勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

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幕間-その2-

クズ勇者 その4

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 各所の準備が整い、いよいよネームド討伐に出立する日が近付いてきた。
 しかし何かと理由をつけて断られた為、ユウトは結局イヴリースと仲良くなる所か顔合わせ以降は一度も会うことも出来なかった。

■■■

「まったく、勇者である俺が声をかけてるのに全て断りやがって……」

 不満を隣で聞いていた神官が謝ってくる。

「今は各所が準備に終われているので……それに彼女はトロイメア商会のご令嬢がゆえに強制することも出来ず、お力になれず申し訳ありません」

「いやいい、機会はまだあるだろうし俺も大人げなかったな。それより準備はどんな感じだ?」

「既に準備万端で、明日の出立を待つのみでございます」

「そうか……」
 
「それに今日は国王との晩餐会がありますので、その時に皆一堂に会して彼女にも会えるでしょう」

「ちょ、それを早く言えよ!」

「申し訳ありません」

「まぁそれなら退屈な晩餐会も楽しみになったな」

(出来ることなら俺のものにしたいしな)

■■■

 晩餐会が始まり国王から激励されるも心は別のところにある。ヴァニティーも絡んできたが面倒なのでさっさと神官に擦り付けた。

 そしてユウトは自分の席を離れ、目的の場所に移る。

「やあ久しぶりだねイヴちゃん、元気にしてた?」

 一度こちらを確認するとお辞儀をして挨拶をしてくれる。

「……お久しぶりです勇者様。そうですね勇者様もお元気そうで何よりです」

「つれないなー、そろそろ俺のことはユウトと呼び捨てでいいんだよ?」

「……それは出来ません。勇者様と私では立場が違いますから」

「えー、でもイヴちゃんも商会のお嬢様何でしょ?」

「なっ、どこでそれを!? いえ、まぁもう話してもいいですか……」

「へぇー、イヴちゃんはお嬢様ということを隠してたんだ、何で?」

「……私は私ですから商会とは関係ありません」

「そっか、イヴちゃんは強いんだね。魔物と戦うのが怖くないの?」

「……そうですね。私は負けることが出来ないですから」

「へぇー、それは商会と教会の取引が関係してんの?」

「そこまで知っているのですね……それもなくはないです。だけど共に歩むと決めた人のそばにいる為には立ち止まることが出来ないですから」

「へぇー……そいつのことが好きなんだ。いやーそいつが羨ましいな」

「そういう話では……いえ話しすぎましたね、今のは忘れてください」

「ならまだ俺にもチャンスがあるかな? 今回の戦いで格好良いところを見せて、俺のことを好きにさせてみせるから見ててくれよ!」

「……まぁ、はい」

「それよりこの後に時間あるかな? 明日の作戦について確認させて欲しいのだけど?」

「すみません、この後は団長に呼び出されていますし、明日の準備がありますので」

「へぇーそっか、それは残念。まぁ明日から頑張ろうぜ!」

「はい、それではこれで失礼させて頂きます」

 この日で親密になることは出来なかったが、前回より確実に近付けた気がする。
 勇者というステータスを持ってる男が格好いい所を見せれば、きっとイヴリースも落ちるに違いないしなと思うユウトであった。

■■■

 晩餐会は無事に終え、翌日にネームド討伐に向けての出立式を迎える。

 普段は聖騎士団が出入りする通用門から魔物の討伐に出向くのだが、今回は特別に王城の正門から外に出ることになった。
 そこからの道のりはさながらパレードの趣で、はじめて勇者を見る人たちから羨望の眼差しを向けられながら聖都市の外へ向かう。

 ユウトはこれほどまでに多くの人から期待されていることを実感し、気持ちよさに酔いしれる。

「はっは! 俺に全て任せとけ!」

 こうしてユウトはイヴリースに気に入られる為にも張り切って聖都市を出立した。

■■■

 聖都市を出て未確認の、それもネームドと思われる魔物が出現したとされるダンジョン[ヴラド城]へ向かう。

 未確認の魔物が今もヴラド城にいるとは限らないが、その魔物だけでなく元よりヴラド城の城主でネームドであるヴァンパイアの王[ヴァンパイア・スカージレット]がいる。
 ネームドの中でも有名な魔物であるが穏健派の魔物とされ、ヴラド城の外に出て被害が及ばされたことはない。その為にこれまでは攻略が後回しにされていたこともあり、聖騎士団としてもヴラド城へ初めての大きな遠征となる。

 当然Sランクの魔物であるスカージレットを相手にするだけでも本来は手に余る相手なのであるが、未確認の魔物はスカージレットよりは弱いという想定だ。
 魔物としての能力は早い段階で直ぐに上限に達することが多いのだが、基本的に歳を重ねるほどに魔物は狡猾になり厄介な相手になるからだ。
 人型の魔物は特にその傾向が強く、スカージレットもそうだが[未確認の魔物]も人型であることは分かっている。

 今回の遠征では未確認の魔物を倒すことを第一の目標にしているが、その魔物を発見出来なかった場合はスカージレットの情報を手にいれて、次の攻略遠征への活かせる成果を手に入れることが目的になる。

■■■

 ヴラド城までの道中は特筆すべき出来事もなく、難なく到着することが出来た。やはり聖騎士団のヴァニティーが地竜で地上から、イヴリースが飛竜で空から警戒してくれているのが大きい。
 ユウトがいる本隊に到達する前に魔物が駆逐されていくので、実に快適な旅で疲れることなく、それにイヴリースについてくる女騎士達がまた可愛いくて、目の保養にもなった。

 そして聖都市を出立し数日後、いよいよヴラド城に到着した。

 重々しい雰囲気を醸し出す巨大な古城は崖の上にあり、周りを森で囲まれている。
 今は国からのお達しでギルドを通して立ち入り禁止措置がとられており、破ればギルド員資格の剥奪という厳罰を課されるので冒険者は誰もいない。なので静寂に包まれた古城は不気味さを増す。

「さぁ、いよいよ城へ入るんだな!」

「ええ、そうでございます。まずは彼らが先導致しますので我々はゆるりとついていきましょう」

 ヴァニティーとイヴリースが隊を先導して率い、これまでヴラド城に挑んだ冒険者と斥候からの情報をもとに順調に攻略を進めていった。

■■■

 地竜や飛竜は大きく城のなかに入れないので、聖騎士団の二人は徒歩で隊を先導する。
 低層にいる魔物では圧倒的な戦力差があるため、苦もなく順調にヴラド城を攻略するもなかなか未確認の魔物に遭遇することが出来なかった。


 このまま未確認の魔物に遭遇することなく、ヴラド城の攻略になるかもしれない。そう皆がそう思い始めた頃、誰も到達したことの無い未踏エリアに到着した。
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