57 / 80
幕間-その2-
クズ勇者 その4
しおりを挟む各所の準備が整い、いよいよネームド討伐に出立する日が近付いてきた。
しかし何かと理由をつけて断られた為、ユウトは結局イヴリースと仲良くなる所か顔合わせ以降は一度も会うことも出来なかった。
■■■
「まったく、勇者である俺が声をかけてるのに全て断りやがって……」
不満を隣で聞いていた神官が謝ってくる。
「今は各所が準備に終われているので……それに彼女はトロイメア商会のご令嬢がゆえに強制することも出来ず、お力になれず申し訳ありません」
「いやいい、機会はまだあるだろうし俺も大人げなかったな。それより準備はどんな感じだ?」
「既に準備万端で、明日の出立を待つのみでございます」
「そうか……」
「それに今日は国王との晩餐会がありますので、その時に皆一堂に会して彼女にも会えるでしょう」
「ちょ、それを早く言えよ!」
「申し訳ありません」
「まぁそれなら退屈な晩餐会も楽しみになったな」
(出来ることなら俺のものにしたいしな)
■■■
晩餐会が始まり国王から激励されるも心は別のところにある。ヴァニティーも絡んできたが面倒なのでさっさと神官に擦り付けた。
そしてユウトは自分の席を離れ、目的の場所に移る。
「やあ久しぶりだねイヴちゃん、元気にしてた?」
一度こちらを確認するとお辞儀をして挨拶をしてくれる。
「……お久しぶりです勇者様。そうですね勇者様もお元気そうで何よりです」
「つれないなー、そろそろ俺のことはユウトと呼び捨てでいいんだよ?」
「……それは出来ません。勇者様と私では立場が違いますから」
「えー、でもイヴちゃんも商会のお嬢様何でしょ?」
「なっ、どこでそれを!? いえ、まぁもう話してもいいですか……」
「へぇー、イヴちゃんはお嬢様ということを隠してたんだ、何で?」
「……私は私ですから商会とは関係ありません」
「そっか、イヴちゃんは強いんだね。魔物と戦うのが怖くないの?」
「……そうですね。私は負けることが出来ないですから」
「へぇー、それは商会と教会の取引が関係してんの?」
「そこまで知っているのですね……それもなくはないです。だけど共に歩むと決めた人のそばにいる為には立ち止まることが出来ないですから」
「へぇー……そいつのことが好きなんだ。いやーそいつが羨ましいな」
「そういう話では……いえ話しすぎましたね、今のは忘れてください」
「ならまだ俺にもチャンスがあるかな? 今回の戦いで格好良いところを見せて、俺のことを好きにさせてみせるから見ててくれよ!」
「……まぁ、はい」
「それよりこの後に時間あるかな? 明日の作戦について確認させて欲しいのだけど?」
「すみません、この後は団長に呼び出されていますし、明日の準備がありますので」
「へぇーそっか、それは残念。まぁ明日から頑張ろうぜ!」
「はい、それではこれで失礼させて頂きます」
この日で親密になることは出来なかったが、前回より確実に近付けた気がする。
勇者というステータスを持ってる男が格好いい所を見せれば、きっとイヴリースも落ちるに違いないしなと思うユウトであった。
■■■
晩餐会は無事に終え、翌日にネームド討伐に向けての出立式を迎える。
普段は聖騎士団が出入りする通用門から魔物の討伐に出向くのだが、今回は特別に王城の正門から外に出ることになった。
そこからの道のりはさながらパレードの趣で、はじめて勇者を見る人たちから羨望の眼差しを向けられながら聖都市の外へ向かう。
ユウトはこれほどまでに多くの人から期待されていることを実感し、気持ちよさに酔いしれる。
「はっは! 俺に全て任せとけ!」
こうしてユウトはイヴリースに気に入られる為にも張り切って聖都市を出立した。
■■■
聖都市を出て未確認の、それもネームドと思われる魔物が出現したとされるダンジョン[ヴラド城]へ向かう。
未確認の魔物が今もヴラド城にいるとは限らないが、その魔物だけでなく元よりヴラド城の城主でネームドであるヴァンパイアの王[ヴァンパイア・スカージレット]がいる。
ネームドの中でも有名な魔物であるが穏健派の魔物とされ、ヴラド城の外に出て被害が及ばされたことはない。その為にこれまでは攻略が後回しにされていたこともあり、聖騎士団としてもヴラド城へ初めての大きな遠征となる。
当然Sランクの魔物であるスカージレットを相手にするだけでも本来は手に余る相手なのであるが、未確認の魔物はスカージレットよりは弱いという想定だ。
魔物としての能力は早い段階で直ぐに上限に達することが多いのだが、基本的に歳を重ねるほどに魔物は狡猾になり厄介な相手になるからだ。
人型の魔物は特にその傾向が強く、スカージレットもそうだが[未確認の魔物]も人型であることは分かっている。
今回の遠征では未確認の魔物を倒すことを第一の目標にしているが、その魔物を発見出来なかった場合はスカージレットの情報を手にいれて、次の攻略遠征への活かせる成果を手に入れることが目的になる。
■■■
ヴラド城までの道中は特筆すべき出来事もなく、難なく到着することが出来た。やはり聖騎士団のヴァニティーが地竜で地上から、イヴリースが飛竜で空から警戒してくれているのが大きい。
ユウトがいる本隊に到達する前に魔物が駆逐されていくので、実に快適な旅で疲れることなく、それにイヴリースについてくる女騎士達がまた可愛いくて、目の保養にもなった。
そして聖都市を出立し数日後、いよいよヴラド城に到着した。
重々しい雰囲気を醸し出す巨大な古城は崖の上にあり、周りを森で囲まれている。
今は国からのお達しでギルドを通して立ち入り禁止措置がとられており、破ればギルド員資格の剥奪という厳罰を課されるので冒険者は誰もいない。なので静寂に包まれた古城は不気味さを増す。
「さぁ、いよいよ城へ入るんだな!」
「ええ、そうでございます。まずは彼らが先導致しますので我々はゆるりとついていきましょう」
ヴァニティーとイヴリースが隊を先導して率い、これまでヴラド城に挑んだ冒険者と斥候からの情報をもとに順調に攻略を進めていった。
■■■
地竜や飛竜は大きく城のなかに入れないので、聖騎士団の二人は徒歩で隊を先導する。
低層にいる魔物では圧倒的な戦力差があるため、苦もなく順調にヴラド城を攻略するもなかなか未確認の魔物に遭遇することが出来なかった。
このまま未確認の魔物に遭遇することなく、ヴラド城の攻略になるかもしれない。そう皆がそう思い始めた頃、誰も到達したことの無い未踏エリアに到着した。
1
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる