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第3章 龍人族
帰らずの森
しおりを挟むアヴラムはラーカス商会の商会長であるハヤトに龍人の居場所を紹介して貰った。
しかしその場所は聖都市からかなり離れた場所にあるので、龍人の情報を手に入れたことを伝えるためにギルド本部に戻った。
■■■
ギルド本部に到着したアヴラムは伝言のみで済ませる予定だったので、受付に伝言を託そうとする。しかし伝言は直ぐに総ギルド長の部屋に行くように言われたので、エアミットに直接ラーカス商会で得た情報を伝える。
「……ということでまだ案内して貰えるかは分かりませんが、龍人の居場所をラーカス商会で教えてもらえましたので日を改めて向かおうと思います」
「そうかあい分かった。やはりお主が動く方が早く情報を集められるのう。だが依頼は依頼だ、ギルドから報酬も出そう」
自分の為に依頼を発行してくれたのに報酬は受け取れないと伝えるも笑顔で強引に渡される。
「……これは何ですか?」
「感応石じゃよ。ここにある物と共鳴して連絡を送れるものだが知らなかったのかい?」
「いや知ってますが、なぜこれを自分にくれるのですか?」
「今、魔物達にこれまでにない動きが見られる。これは勇者殺しの最悪の魔王の時代にも無かったことじゃ。おぬしでも良からぬことも起こるかもしれんしギルドに何が起こるか分からん」
「そうですか……まぁ有り難く受け取っておきますけど最後のが本音ではないですか?」
要は緊急時に直ぐに呼び出せるようにということだろう。とはいえ教会からの圧力に屈さないで受け入れてくれた恩もあるがギルドに所属している以上はしっかりと貢献せねばならぬだろう。
「はっは、どう受けとるかは君次第だよ」
こうして不敵な笑みを浮かべられながらも報告を終えたアヴラムはギルド本部を後にする。
■■■
翌日、ハヤトに教えて貰った龍人に会う為に、アヴラム達は魔の領域にある森の中に入る。
アヴラムにとっては初めて訪れる場所であり冒険者から[帰らずの森]と呼ばれるこの森は、深い霧が立ち込め足を踏み入れた者の方向感覚を狂わせる。
この森の厄介な所は単なる魔物の強さだけでは無く、この霧に紛れて油断をすると魔物に取り囲まれている状況になることだ。さらに森の奥に進めば進むほど魔物の脅威も増すので、迷っている内に魔物に取り囲まれたり自身の適正を超える魔物に遭遇し殺されてしまう。
しかし逆に言えばこの森の攻略適正を超えるパーティーであればこの魔物の強さを目安にして進むことで森の中心にたどり着くことが出来るのだ。
アヴラムとビートとユキノの3人はどうかというと、アヴラムが道を切り開くことで想定外の問題が発生しない限り難なく森の中心にたどり着きそして帰ることが出来るだろう。しかしこの森の中心にいるはずの龍人がアヴラム達に敵対してこない保証が無い。
ただでさえ人里はなれて暮らすよう人物なので出会って直ぐに追い返されることも、攻撃をされることも覚悟しなければいけない。
いづれの不足の事態が起こったときにも各自で対処することが出来るように、ビートとユキノの成長を促しながら進む。
この森ではスライムやゴブリン、ホーンラビット、ワイルドボアなどの通常の魔物をはじめキラーウィップなどの植物系の魔物、そしてワーウルフやサイクロプスなどの知能が高い魔物と、多種多様の魔物を連続して相手にしなければならない。
ここにいる魔物は霧に紛れて急に現れるので、目の前の敵に集中しながらも周りを警戒する冷静さを保ち続け戦う必要がある。なのでこの場所は戦いに慣れさせ経験を積ませる訓練に向いており、ビートに先頭で戦わせユキノが後方支援しながら進ませる。そしてアヴラムは時折アドバイスと回復の為の時間稼ぎに徹することにした。
「ビート、目の前の敵だけでなく周りにも気を配るんだ! 常に囲まれないように動いて自分が戦いやすいように場をつくれ!」
「ユキノは闇雲に魔物を狙うのではなくて、ビートが戦いやすいように先を読んで弓を打つんだ。一本一本に常に意味を持たせて撃ってみろ!」
「「はい!」」
幾度となく危ない場面があったが、徐々に多対一の戦い方にビートが慣れ立ち回りが良くなると、後れを取ることはなくなった。
ユキノの矢は一つ一つが高い威力を誇り、魔物の脅威を確実に削いでいく。最初は連射性の低さで適切なタイミングを逃す場面も見られたが、徐々にビートの動きに合わせて適切なタイミングと場所に矢を射れるようになってきた。
ビートとユキノの経験値が上がり順調に成長する。そして広範囲の魔物の気配を察知できるアヴラムは道に迷うことなく方向を常に確認しながらどんどん奥に進んでいく。
確実に変化していく魔物の強さだが、まだジェネラルやキング種などの他の魔物を統制できる魔物には遭遇していない。
聖騎士団としてこの森に遠征することが無かったことから、それらの魔物は元よりいないのかも知れない。
だが徐々にハイゴブリンの多いゴブリンの集団など、なかなかに厳しい相手が増えてきた。
「流石に中心に近付くと大変だな。そろそろ休憩をするか?」
「いやダイジョウブだ」
「私もまだ大丈夫」
「そうか……だがそろそろそうも言ってられないみたいだからとりあえずはポーションで補給しておくんだ」
「「?」」
二人はまだ気付いていないみたいだが既にかなり中心部に近づいてきており、近くにこれまでにない強い何かの気配がある。
この森にAランクの魔物が出るとは聞いたことがないので龍人の気配であるとは思うのだが、龍人が住み着いている影響で何か変化があったのかもしれないが、龍人の気配にしてはかなり範囲が広い様に感じられる。
想定以上に悪い状況になることも有り得るので、二人をしっかりと休ませてから先に進むことにした。
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