勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

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第2章 エルフの秘宝

ショウグンガザミ

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 ガザミの身をたらふく堪能してから一夜が明け、今日は昨日は倒しに行けなかったショウグンガザミを倒しに行くことにした。
 ビートも昨日でガザミを倒すのにも大分なれてきたので、ショウグンガザミの周辺に現れるガザミの相手を1人に任せても大丈夫だろう。

■■■

「あー! お前ら、どこ行ってたんだよこの野郎!」

 振り向くとハンスが怒りながら駆け寄ってきた。

「ああハンスさん!」

「ああじゃねぇよ! 昨日置いて帰りやがって!」

「いや何処に行ったのか分からなかったし、探すのが面倒くさかったので」

「いや、本音! さらっと酷いな!」

「まぁまぁ、それで昨日は遅くまで何をしていたんですか? 俺たちが帰った後もまだ何かをしていたんですよね?」

「ふっふっふ、聞いて驚け! ショウグンガザミの巣を見つけて来てたんだよ!」

「へぇー、そうだったんですね」

「あれ? 反応薄くない? せっかくお前たちが訓練して斥候をする余裕がなさそうだからやってあげたのに、教えてあげねぇぞ!」

 別にスキル[気配察知]を使えばだいたいどこら辺にいるのかが分かるので問題ないのだが、折角自分達の為に頑張ってきてくれたみたいなので花を持たせるとする。

「すみません、すみません。そうだったんですね。有難うございます」

「どうしようかな、さっきの態度をとられると教えたくなくなるよな」

「そういえばハンスさんから聞いて、ガザミの身をネフィリムさんに持っていったと言ったら、喜んでましたよ?」

(喜んでいたのはカニに対してだけど……)

「なにー!ナイス、アヴラム! 流石、俺が見込んだ男!」

「ならショウグンガザミの居場所に案内してくれますか?」

「おうよ!」

 何とか機嫌を直したハンスは案内をしてくれるようだ。

■■■

 ハンスを先頭にショウグンガザミがいる場所へ向かうのだが、嫌な予感がする。
 止めようと思うが、確信があって向かっているかもしれないので聞いてみる。

「ちょっとハンス、聞いてもいいか?」

「なんだ? 小便に行きたいならさっさと行ってこいよ?」

「違う違う、そうではなくて、ハンスって一人でショウグンガザミを倒せるのか?」

「まぁ、何とか一体を相手にするなら無理ではないな。それがどうしたんだ?」

「いや、この先にいるショウグンガザミの数が一体どころの騒ぎではなさそうなので一応聞いてみたんだけど……」

「はっはっは!何いってるんだよ、俺はこの目で確かめてきたけど一体しか確認出来なかったぜ? そんなわけないだろ」

「うーん。まぁそれならいいんだけど……」

 ハンスは確信を持っているみたいなので、進言を聞き入れて貰えなかった。
 先導して歩くハンスの後ろで、一応ビートには注意を与えておく。

「ビート、多分この先にショウグンガザミがかなりいるいそうなんだよ。だから訓練とか言ってられないかも知れないから、そうなったらビートはハンスと一緒にお互いをフォローしながら戦っておいてくれるか?」

「ワかった。それでアヴラムはどうするんだ?」

「俺は一人で二人がショウグンガザミに囲まれないように立ち回るから、余裕があれば参考にしてくれ」

 本当なら広範囲の攻撃魔法を使えれば楽なのだが、アヴラムもビートもほとんど使えないしハンスも使えなさそうなので、アヴラム一人で全体を広くカバーするしかない。

「……サンコウになるのか?」

「まぁ、多分。あと一応は常に気を配っておくけど、それでも危ないなと思ってら呼んでくれ」

「ワかった。ナンとかハンスとイッタイはタオせるようガンバる」

 ビートと話していると、そろそろショウグンガザミのいる場所に近づいてきたみたいだ。

■■■

 先行しているハンスが近くにショウグンガザミがいるので気付かれないようにハンドサインで静かに近づいてくるように手招きしている。
 木の影からハンスの目線の先を見てみると、川から少し離れた沼になっている場所にショウグンガザミがいた。
 それぞれがターゲットを確認した所でハンスが作戦を伝えてくる。

「今回は俺がこの魔道具を使って先行して攻撃を仕掛けるから、それに続いて攻撃を仕掛けてくれ」

「わざわざ魔道具を使うのか?」

 魔道具は魔物の魔石を使用しており、アイテムバックもそうだがモノによってはかなりの値段がする。
 Dランクとはいえ防御の硬いショウグンガザミにダメージを与えるのなら、雷属性でそれなりの魔道具を必要とするだろう。

「それは使わないで済むならいいけど、安全の為にいつも使ってるな。それとアヴラムに良い所を持っていかれるとネフィリムさんに気に入られないかもしれないから、ここは俺が主導して倒すから任せてくれよ」

「……そうか分かった」

 本当はまだ他にもいるから万が一に備えて残しておいて貰いたいが、やる気に満ち溢れている腰を折る方が良くないので止めておいた。

「なら行くぞ!」

 ハンスが先行して駆け出していった。
 アヴラムとビートはハンスの指示に従って、合図があるまで待機する。
 ハンスが魔道具鳴雷ナルガミを使い、ショウグンガザミにダメージを与えた所で、こっちにくるように合図が出たので駆け寄る。
 しかしショウグンガザミが悲鳴を上げると、嫌な予感通り周りから近づく気配があるので、アヴラムは立ち止まり、ビートだけハンスの近くに行く。

「おい! どうしたんだ!? 早くアヴラムもこっちに来て手伝ってくれ!」

 状況を把握できていないハンスが聞いてくるが、その説明はビートに任せて踵を返す。

「なっ! あいつ逃げやがった!」

「チガう! ホカにもショウグンガザミがイるから、そっちにイったんだ。 いいからオレたちはメのマエのイッタイにシュウチュウするぞ」

「そんな馬鹿な! ……と言ってもいられないか。ならビート二人でこいつを倒すぞ!」

 ハンスは納得はしていないみたいだが戦い始めたので、アヴラムはこの場を離脱した。

■■■

 スキル[気配察知]で探っていくと、10体近いショウグンガザミがここに近づいているみたいだ。
 ハンスが見つけられなかったということは、どこかに隠れていたのだろうが、近くに密集していないのは幸いなので、個別に撃破していくことにする。
 流石に小型のガザミのように一撃で鋏を切り落とすことは難しいが、弱点は変わらないので基本的には戦い方は変わらない。

 魔法を使うのは苦手なので上手く扱えないが、魔法が使えればもう少し別の戦い方が出来そうなので、扱いやすい魔道具を今度は買ってみようかなと思う。
 これまでは魔法を使える仲間がパーティーにいたし、集団で戦う場合は下手をすると味方を巻き込む可能性があったので使ってこなかったが、一人で戦う機会が多い今なら利用してみたい所だ。

 ショウグンガザミに地中へ潜られると手出しが出来ないので時間が掛かったが何とか無事に倒しきり、討伐の報告用に魔石は回収するが、他の素材はとりあえず放置した。
 ハンスも一体なら倒せると言っていたし、ビートから救援を求める声も聞こえないので大丈夫だろうが、急いで戻ろうかと歩を進める。

 しかし、そこで他の反応がまだあることに気付く。
 ハンスとビートが戦っている付近に先ほどまで無かった、魔物の気配があるのだ。
 ちょうど地中に潜ったショウグンガザミのような反応が。

「これはヤバいな……」 

 このままでは不意をつかれて挟み撃ちされるどころか思わぬ被害が出そうなので、アヴラムは全速力で二人の元に駆け出した。
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