくていい。
いつか君の世界と俺たちの世界が安全に交わることを信じて、この手紙を書き残す。

                リューロ・グランツ
                深き階層世界ダンジョンの奥底より
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