勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

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第2章 エルフの秘宝

非情な通達

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 イヴリースと別れた後、流石に時間も遅いのでその日はお開きになって宿に帰った。
 しかし今後の目標として学園に入ってギルドに加入してくれる人を募ることは決まったが、当面のギルドでの活動を決めることが出来なかったので次の日にはまた、再びギルドに戻って来ることになった。

■■■

 朝一にいつものようにギルドの中に入ると、もう恒例のようにルインに出迎えられたので話をしていると誰かがやってくる。

「こんにちは!」

「あっ! 郵便屋が来たので受け取ってきますから、ちょっと待っていて下さい」

 そう言われたので当然のように応接室に向かったのだが、扉が壊れているのを忘れていた。
 どうしようかと思っていると流石にここで話をするのは問題があるので、デミスがギルド長の部屋に通してくれることに。
 デミスも郵便屋からの受け取りの際に確認をする必要があるみたいで、部屋に置かれたお菓子を食べながらビートと二人で待つことにした。

■■■

 待っていると二人が部屋に入ってきて、デミスが『ようやく届いたよ!』と言って取り出したのは総ギルド本部の紋章が押された封筒だった。

「それは何ですか?」

「これは勿論、冒険者ギルドに仮登録が決まったから色々な規約とかの資料だよ。そして、正式に冒険者ギルドとして認められる為に課される幾つかの依頼についても書かれてるんだ!」

「依頼ですか?」

「そう依頼だよ。まぁそんなに難しい話ではなくて、指定された魔物の素材回収とかだから直ぐに終わるさ」

 話を聞くと課される依頼は、ランクがAからFの指定された素材を指定数量集めてギルド本部に納めるというものだということだ。
 その際の方法は特に指定がなく、他のギルドから買い取るのも禁止はしていないそうだ。
 そういう横の繋がりを持っているのもギルドとしての実力の一つということらしい。

■■■

「な……なんだこれわ!」

 書類の中身を確認したデミスが驚愕の表情を浮かべて立ち上がった。
 まだ書類を確認していないルインとアヴラムには何が何やら分からないので聞いてみる。

「一体どうしたんですか? 何か書類におかしなことがあったのですか?」

「いや……すまない。またつい取り乱してしまったな。だがこれは明らかに何かの間違いだよ。うん、そう間違いだな。はっは、ビックリしたよ、ギルド本部も間違えることがあるなんて……」

 何があったのか、聞いてもわからなかったのでルインと二人で書類に書かれていた依頼内容を確認する。

―――――――――――――――――――――――――――
認定試験の内容を下記に記す。

依頼:[エルフの涙]の仕入れ
[ランク:S][期限:今年中]

特例として依頼内容を通常から変更する。

―――――――――――――――――――――――――――

「えっと良くわからないんですがこれだけなんですか?」

 書かれている[エルフの涙]が素材ランクSなので入手が難しいのは分かるが、聞いていた話ではランクAからFの複数の依頼だったはずなのだが、一つならばそれほど難しい話では無いのではないのだろうか?
 だかその考えもルインの一言で間違いだと分かる。

「レジェンダリーアイテムですか……」

「えっ! この[エルフの涙]はレジェンダリーアイテムなのですか?」

「そうです、Sランクの中でも入手が特に困難で百年以上入手された形跡がギルドに残されていないアイテムなんですけど……」

「なんでそんなアイテムがギルドの認定試験として課されるんですか!?」

 入手出来ないからレジェンダリーなのだ。
 そんなアイテムを入手してこいとはどういうことだろうか?
 デミスが間違いではないかと思うのも仕方がないだろう。

■■■

 考えてみるが、やはり心当たりは一つしかない。

「まさか、俺がこのギルドに入ったから嫌がらせですか……」

「そんな話が本当にありえるのでしょうか? 登録したのは昨日の夜で、この書類が届いたのは今日の朝ですよ?」

 ルインが疑問に思うが、それにはデミスが答える。

「確かに早すぎるし、間違いであって欲しい。でもさっきは取り乱したから確認して無かったけど、この書類にはギルド本部長の正式な紋章が刻まれているから、間違いはあり得ない。これがギルド本部の最終決定なんだよ。僕も信じられないけどね……」

 デミスもこの決定を疑っているが、間違いがないみたいだ。
 しかしこんなことを本当に聖騎士団が仕掛けてきたのだろうか?
 確か『王命に逆らうのか!』と神官達が騒いでいたので、そちらからの圧力かも知れないが、何れにせよ目をつけられているのは間違い無いみたいだ。

「すみません。やっぱり俺がギルドに入ったせいで……」

 アヴラムが謝るが、デミスがフォローしてくれる。

「君が謝ることはないよ。君の話を聞いて僕もその勇者に対して腹が立ったし、それを黙認する教会も同罪だ。だからこそ聖騎士団に頼る道より君をこのギルドに受け入れて共に進むと決めたんだから」

 デミスのフォローにルインも付け加える。

「そうですよ! むしろそんな勇者に従ってたら、私がアヴラムさんを倒しに行ってるところですよ!」

 フォローになってるかは分からないのは触れないでおこう……。

「有難うございます。なら依頼をどうするか決めないといけないですね」

「そうですね……まずは入手するために何をすればいいのか情報を手に入れましょう」

「それもそうですね。俺に至っては[エルフの涙]が何なのかすら知らないですし」

「そうなんですね。なら私が説明しましょう。[エルフの涙]は伝承だけで、存命の真人族の中で誰も実物を見たことはないのですし、分からないことだらけなのですが、間違い無いのはエルフ族に伝わる秘宝であるということと、それを手にいれた者は寿命を伸ばすことが出来るアイテムらしいです」

「さすがS級ランク。凄そうなアイテムですね」

「そうなんです。でも他のレジェンダリーアイテムと違って唯一の救いがあるとすれば入手するために行くべき場所がある程度分かるということでしょうか……」

「エルフの里ですか」

「そうです。でも真人族との交流が無くなった時からその場所を知る人も居なくなったので、結局は分からないんですけど……」

「でも、この世界のどこかにいるということは誰かしらが情報を持っている可能性は有りますよね?」

「そうなんです。でもこれだけ価値のある情報を集める手段と伝が私たちのギルドでは無いんですよね……ダメもとで、アヴラムさんの伝を利用させて貰ってみても大丈夫ですか?」

「俺の伝ですか?」

 ルインの提案にデミスも賛同する。

「そうだな、それがいい。一商業ギルドに過ぎなかった我々より、この国で2番目に大きい商会なら何か情報を持っているかもしれん」

「トロイメア商会ですね」

 トロイメア商会という言葉を聞いてビートが顔をしかめたが、よっぽど香水の匂いが合わなかったのだろうか?
 まぁそれは置いといても、闇雲に探すより、確かにトロイメア商会に聞いてみるのが現状のベストな選択かもしれない。

「分かりました。それならこれから一度、トロイメア商会の方に行ってみたいと思います」

「お願いするよ。僕たちはギルドとして出来る方法で何か情報を得られないか試してみるよ」

 情報の入手の依頼を出したり、他のギルドにあたってみるとかだろう。

「分かりました。では行ってきます。ビートは留守番するか?」

「…………いやイく」

 答えるまでに少し長かったけど、ちゃんと付いてくるみたいだ。


 こうしてアヴラム達は[エルフの涙]を入手するためにそれぞれ動き出したのだった。
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