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『最終章』
転移
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「ほら、なんにも心配すること無かったでしょ?」
最深部、転移陣が中央に鎮座する大広間に着いた先頭のエイミーはそう言って、くるりと振り返った。
「あぁ……本当にな」
「あんなに強いのに、ホントにアタシ達は必要なのかい」
ミレイが零すように呟いたその言葉の通り、エイミーにとってダンジョンの魔物ぐらいならば俺たちなんて必要ないだろう。自らの他者に転嫁した自傷行為的欲求を満たすため、そしてウォーカーという強大な篝火を殺す協力者としてだけ、俺たちは存在しているのだ。
「ま、相手が篝火ってなるとキツいからね」
「ふーん。ま、アタシらはユリウス様の役に立てればなんでもいいんだけどさ。あんなスキルがあるなら、ここまでもっと簡単に来れたよね」
ミレイが少し不満げに口を尖らせて言う『あんなスキル』とは、廊下に並ぶ魔物を寄せ付けないほどに蹂躙し尽くしたスキルの数々だ。それらは今まで見たことがないスキルで、エイミーも徐々にギアを上げてきているのだろうと俺は推測した。
問答無用で相手を破壊し、その破壊の数だけ自身のあらゆるステータスが上昇する『壊楽』。範囲内の影から自由自在に攻撃を繰り出せ、またその攻撃の斬撃の黒からも攻撃を発生されられる『闇刀』。それら二つの特典を淡々と発動するだけで、エイミーは廊下に並ぶ百体以上の魔物を倒していった。
そして最も俺が驚き、さらに絶望を感じたのは、エイミーが常時発動していた防御スキル<鉄壁>だ。それは、あらゆる攻撃を絶対に通さないというもので、ウォーカーが以前に見せてくれた特典の中には無い未知のものだった。もちろんあのリストに穴がある可能性は俺もウォーカーも承知の上だったが、その穴があまりにも大きい。
──どう突破するか……。
「どうしたの? そんなに深刻そうな顔をして」
俺が頭を悩ましていればエイミーは少し不思議そうに覗き込んでくる。
「い、いや。それよりも足枷を外そう」
「それもそうだね。脱出が最優先だ」
エイミーは俺の言葉に頷きながら、マサトに向かい合う。
「マサトはミレイを守ってあげて、できるだけ遠くでね」
「あ、あぁ。『足枷』というのは……なんだ?」
「んー、説明は後でいい? 急ぎたいし」
マサトはそれに頷き、ミレイを連れて再び廊下の方へと出ていき、広間側に空気の壁を防御として張った。
「あっ枷を外すなら<鉄壁>を解かないとね。自動的に発動するから」
「自動発動なのか」
「そーそ、私が認識した攻撃を無意識のうちに弾くんだよ」
「ふーんなるほどな……よし、攻撃するぞ」
「うん」
<鉄壁>を解除したらしいエイミーは頷く。今なら俺一人でもエイミーをやれるかもしれない、と一瞬考えたがやはりミレイとマサトの邪魔が入る可能性を考えれば得策では無いように思えた。
「<烈爪>」
絶対に外さない距離まで近付いた上で、俺が右腕を振るえば、四本の爪から斬撃波が放たれる。それは真っ直ぐにエイミーの足首へと残像を描き、
──ドォン!!!
エイミーの足元で輝く足枷にぶつかった。
それを脳が認識するよりも早く、爆発が俺とエイミーの体を襲う。この容赦ないウォーカーの殺意が込められた爆発を食らうのは二度目、分かっていて覚悟を決めていたはずなのに、そんなものを簡単にぶち壊すほどの激痛に俺は顔をしかめる。
「かはっっ……ぁぁああ……!!!」
エイミーが声にならない悲鳴をあげながら、俺とは真反対の方向に吹っ飛ばされていくのが、定かでは無い視界の中でも見えた。
高熱が皮膚を焼き、肉を焼き、血を焼き、爛れさせる。また同時に鼓膜が破けたことで聴力は失われ、脳への振動のせいなのか視界も歪み、ぼやける。熱された空気が肺に入り、体の内から蝕んでいく。<烈爪>を放った最も足枷に近づいていた右腕の、その手首から先は無くなっていて、それに気づくのは、俺が壁に叩きつけられ、手を床につこうとした時だった。
「<治癒>……」
呼吸も絶え絶えだが、それでも死力を尽くしてスキルを発動する。
一瞬にして傷が癒え、感覚器官が復活すると共に思考もクリアになっていく。そんな中で見えた最初の景色が、俺の真反対で壁にうちつけられ血を吐くエイミーの姿だ。
──助けなければ!
治癒した手で体を起こして、俺は反射的にエイミーの元へと駆ける。走って、走って、距離にして15メートル程度だろうが、とても長く感じるほどに必死に走っ……
──いや……違う。俺は何をしようとしていた?
少しずつ足の回転が遅くなる、自分の矛盾に気付いたからだ。
「リューロ……助けて」
「ぁ……あぁ今、行く」
か細いエイミーの声、目もほとんど見えていないはずだがそれは真っ直ぐに俺に届く。だから俺はどうにかそれに返事をして遅くなっていた足の回転を再び速めた。
俺の足音にエイミーは顔を上げる、希望を携えた瞳をこちらに向けてくる。
だが俺はそんなエイミーにこう言った。
「回復は後回しだ」
「え、?」
「枷を外したことが何らかのトリガーになっているかもしれない。それに、いつエレナとか他のウォーカーの手先が来るか分からない。とりあえずここから転移するぞ」
「え……私、動けないよ?」
「<転移>」
俺は問答無用にエイミーの手を握り、自分ごと転移陣の真ん中へと転移させる。既にマサトとミレイも転移陣に移動してきていた。二人とも何が起こっているのか理解してはいないが、それでも今からこのダンジョンを脱出し、敵の本拠地に行くことは察しているらしく緊張した面持ちだ。
俺はエイミーの怪我を見るふりをしてしゃがみこみ、転移陣の式のうち、行き先を定義した一文を片手で血を使って書き換える。そして、立ち上がった俺はミレイとマサトの方を向き、
「<消失>!!」
二人を広間の端まで飛ばした。
「「っ!?」」
咄嗟のことで二人は反応できていない。もちろん爆発で視力をほぼ失っているエイミーも何が起こったのかすら理解していない。このまま、誰も何も理解していないうちに、右手を魔法陣に付けて俺は叫ぶ。
「<転移>!」
最深部、転移陣が中央に鎮座する大広間に着いた先頭のエイミーはそう言って、くるりと振り返った。
「あぁ……本当にな」
「あんなに強いのに、ホントにアタシ達は必要なのかい」
ミレイが零すように呟いたその言葉の通り、エイミーにとってダンジョンの魔物ぐらいならば俺たちなんて必要ないだろう。自らの他者に転嫁した自傷行為的欲求を満たすため、そしてウォーカーという強大な篝火を殺す協力者としてだけ、俺たちは存在しているのだ。
「ま、相手が篝火ってなるとキツいからね」
「ふーん。ま、アタシらはユリウス様の役に立てればなんでもいいんだけどさ。あんなスキルがあるなら、ここまでもっと簡単に来れたよね」
ミレイが少し不満げに口を尖らせて言う『あんなスキル』とは、廊下に並ぶ魔物を寄せ付けないほどに蹂躙し尽くしたスキルの数々だ。それらは今まで見たことがないスキルで、エイミーも徐々にギアを上げてきているのだろうと俺は推測した。
問答無用で相手を破壊し、その破壊の数だけ自身のあらゆるステータスが上昇する『壊楽』。範囲内の影から自由自在に攻撃を繰り出せ、またその攻撃の斬撃の黒からも攻撃を発生されられる『闇刀』。それら二つの特典を淡々と発動するだけで、エイミーは廊下に並ぶ百体以上の魔物を倒していった。
そして最も俺が驚き、さらに絶望を感じたのは、エイミーが常時発動していた防御スキル<鉄壁>だ。それは、あらゆる攻撃を絶対に通さないというもので、ウォーカーが以前に見せてくれた特典の中には無い未知のものだった。もちろんあのリストに穴がある可能性は俺もウォーカーも承知の上だったが、その穴があまりにも大きい。
──どう突破するか……。
「どうしたの? そんなに深刻そうな顔をして」
俺が頭を悩ましていればエイミーは少し不思議そうに覗き込んでくる。
「い、いや。それよりも足枷を外そう」
「それもそうだね。脱出が最優先だ」
エイミーは俺の言葉に頷きながら、マサトに向かい合う。
「マサトはミレイを守ってあげて、できるだけ遠くでね」
「あ、あぁ。『足枷』というのは……なんだ?」
「んー、説明は後でいい? 急ぎたいし」
マサトはそれに頷き、ミレイを連れて再び廊下の方へと出ていき、広間側に空気の壁を防御として張った。
「あっ枷を外すなら<鉄壁>を解かないとね。自動的に発動するから」
「自動発動なのか」
「そーそ、私が認識した攻撃を無意識のうちに弾くんだよ」
「ふーんなるほどな……よし、攻撃するぞ」
「うん」
<鉄壁>を解除したらしいエイミーは頷く。今なら俺一人でもエイミーをやれるかもしれない、と一瞬考えたがやはりミレイとマサトの邪魔が入る可能性を考えれば得策では無いように思えた。
「<烈爪>」
絶対に外さない距離まで近付いた上で、俺が右腕を振るえば、四本の爪から斬撃波が放たれる。それは真っ直ぐにエイミーの足首へと残像を描き、
──ドォン!!!
エイミーの足元で輝く足枷にぶつかった。
それを脳が認識するよりも早く、爆発が俺とエイミーの体を襲う。この容赦ないウォーカーの殺意が込められた爆発を食らうのは二度目、分かっていて覚悟を決めていたはずなのに、そんなものを簡単にぶち壊すほどの激痛に俺は顔をしかめる。
「かはっっ……ぁぁああ……!!!」
エイミーが声にならない悲鳴をあげながら、俺とは真反対の方向に吹っ飛ばされていくのが、定かでは無い視界の中でも見えた。
高熱が皮膚を焼き、肉を焼き、血を焼き、爛れさせる。また同時に鼓膜が破けたことで聴力は失われ、脳への振動のせいなのか視界も歪み、ぼやける。熱された空気が肺に入り、体の内から蝕んでいく。<烈爪>を放った最も足枷に近づいていた右腕の、その手首から先は無くなっていて、それに気づくのは、俺が壁に叩きつけられ、手を床につこうとした時だった。
「<治癒>……」
呼吸も絶え絶えだが、それでも死力を尽くしてスキルを発動する。
一瞬にして傷が癒え、感覚器官が復活すると共に思考もクリアになっていく。そんな中で見えた最初の景色が、俺の真反対で壁にうちつけられ血を吐くエイミーの姿だ。
──助けなければ!
治癒した手で体を起こして、俺は反射的にエイミーの元へと駆ける。走って、走って、距離にして15メートル程度だろうが、とても長く感じるほどに必死に走っ……
──いや……違う。俺は何をしようとしていた?
少しずつ足の回転が遅くなる、自分の矛盾に気付いたからだ。
「リューロ……助けて」
「ぁ……あぁ今、行く」
か細いエイミーの声、目もほとんど見えていないはずだがそれは真っ直ぐに俺に届く。だから俺はどうにかそれに返事をして遅くなっていた足の回転を再び速めた。
俺の足音にエイミーは顔を上げる、希望を携えた瞳をこちらに向けてくる。
だが俺はそんなエイミーにこう言った。
「回復は後回しだ」
「え、?」
「枷を外したことが何らかのトリガーになっているかもしれない。それに、いつエレナとか他のウォーカーの手先が来るか分からない。とりあえずここから転移するぞ」
「え……私、動けないよ?」
「<転移>」
俺は問答無用にエイミーの手を握り、自分ごと転移陣の真ん中へと転移させる。既にマサトとミレイも転移陣に移動してきていた。二人とも何が起こっているのか理解してはいないが、それでも今からこのダンジョンを脱出し、敵の本拠地に行くことは察しているらしく緊張した面持ちだ。
俺はエイミーの怪我を見るふりをしてしゃがみこみ、転移陣の式のうち、行き先を定義した一文を片手で血を使って書き換える。そして、立ち上がった俺はミレイとマサトの方を向き、
「<消失>!!」
二人を広間の端まで飛ばした。
「「っ!?」」
咄嗟のことで二人は反応できていない。もちろん爆発で視力をほぼ失っているエイミーも何が起こったのかすら理解していない。このまま、誰も何も理解していないうちに、右手を魔法陣に付けて俺は叫ぶ。
「<転移>!」
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