勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

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幕間-その2-

クズ勇者 その3

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 ネームド討伐を目的とした大規模遠征に向けて各所で着々と準備が成されている。そしてその遠征についてきてくれるという聖騎士団員の二人、ヴァニティーとイヴリースと顔合わせすることになった。
 男のヴァニティーはともかくイヴリースは同い年の女だと聞いているので、どんな奴なのか気になるユウトである。

■■■

 顔合わせの為にユウトが広間に入ると、そこには既に2人の騎士が待ち構えている。一人は金属の鎧で身を固めた騎士らしい騎士の男で、もう一方は軽装の革の鎧で一見すると騎士には見えない女性だ。

「はじめまして、私は聖騎士団に所属しているヴァニティーです。此度の遠征ではお供致しますので、よろしくお願いします勇者様」

「ああ、よろしく」

 握手はするものの赤毛の長髪で切れ目の、いけすかないイケメン野郎なので適当に流す。それよりも直ぐに、もう一人のイヴリースに興味が移る。
 細身で胸が無いのはあれだが、クール系の美人な女だ。

「私はイヴリースです。よろしくお願いします」

 握手では無くお辞儀のみをしてきたので、差し出そうとした手を引っ込める。

「俺は谷川隼人だ、気軽にユウトと呼んでくれ! それで君のことはなんて呼んだらいいのかな?」

「……勇者様の好きにお呼びください」

「私のことも好きに呼んでくれて構わないよユウト様」

「ああ、そうですか」

 ヴァニティーが話に入ってくるも興味が無いので適当にあしらい背を向けてイヴリースの方向を向いて話す。

「じゃあイヴちゃんって呼ぶね。いやーイヴちゃんは可愛いし、まだ同い年なのに聖騎士団に所属してるなんて凄いね!」

「……勇者様にそう言って頂けるとは光栄です」

「そういえば神官に聞いたんだけどイヴちゃんは竜騎士なんだってね? 竜に乗って空を飛ぶのってどんな感じなの?」

「……そうですね、嫌なことを忘れて自由になれる感じですかね」

「へぇーそうなんだ、面白そうだから今度一緒に乗せてくれない?」

「……それは難しいかと。適切な訓練と龍人様に竜との契約をしてもらってはじめて乗れるものなので」

「へぇーそうなんだ、それは残念だな。でもイヴちゃんが竜に乗ってる所は見てみたいな」

「ユウト様は竜に興味があるのかい? それなら地竜なら乗ることが出来るから是非乗ってみるといいよ! 地竜というのはそのな名前の通り地を這う竜なんだけどね……」

 ヴァニティーがまた話に入ってくるので仕方がなく受け流していると、その間にイヴリースは『用事があるので』ということで去っていってしまった。
 余計なことをしやがってとヴァニティーを睨みながらまだ続く話を受け流す。

(せっかくイヴちゃんと仲良くなろうとしていたのにいい迷惑だ)

 文句の一つでも言ってやりたいが、これから共に戦う仲間なので流石に自重する。こんなところでトラブルを引き起こしている方が面倒くさい。

 しばらくしてようやく興味の無いヴァニティーの話も終わり、神官と二人になった所でイヴリースについていろいろと聞く。
 するとイヴリースはこの遠征を終えた後に聖騎士団を辞めるそうだ。何でも遠征に付いていくことを条件に退団を認められたらしい。
 さらにイヴリースはトロイメア商会のご令嬢でもあるらしく、聖騎士団に入るに至った理由も政治的な判断もあったようなので複雑な事情があるみたいだ。
 深い話はよく分からないのでその話は置いとくが、塩対応されてもイヴリースはこの世界に来て見た中でも一番可愛い娘なので、何とかして仲良くなりたいとユウトは思う。

「何とか時間をつくってイヴリースと仲良くなれないか? ヴァニティーのせいでろくに話が出来なかったし」

「分かりました、何とか時間をつくれないか打診をしてみます」

「よろしく頼むな」

 こうして一緒に戦う聖騎士団のヴァニティーとイヴリースとの顔合わせはつつがなく終わったのだった。
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