勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

文字の大きさ
34 / 80
第2章 エルフの秘宝

討伐依頼を受けよう!

しおりを挟む

 装備品を購入したことでアヴラムはお金が無くなりそうになったので、お金を稼ぐ必要があるが、同時に新しい装備の試運転とビートの訓練を兼ねるために魔物の討伐依頼を探すことにした。

 まだ正式に冒険者としてギルドになったわけでは無いので、そういう依頼があるかどうかは分からないが、まずはギルド[クリフォート]に行って聞いてみることにする。

■■■

 ギルドの中に入るとルインが出迎えてくれる。

「こんにちは!」

「あっ! アヴラムさん、ビート君、お帰りなさい!」

 そう言えばアヴラムとビートはこのギルドに所属しているので間違いではないが、いつの間にか『お帰りなさい』と言われる帰ってくる場所になった。

 かつてのホームだった聖騎士団を出てから、まだそんなに日が経っていないが、今度は変なことにならないように良い関係を築きたいものだ。

「「ただいま」」

 挨拶を交わした後は、いつの間にか修復され応接室から会議室に変更された部屋に入る。

 会議室に変更した理由は、実質もうアヴラムとビートしか使わないし、他の冒険者が使えないようにギルド関係者用と位置付ける為だそうだ。

 確かに気付けばアヴラムとビートはこのギルドのズブズブの関係者になっていたので、その方が便利なのだろう。

 他のギルドに所属している人に目をつけられていそうで怖いので、これまではあまり近付かず聞いたことは無かったが、これほど特別扱いされると心配になる。

(ほんと、俺ってどう思われてるんだろうな……)

■■■

「そう言えばデミスさんはいないんですか?」

「そうですね。[エルフの涙]の情報を探すのもありますが、ちょっと別件の仕事で出掛けています」

「そうですか……」

 デミスは今はいないので、ルインだけで応対してくれるそうだが話が簡単に進むので有難い。
 そしてルインが気になっていることを聞いてくる。

「それでトロイメア商会では情報を得られましたか?」

「そうですね、いきなり[エルフの涙]の情報を手にいれることは出来ませんでしたが、何とかエルフの手掛かりを探してきてくれる事を確約して貰えました」

「そうですか……確かにエルフなら何か知っているはずですし、見掛けなくなったとはいってもエルフはどこかにいるので、そちらの情報を探す方が良いですね」

「それでもどこにいるのか見当も付かないので、かなり無茶をお願いしたと思いますけど、商会の面子に掛けて情報を手に入れて来てくれるそうです」
「もちろん合法的にですが……」

「それは良かったです。犯罪に手を染めて情報を仕入れてたらギルドの認可が下りないでしょうし」

 トロイメア商会の噂に怯えていたルインなので補足したのだが、安心してくれたので良かった。

「それで話は変わるんですけど、暫くは時間が掛かりそうなので依頼を受けたいのですが、何か魔物の討伐依頼とかないですか?」

「討伐依頼ですか……。まだうちのギルドでそれを受けれる人が少ないので、受付をしてないですね。素材関連は幾つがありますが、それを受けますか?」

「うーん、今回はちょっとお金を稼いでおきたいというのもあるので、出来れば効率の良い魔物討伐依頼の方が有難いのですが……」

「そうですか……なら他の冒険者ギルドを訪れて貰うのが良いかもしれませんね」

「やっぱりそうなりますか」

「以前訪れたギルドで[レムベル]は覚えてますか?」

「ええ、俺達が盗賊を引き渡したギルドですね。確かギルド長同士で仲が悪いって言ってましたね」

「そうなんです。確かにギルド長の二人は仲が悪いですけど、以前にアヴラムさんがお会いした受付のネフィリムさんと私は良く飲みに行く仲なので融通が聞くんですよ。デミスさんには内緒ですけどね」

 まんまとサービス料を取られた事も聞いているらしい。
アヴラムが聖騎士団にいたこととかは話していないが、[ゴブリンの生角]の事とかは話しているそうだ。

「そうだったんですね。なら一度そこに行ってみます」

「なら先に連絡を入れときますね」

■■■

 ルインの勧めで、アヴラムとビートはギルド[レムベル]にやって来た。

「すみません、ネフィリムさんはいますか?」

 ギルドの中を見渡すが、見覚えのある顔がいなかったので、他の人に聞いてみる。

「えっと、ネフィリムさんの知り合いですか?」

「はい、以前に盗賊を見つけた際にいろいろとお世話になったので」

「そうでしたか、なら呼んできますので少々お待ち下さい」

■■■

 暫くして受付の奥から見覚えのある顔がやって来た。

「やっほー!まさか君がルインと知り合いで、クリフォートの隠し球だったとわね……」
「それとビート君もこんにちは!」

「こんにちはシュセンドのおネエさん」

「シュセンドってなんですか?」

 ビートが思わぬ事を口走るので、アヴラムは慌てて止める。

「ごめんなさい、本当に何でもないから気にしないで下さい!」

 お金を取られたから、『異世界の言葉でお金に固執する人の事をシュセンドというらしいぞ』とビートに話していたのだが、悪口になると思っていないビートがそのまま言ってしまった。
 上手く伝わっていないみたいなので良かったが、後でビートには他の人に言っては駄目だと伝えとかないといけないな。

 それにしてもサービス料を取られた後から、急にフランクになってたが、もう遠慮すら無くなったみたいだ。

「あと、本当にすみません。でもあの時はまだ良く分かっていなくてどこまで話していいのか分からなかったので……」

「いやいや、謝るのは私の方だよ!? ごめんね騙すようなことしちゃって……」

「いえ、いいんですよ。知らなかった自分が悪いんで。ですがやっぱり視線が痛いんで応接室に通してもらって良いですか?」

「そうだね。ここでは話せない事もあるしね。今回はタダで使わせてあげるよ!」

(本当にシュセンドとか言ってスミマセン……)

■■■
 
 ルインから話をいろいろと話を聞いているらしく、すんなりと話が進む。
 そしてネフィリムも仕事モードに入ったみたいだ。

「それで、お金を効率良く稼げる討伐依頼を探しているんでしたか?」

「そうですね。後は装備の試運転とビートの訓練も兼ねたいので、あんまり強くない汎用の魔物の方がいいですね」

「うーん、そうですね……。それだったら[ショウグンガザミ]の討伐依頼なんかはどうでしょうか?」

「そうですね。それなら数も多いからガザミの素材集めも出来て、気を付ければそんなに強くないから良さそうですね」

「分かりました。なら依頼内容を持ってきますから、ちょっと待ってて下さい」

■■■

 ショウグンガザミは名前の通りガザミと呼ばれるカニ型の魔物の親玉だ。

 昔は親ガザミ、子ガザミと言っていて、そっちが正式名称なのだが、昔の召喚勇者が『デカいのはショウグンガザミで、小さいのは只のガザミでしょ!』とアダ名を付けて呼び始めると、しっくりときたのでそっちの方が広まった。

 大きなショウグンガザミを取り巻き従うように小さなガザミがいるので、異世界で団長のような地位を示す[ショウグン]はピッタリな言葉だろう。

 ショウグンガザミはそこそこの強さなのだが個体数が多く、素材が防具として有用なので重宝されるので高い金額で買い取りされる。
 強さ的にはそこまで強くないので、小さなガザミを倒して背後の憂いを無くしてから戦えば、ビートでも安全に戦えるだろう。

■■■

 暫くしてネフィリムが戻ってくるが、もう一人一緒に部屋に入ってきて話しかけられる。

「やぁ!君達が噂の秘密兵器アヴラム君とビート君だね!」

「アヴラムですけど、秘密兵器って……」

 何とも人聞きが悪いのだが、本当にルインは何を喋ったのだろうか……。

 そしてデミス同様に暴走しかけている、このギルド長を連れてきてしまったことをネフィリムが謝ってくる。

「アヴラムさん、ごめんなさい。うちのギルド長に気付かれちゃって、どうしても一度会いたいと押しきられちゃいました……」

「まぁ、会うぐらいなら問題ないですよ……」

 すると、やはりデミス同様に押さえきれないのかギルド長が話始める。

「自己紹介が遅れたね、私はここギルド[レムベル]のギルド長をやってるダンテだ。君たちのことはネフィリムから聞かせて貰ったよ!」

 そう言ってアヴラムとビートと握手をする。

「ところでアヴラム君とビート君はどうせならうちのギルドで働く気はないかい?」

「ごめんなさい。いろいろあるとは言え、[クリフォート]にはお世話になっているので、他のところには行けません」

 というより、もうあそこがホームのような気がしていて居心地が良くなってきているので移る理由が無い。
 デミスの暴走を除いてだが……。

「そうか、それは残念だね。……でもデミスに嫌気が差したり、何かあったら是非うちを頼ってくれていいからね!」

 そう言うと、嵐のようにダンテは去っていった。

「ここのギルド長も凄いですね……」

「そうなんですよね。似た者同士なんでしょうね。だからルインとも苦労している同士で意気投合したんですけどね……」

 それでも悪い人では無さそうなので良かった。

「それで依頼内容を見せてもらえますか?」

「そうでしたね。こちらです」

―――――――――――――――――――――――――――
ギルド依頼:[ショウグンガザミ]の討伐
[ランク:D][期限:無期限]

[ショウグンガザミ]が大量発生しないように討伐をお願いします。

[ショウグンガザミの魔石]の数で討伐数を計算するので、必ず持ち帰ること!

討伐制限無し。
素材は別途買い取り致します。

―――――――――――――――――――――――――――
■■■□□□
 ギルド依頼はギルドが国や街から頼まれて発行しているモノで、各ギルドが担っているノルマでもある。
■■■□□□

「ちなみに小さいガザミは素材というより食材になるので、もしかしたら商業ギルドで依頼が有るかもしれないので確認しておいた方がいいですよ」

「そうなんですね、ありがとうございます!」

 ということでアヴラム達は無事に討伐依頼を受けられたが、素材買取の依頼が有るかもしれないとのことなので、もう一度クリフォートに帰ることにした。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...