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第3章 龍人族
ブリューナク
しおりを挟むブリューナクとの一騎討ちで信じるに値することを認めて貰えたアヴラムは、話をする為にブリューナクの居住している岩の中に招待された。
岩の中の居住スペースは岩肌が丸出しだが4人が入ってもまだ余裕があるほど広く、しっかりと住めるように整えられていた。
そしてようやく本題であるイヴリースの治療の為に[龍人の里]に行かなければならないことをブリューナクに伝える。
■■■
「そうか世間は今そのようなことになっているのか……」
面倒事に関わりたくないのかブリューナクは辟易した表情をする。
「お気持ちは分かりますが、協力していただけないでしょうか?」
「協力することで俺に何のメリットがあるんだ……と言いたい所だが、乗り掛かった船だ、今回は君に協力しよう」
「本当ですか! それは良かった」
「勘違いするなよ、俺が協力するのは里まで連れて行くことだからな。話を聞く限り、その治療には族長の許可がいるだろう。それに龍人の里に直接そのイヴリースとやらを連れていかなければいけないだろうな」
「そうですよね……その事は何とかして見せます」
勇者が敗れたことをひた隠しにしているのに、大怪我を負ったイヴリースを聖騎士団の中から連れ出すことはアヴラム一人では難しいだろう。どうやって連れ出すか考えなければいけない。
「なんだ難しいのか?」
「難しいですけど必ず連れだして見せます。ですが龍人の里への道のりは険しいのではないのですか? いくら容態は落ち着いているとはいってもあんまり無理はさせられないのですが」
「険しくないこともないが、それ以上に俺たち龍人でなければ方向が分からずたどり着けないんだ」
話を聞くに、[龍人の里]にたどり着くまでの道のりはこの[帰らずの森]が可愛く見えるぐらい方向感覚を乱して来るそうで、うごめく気配もバラバラで道標はないそうだ。
帰巣本能とも呼べる感覚で龍人のみが方角を把握でき、[龍人の里]にたどり着けるらしい。
「それならブリューナクの案内があるので大丈夫かもしれませんね……ですがあまり時間を掛けたくないので、地上からではなく空から向かうことは出来ないのですか?」
「無理ではないが……お前達は飛竜に乗れるのか?」
「直接は出来ないですが飛竜船を使うのは駄目なのですか?」
個人で飛竜船を用意するのは無理だが商会の力を借りれば何とか出来るかもしれない。
「あれでは遅すぎる。野生の竜に狙われたらひとたまりもない」
「野生の竜がいる……ということは向かう先は霊峰ジーフの近くなのですか?」
「そうだが何か問題があるのか?」
「問題は無いですが、かなり険しい道のりになりそうですね……しかし安全が確保出来ないのであれば地上から行くのが無難かもしれませんね」
「まぁ何だ、自分でもどうにか出来ないか考えておこう」
「お願いします」
どうやって安全にイヴリースを運ぶかも考えなければいけないので[龍人の里]への道のりをもう少し詳しく聞き、移動方法を考えた。
■■■
「そういえば話は変わりますがなぜヒュドラがここにいるのですか? この場所にヒュドラがいるなど聞いたことがないのですが?」
「あいつは最近ここへ迷い混んできたんだ。だが重症を負っていてな、俺が治療している所だ」
「治療ってヒュドラは魔物ですよ? 暴れられて殺されるかもしれないのになぜそんなことを……」
「魔物だから殺すか……それは人の考え方に過ぎない。魔物であろうと人であろうと同じ命だ。理由無くして殺して良いものでは無いよ」
「ですが魔物は理由なく人を殺すではないですか……」
これまで数多の人が魔物に殺され、逆にアヴラムも魔物を殺してきた。自分の行いを正当化したい訳ではないが、繰り返される悲劇を防ぐために戦ってきた自負がアヴラムにはある。
「確かにそれは事実であるし魔物を擁護するつもりもないが、だがそれが全てでは無いんだ」
「そうですか……ブリューナクさんが人里から離れて暮らす理由がなんとなく分かった気がします」
魔物を倒さないという考えの持ち主だ、簡単には人の生活に馴染むことが出来ないだろう。
聖騎士団にいる龍人は魔物を倒すことに躊躇が無いので、龍人特有の考え方ではない。なのでブリューナクがなぜそのような考え方をするのか気になる。
「ブリューナクさんは魔物に嫌悪感を抱くことはないのですか?」
「その嫌悪感に囚われるようでは人が今の魔王に勝つことは出来ないだろうな」
「それはどういうことですか?」
「そのままの意味だよ。人が知ることを怠れば再び魔王に勇者が殺されて暗黒の時代が訪れるかもしれないだろうな」
「そんな……ではどうすれば?」
「それは人が自分達で考えなければいけないことだ。さて少し話が重くなったから話題を変えよう。君の戦い方にはどこか覚えがあるのだけれども師匠は誰なんだい?」
ブリューナクが何を知っているのかアヴラムはまだ話を聞きたいと思うが、それこそ自分で考え導き出さなければいけないことなのだろう。
「そうですか、いやそうですね……えっと師匠が誰かでしたよね。私の師匠の名前はアトゥムスといいます。龍人なのでもしかしたらご存知ではないですか?」
「ほう! なら君があのアヴラム君か!」
「どのアヴラムか分かりませんが、おそらくそうです。師匠の事を何か知っているのですか?」
「ああアトゥムスとは古い友人でな、君の事も色々と話を聞いているよ。つい最近もここに来てな色々と話を聞かせてくれたよ」
「なっ! 師匠は今どこにいるのですか?」
「いやどこに行くかは聞いていないから分からない。すまんな」
「まぁ元気にしているのなら良いです。師匠がいなくなるのはいつものことなので」
「はは、そうかそうか。なんだ……あれが師匠なら君も苦労しただろう?」
「いえもう慣れてますから大丈夫です。それによく分からないことでも、何時も他の人の事を考えてくれていますし」
「そうか……だがさっきの戦いでもそうだが、あれだけ剣を扱えるのに魔法に関しては教えてもらっていないのか?」
「やはりその話になりますよね。教えてもらっていないことはないですが、今は魔道具も普及しているので剣を極める方が強くなれるからと簡単にしか教えて貰っていないです」
「確かにハヤトが作り出した魔道具を見せられたら、分からないでもない。だが君は使わないのではなく苦手なのではないか?」
「うっ、やはり分かりますか。自分にとってはどうしても剣で相手を倒したほうが早いですから、後回しにしていたら苦手意識が根付いてしまいましたね。周りの仲間が魔法を使えたのでこれまで必要が無かったということもありますが」
「だが今日の戦いでも分かったとおもうが、それだけでは駄目だということが分かっただろ? これから君はネームドそれも固有魔法を使えるような相手と戦うのだとしたら、その時に今日のような状況はざらにあると思っておいた方がいい」
「そうですね……ならイヴリースが元気になったら教えてもらいましょうかね。その為にも早く元気になって貰わなければ」
イヴリースはアヴラムと違って真面目で色々なことをしっかりと身に付けているので魔法も普通に扱える。せっかく[オベロン学園]に行くのだからしっかりと学ぶこともすべきだろう。
こうしてブリューナクに[龍人の里]への案内の約束をつけたアヴラム達は、しばらく話をしたあとイヴリースを連れ出すためにも一度、聖都市に戻るのであった。
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