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第2章 エルフの秘宝
襲来する……
しおりを挟むイヴリースが冒険者学園に通う為に聖騎士団を辞めるというのだが、まだ何か言いたそうにしている。
そして何かを言おうとした時、部屋の扉が勢い良く開く。
「「「ここですか、イヴ姉さま!」」」
鍵を掛けていたのにそれを壊してでも入ってきたのは、イヴリースと一緒に竜騎士をやっていていつも一緒にいる女騎士達だった。
「ちょっと貴女達どうやってここに!」
どうやらイヴリースは黙ってここに来ていたみたいだ。
女騎士のうちの一人が代表して答える。
「あまりにも帰りが遅いのに、お姉さまの飛竜だけが帰って来たので、飛竜に聞いてもらったのですよ!」
■■■□□□
飛竜に話を聞く。
それは通常の人に出来ることではない。
ではどうやって聞いたのかというと、竜と会話が出来る[龍人族]の人が聞くのだ。
そもそも魔物を従えることは通常あり得ない話で、竜のように知能が高い種族であってもそれは変わらない。
なら竜騎士や飛竜船の竜はどうやって従えているのかというと、竜を従えることの出来るユニークスキル[竜隸]を使える龍人族が必要になる。
スキル[竜隸]があることによって初めて、人は竜と契約を結べて竜を御して乗ることが出来るようになる。
龍人族は誰しもが竜もしくは龍と会話をすることが出来るのだが、[竜隸]を使いこなすためには純血に近いほど良いとされ、完全な純血の龍人族には古龍種とまでも契約できる人がいると伝承に残っており重宝されている。
そのため、竜を御して使役することが出来る貴重性により亜人の中では異例の扱いをされ、真人族から手厚い保護対象として法律的に守るだけでなく多額の支援金が一族に支払われるのが通例である。
しかし基本的には他者との接触は避けるように一族の集落は、北にある世界最高峰の山である[エレスト]に住んでいるので、記録上では[龍人族]と[真人族]の間でほとんど交流が行われていなかった。
それがどうして今は聖騎士団、はたまた真人族の為に働いているのかというと違う遺伝子を定期的に一族に取り入れる為である。
真人族との交流が始まる前は一族の誇りの高さもあるが、排他的な為に近親交配が進み本来の生命力の強さが失われ寿命が短くなることが問題となっていた。
そこにやって来たのが物語にもなっている召喚者であり勇者である[ユウキ]で、近親交配の問題を当時の龍人族の長に説き別の遺伝子をもった血を取り入れることとなり、真人族と交流を深める為に何人かは聖騎士団で働くことになった。
そして何故に聖騎士団で働くのかというと、龍人族の能力の高さもあるが[竜隸]の貴重さゆえに人拐いを始め犯罪者に狙われやすいからである。
亜人族を下に見る傾向のある真人族だが、龍人族は保護対象なので、彼らに危害を加えることは違法行為なのだが、そのリスクを飲むに値する価値が龍人族にはあるのだ。
龍人族と[ユウキ]との間に信頼関係があった為でもあるが、狙われても守ることが出来る聖騎士団の中で働けば良いという話になり今に至り、聖騎士団の中でも高い地位を得ている。
■■■□□□
「そんな私の場所を聞く為だけに、わざわざレラ様にお願いしたの!?」
レラは龍人族で、飛竜騎士の副騎士長にまで上り詰めているお方だ。
「そんなことではありません! 皆、イヴ姉さまが帰ってこなくて心配をしているのです!」
流石にそこらの人に負けるとは思わないが、何か卑怯な目にあって動けなくなっているのではと思い慌てて駆けつけたそうだ。
ここがギルドであることを認識せずに目撃情報だけで突っ込んでくるぐらいにだ。
なので慌てて追いかけてきた他の受付嬢達に報告を受けたルインが嗜める。
「ちょっと貴女達、非常識が過ぎるのではないですか? ここは正式なギルドですよ。例え聖騎士団であろうと規則は守って頂かなければ問題になりますよ」
「えっ……」
ようやく周囲が見え始めたのか、女騎士達は辺りを見渡しここがどこなのか把握する。
そして血の気がサッと引き、直ぐに頭を下げる。
「「「申し訳ありませんでした」」」
基本的には聖騎士団はギルドへの不干渉を貫いており、正当な理由なしにギルドに立ち入ることなど出来無いが、それが断りもなしにギルドの奥に侵入してさらには扉を破壊して部屋に入ってきたのだ。
女騎士達も流石に事態のマズさに気が付いたのだろう。
後輩の不祥事に、イヴリースも謝る。
「ルインさん。本当に申し訳ございません。扉の修繕費は責任をもって払わせて頂きますので、どうか許して頂けないでしょうか?」
聖騎士団にギルドから報告がいくと、女騎士達は処罰の対象になるだろう。
なので何とか内々に納められないかという話だ。
「……まぁ仕方がないですかね。アヴラムさんにはお世話になっていますし、イヴリースさんにも今後お世話になりそうですから。良いですよねデミスさん?」
「……まぁそうだな、今回は時がときだし不問にしようか」
どうにかルインとデミスが女騎士達を許してくれることになった。
今は冒険者ギルドの登録審査中なので、聖騎士団と揉め事を起こすのはデミスとしても不本意なのだろう。
騒ぎになると聖騎士団の他のメンバーまでここのギルドにやって来ることになる可能性が高いので、それを回避出来たことはアヴラムにとっても有難い。
(本当にこのギルドにはお世話になりっぱなしだな……)
■■■
まだここに居たそうなのだが迎えが来てしまったので、聖騎士団から脱退するために一旦ここでイヴリースはお別れすることになった。
「アヴラム……絶対に直ぐに帰ってくるから待っててね」
「ああ、それまでに俺も頑張るよ」
ビートを鍛えたり、ギルドが正式に冒険者ギルドになれるまでしっかりと依頼を達成していかなければいけない。
「ビート君もまたね!」
「うん。マたアおう」
モフられることを警戒してアヴラムの後ろからだがビートも別れの挨拶をした。
次に会うときは学園に入る前だろうが、その時は盛大にモフられるだろうな……
■■■
ギルドの外に行くと、さすがに周辺は暗闇に包まれていた。
そして女騎士達も慌てていたとは言っても、流石に街中まで飛竜を乗り付けてはいなかったみたいで馬車が用意されていた。
それを見て安心したイヴリースはもう一度デミスとルインに先程の件を謝る。
「それではデミスさん、ルインさん。先程はうちの騎士達が本当に失礼しました」
「いやいや、いいんだよ。後の事後処理はアヴラム君が何とかしてくれるさ!」
「おいおい、いつの間にそんな話になったんだよ!?」
「いやいや、困っている女の子がいたら助けて上げるのが男の子ってもんだろう? 君も素直にならないと駄目だよ」
デミスの話す意図をアヴラムは良くわかっていない。
「それはどういう? まぁ暫くはギルドの為に働くのはやぶさかでは無いんだが……」
「……そうか、それは有り難いんだが、やっぱりイヴリース君も苦労するな」
やっぱり意味がわからず頭を傾げるアヴラム。
(なんで俺が弁償で働かされる話なのにイヴリースが苦労するんだ?)
「いえ、今はこれでいいんです。いつか気づかせますから!」
そうしてイヴリースは、女騎士達が待っている馬車に乗り込み去っていくのであった。
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