1 / 3
ひと紐目
しおりを挟む
ボクは地下鉄名城線『 栄 』の駅ホームに止まっていた車両の3両目後方の閉じかけた扉をすり抜け飛び乗った。
「 駆け込み乗車はおやめください! 」
全力で走り込み、息切れで心臓が痛いし、車掌の車内アナウンスに耳も痛い。
ボクは乗り込んだ扉付近で、荒ぶる心臓と乱れた呼吸を整える。
いつものように残業を終え、いつもの終電にギリ間に合ったところだ。
いつものようにボクの視界には、いつもの彼女が優先席と対面する座席にいた。
彼女は黒のスーツにパンプスそして、限定色のローズゴールドが上品に輝くスマートフォンのタッチ画面に、しなやかな指先を滑らせていた。
そんな彼女の『 あるモノ 』をボクは頻りに探している。表題を見ていただけているなら、既にお気付きであろう。
そう、『 紐 』だ。
彼女とは親密に付き合っているわけでも無く、お互いの名前も住んでいる場所すら知らないし、ましてや一言も話したこともない。
ただ、この最終列車が移動する数駅間の彼女とのやり取りは、この上なく有意義だった。知的な美貌と魅力的な容姿、そして官能的な香りを漂わせる彼女に、ボクは確実に虜となっていた。
事の始まりはこうだ。
その日もボクは最終列車で閉まる扉を前に全力で走りこみ、ギリギリですり抜けながら乗り込んだ。
まるで、ハリウッドのアクションスターさながらに。
息を切らしながらゆっくりと進む。
キンキンに冷えた車内が心地よく、一息ついた所で腰を下ろそうと座席を見渡した。
彼女がいた。
彼女は優先席の向かいの席に一人座っていた。
ボクは彼女の細く綺麗な指先で弄る、スマホの仕草が妙に妖艶で仕方がなく、その彼女の指先から目を逸らす事が出来ずにいた。
まるで恒星の引力に引き付けられる惑星のように、彼女の方へと無意識に引き寄せられて行った。
気付くとボクは彼女の前に下がる手摺りを掴んで立っていた。別な意味でも起立していたが、彼女がその部分に気が付く前に何とか制圧し対処した。
ボクは何故か、彼女の気を引こうと所かまわず何かを探し始めた。
そして、見つけたんだ。
彼女の漆黒なスーツに一際目立つ長さ5㎜の純白な糸屑を。
ボクはゆっくりと手を伸ばした。
その純白な糸屑に邪まな希望を乗せて。
「 駆け込み乗車はおやめください! 」
全力で走り込み、息切れで心臓が痛いし、車掌の車内アナウンスに耳も痛い。
ボクは乗り込んだ扉付近で、荒ぶる心臓と乱れた呼吸を整える。
いつものように残業を終え、いつもの終電にギリ間に合ったところだ。
いつものようにボクの視界には、いつもの彼女が優先席と対面する座席にいた。
彼女は黒のスーツにパンプスそして、限定色のローズゴールドが上品に輝くスマートフォンのタッチ画面に、しなやかな指先を滑らせていた。
そんな彼女の『 あるモノ 』をボクは頻りに探している。表題を見ていただけているなら、既にお気付きであろう。
そう、『 紐 』だ。
彼女とは親密に付き合っているわけでも無く、お互いの名前も住んでいる場所すら知らないし、ましてや一言も話したこともない。
ただ、この最終列車が移動する数駅間の彼女とのやり取りは、この上なく有意義だった。知的な美貌と魅力的な容姿、そして官能的な香りを漂わせる彼女に、ボクは確実に虜となっていた。
事の始まりはこうだ。
その日もボクは最終列車で閉まる扉を前に全力で走りこみ、ギリギリですり抜けながら乗り込んだ。
まるで、ハリウッドのアクションスターさながらに。
息を切らしながらゆっくりと進む。
キンキンに冷えた車内が心地よく、一息ついた所で腰を下ろそうと座席を見渡した。
彼女がいた。
彼女は優先席の向かいの席に一人座っていた。
ボクは彼女の細く綺麗な指先で弄る、スマホの仕草が妙に妖艶で仕方がなく、その彼女の指先から目を逸らす事が出来ずにいた。
まるで恒星の引力に引き付けられる惑星のように、彼女の方へと無意識に引き寄せられて行った。
気付くとボクは彼女の前に下がる手摺りを掴んで立っていた。別な意味でも起立していたが、彼女がその部分に気が付く前に何とか制圧し対処した。
ボクは何故か、彼女の気を引こうと所かまわず何かを探し始めた。
そして、見つけたんだ。
彼女の漆黒なスーツに一際目立つ長さ5㎜の純白な糸屑を。
ボクはゆっくりと手を伸ばした。
その純白な糸屑に邪まな希望を乗せて。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる