勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

文字の大きさ
30 / 80
第2章 エルフの秘宝

これから

しおりを挟む

 無事にギルドへの登録が完了し、アヴラムはこれで正式に冒険者として活動することが出来るようになったのだが、目的は冒険者として成功することではなくて魔王を倒すことだ。
 しかしその為にはいくつものハードルがあって、直ぐに現魔王の根城である魔王城を探しだして攻めれば良いというものではない。

■■■

[ネームド]

 そう呼ばれる種族名とは違う、個別の名前を持った魔王の幹部となる魔物を先に倒さなければ、魔王を倒すことは難しい。
 その為にアヴラムは聖騎士団に所属していた時も、来る勇者召喚に備えて各地のダンジョンや迷宮といった場所にいる[ネームド]の情報を集めて討伐するために奔走していた。

 まさか自分で魔王を倒しに行くことになるとは思っていなかったが、結果的にその経験が活きることになりそうだ。
 それでも聖騎士団の情報網と戦力を失った今、まずは個人で[ネームド]と呼ばれる魔物をどうやって探しだし、倒していくのか考えなければいけない。

■■■

 アヴラムはギルドへの登録作業を終えて、応接室に戻りこれからのことについて相談することにした。

「これから俺はどうすれば良いと思いますか?」

「まさか……考えがあって聖騎士団を飛び出したんじゃないの!?」

 イヴリースが呆れた様子で聞いてきた。

「いやその、漠然としたものしかね……冒険者ギルドで仲間を探して、[ネームド]の情報を集めて倒していればいずれ魔王にまでたどり着けるかなーと」

「はぁ……まぁ普通はそれでも良いかも知れないけど、アヴラムは聖騎士団の力を借りずに[ネームド]を探しだして倒さなければいけないのよ。なのに普通の冒険者ギルドでそれが出来ると本気で思ってるの?」

「それは……」

■■■□□□
 普通[ネームド]と呼ばれる魔物の討伐は、聖騎士団および聖騎士ギルドが担っている。
 この国の最高戦力は聖騎士団であるが、その人数に限りがあり単独で全ての任務をこなせるわけではないので、そこで出てくるのが聖騎士ギルドだ。
 教会および聖騎士団が認めた冒険者ギルドには依頼の分配が行われていて、多額の報償金と有益な情報がもたらされているのが聖騎士ギルドだ。
 そのため聖騎士団に所属せずに魔王討伐を目標とするならば、普通は聖騎士ギルドには所属していなければいけないのだが、アヴラムは聖騎士団から追放された身であるのでそれは叶わない。
 どうにか自分の力で[ネームド]の情報を集めて倒す、新たな方法を模索していかなければいけないのだ。
■■■□□□

 具体的な考えをアヴラムが持っていなかったので皆でしばらく考えることにしたが、イヴリースが一つの答えを導き出す。

「本当に実現できるかは分からないけど、ここのギルドを聖騎士ギルドにはしないで[クラウンギルド]まで成長させるしかないと思う」

「それって可能なのか?」

 その問いにはデミスが答える。

「確かにそうかも知れん。ギルドの規模が大きくなれば人も金も集まるが、自然と情報も集まってくる。これまで[クラウンギルド]になったギルドは聖騎士ギルドしか無いが、不可能では無いのでチャレンジする価値はあるな」

 アヴラムの為にギルドとして今後、聖騎士団からの仕事を受けないというのはかなりのリスクではあるが、デミスはそれを受け入れてくれるみたいだ。
 しかしそれを実現することは並大抵のことでは無いし、商業ギルドだった場所にそう簡単に優秀な冒険者が集まってくるとは思えない。

「でもどうやって実力のある冒険者を集めるんですか?」

 現役の実力者はほとんどが聖騎士団と聖騎士ギルドに所属しているが、そこから引き抜くというのは非現実的だ。

 この問いに対する答えはイヴリースが出してくれた。

「聖騎士団でもなく聖騎士ギルドにも所属していない第三の勢力があるのは知ってる?」

■■■

[オベロン学園]

 それは将来の聖騎士団員や冒険者はもちろん全ての業界の最前線に人材を輩出していくことを目的とした教育機関であり、成人を迎えて才能のあると認められた人のみが入学を認められるこの世界の最高学府である。

 地方の小さな学舎などを除くとこの世界で唯一の冒険者を育成する学校であり、独立採算性を採用しているのでどこの国や種族にも属さず独自の運営を行っている。
 そのため聖騎士団や教会も優れた人材を輩出してくれるということで多額の支援金を渡しているが、口を出すことは叶わない。

 確かにここから人材を確保することが出来たならば、心強い戦力になるだろう。
 しかしどうやって人材をこのギルドに輩出して貰うのだろうか?

 ギルドにもアヴラムにも学園に伝は何も無いだろうし、斡旋して貰う為に多額の支援金を払えるほどこのギルドがお金を持っているとも思えない。
 何か他に良い方法があるのだろうか?

■■■

 話を聞いてみると、『自分達がこの学園に入学して直接スカウトしてくれば良いのでは?』ということだった。

 外から駄目なら中からならという考えではあるが、学園から人を連れてくるのであればこれがベストだということだ。

 外部からの不干渉を貫いてはいるが、学生が自らの意思で決めた場合は学園も口出しをしない。というより自らの足で生きていけるようにすることが目的の機関なので、生徒の判断  が第一に優先される。
 なので組織に拘束されず、自由に動けるようになったアヴラムが直接スカウトしてくるというのは確かに良いアイデアなのだろう。

「学校か……」

 アヴラムは剣においては他の人に負けるつもりは無いが勉強は不得意であり、今さら他の同年代と学ぶというのも抵抗があるが、自分のせいで新人の勧誘がままならなくなるのだから仕方ない。

「なら次の入学試験を受験すればいいのか?」

「それでも良いけど、一年近く待つことになるわ。それよりも、裏口入学を目指すべきよ!」

「なるほど裏口入学か」

 何やらよろしくない話のようだが、そうではなくて文字通りの意味である。

■■■

 [オベロン学園]の立地は険山の上だ。

 険山といっても、単に土地の環境だけではなく周辺の特に裏手にある森には高ランクの魔物が出てくる。

 この森を攻略する適正ランクはギルドランクでBと言われており、通常の学園生の卒業時の平均レベルはDなので遥かに越えている。

 その為に裏口から入ってくる人はそれだけで才能が認められ、希望すれば入学を認められることになっている。

 そしてそれは通年通して認められており、何時でも来るもの拒まずの姿勢だそうだ。

 ちなみに通常の生徒がどうやってこの学園の場所にやって来るのかというと、飛竜船を使用している。

 過去には高ランクの引率を伴い、比較的安全な表ルートを通って馬車で来ていたのだが、遥かに安全な移動手段が確立されて貴族を含めた入学希望者が増加したことは言うまでもない。

■■■

 裏口入学であれば既に卒業用件は満たしていることもあり特待生扱いになるので、学園に入っても自由に動け、嫌なら授業をサボれるだろうからアヴラムは少し乗り気になる。

「なら準備を整えて裏口入学するとしようか。ところでイヴはどうするんだ?」

「どうするって勿論私も一緒に行くわよ?」

「いやいや聖騎士団はどうするんだよ……所属したままで学園なんて行けないだろ?」

「うっ、それでも私は……」

(そんなに学園に通ってみたいのだろうか?)

「まぁ急いで学園に行かないとといけない訳でもないし、ビートを鍛えてからじゃないと裏口入学出来ないしな。イヴが仕事の整理が出来るまで待っているよ」

「そうよね……」

 まだ何か言いたそうだが、イヴリースは一度聖騎士団に戻ることに決めた。
 イヴリースも聖騎士団での立場があるので、直ぐに辞めることなどは出来ないのだ。

 こうしてアヴラム達はそれぞれやるべきことをして、今後の準備をすることになった。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...