勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

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第3章 龍人族

交渉

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 アヴラム達はブリューナクに[龍人の里]への案内をしてもらえることになったのだが、治療を施す為にはイヴリースを連れ出さなければいけない。その為に一度、聖都市に戻るのだがブリューナクは街に入ることを嫌ったため後日に合流することにした。

 けれども聖騎士団の施設からイヴリースを連れ出すということは簡単ではない。傷付いたイヴリースが世間に見られる可能性があり間接的に勇者が敗れたことが露呈しかねないので、聖騎士団ないし教会から簡単に許可がおりるはずがないのだ。

 こればかりはアヴラム一人の力ではどうしようもないので、トロイメア商会の商会長ギルスに協力を依頼することにした。
 それは流石に親族からの要望であれば聞き入れられる可能性があると踏んだからだ。

 ギルスに連絡をいれると快く協力をしてくれる運びとなった。

■■■

 アヴラム達はとある作戦を実施し、聖都市にある宿場の部屋でギルスと合流する。

「ギルスさん、どうでしたか?」

「駄目だった……やはり門前払いだったよ。そして予想通り情報の出所を問い出されたよ」

「そうですか、ならじきに向こうから接触が有るでしょうね」

「ああそうだろうね。ここに来るまでに後を付いてくる奴らもいたから」

 ギルスがなぜそのようなことを行ったのかというと、アヴラムが聖騎士団の上層部に手っ取り早く取り合って貰う為だ。

 イヴリースを連れ出す為には、教会や聖騎士団の上層部の許可を貰わなければならない。しかしアヴラムはもうその立場の人達と直ぐに会うことが出来る立場にない。

 穏便でないやり方なら他にもやりようはあっただろうが、それこそ取り返しのつかないことになるかもしれない。なので向こうから会いたくなるように仕向けてみたのだ。

 情報漏洩を厳しく監視している教会や聖騎士団に正面から頼み込んでも取り合って貰えないことは分かっている。そして幾ら立場の低い者から取り合って貰おうとしても意味をなさない所か処罰の対象になりかねない。
 そこでギルスに直接上層部に取り合って貰い、一般に知り得ない情報を話すことで内通者を疑わせ、教会や聖騎士団の方から接触してくるのを待つという作戦だったが、どうやら上手くいったみたいだ。

 窓の外を見ると宿の前に見慣れた紋章の入った竜車が停まる。

「ならちょっと行ってくるからビートとユキノはギルスといっしょに待っていてくれ 」

 宿の亭主に迷惑を掛けないように自ら外に出て対応する。

「アヴラムさんですね。一緒に付いてきて貰えますか?」

「ええもちろんです」

 アヴラムはもっと強引に拘束されることも想定していたのだが、むしろ丁重に扱われ連行されていくのであった。

■■■

 アヴラムが連行された先は教会ではなく王城であった。
 聖騎士団の団長か神官や枢機卿の元に連行されると思っていたアヴラムは動揺する。しかし状況を整理する時間は与えられず、いきなり王の間に連れていかれたと思うと、そこで待ち構えていた王に謁見をすることになった。

 アヴラムは辺りを見渡すも、勇者一向どころか神官もいないので、王自らが配下の者を使って直接自分を呼び出したことになる。
 普通ではないことにアヴラムは訝しみ警戒しながらもひざまず

「久しいでないかアヴラムよ」

「お久しぶりです国王様」

「そんな堅苦しい挨拶は良い、今日お主をここに呼んだのはワシなのじゃ。頭を上げよ」

「はっ!」

「さてお主はなぜここに呼び出されたと思うかの?」

「はい、勇者の大規模遠征をトロイメア商会の商会長に話したことは申し訳ありませんでした。ですがお願いを聞き入れて貰うためには、こうして呼び出して貰うほかなかったのです」

「ああそうであったな。確かに御主の居場所を知れたのはその件だが、そんなことはどうでも良い。ワシもお主に話したい、いや頼みたいことがあってここに呼んだのだ。しかしまずは御主の話とやらから聞こうではないか」

「有難うございます。国王様のお耳にも入っているかと思いますが、先のネームドとの戦いで聖騎士団の一人が治療が難しい重症を負っております。ですが治療が出来るかもしれない場所を見つけましたので、その者を連れていかせて頂きたいのです」

「そうかそうか、確かにその話はワシの耳にも入っておる。民を守るための騎士団が魔物に敗れるとは嘆かわしいことじゃ。聖騎士団でも治せないものを治せる可能性を見つけるとはさすがじゃと言いたい所だが、その話を聞き入れるためにはワシの話も聞いて貰わねばな」

「勿論で御座います。どのような話なのでしょうか?」

「そうかそうかなら話すがの、御主を聖騎士団に戻してやろうと思うのだがどうだ?」

 想定外の申し出に戸惑うアヴラム。しかしどう考えても、教会側と話がついている訳では無さそうだ。

「お言葉ですが国王様、それは私の意思に関係なく難しいかと。私は聖騎士団の指令に背き退団した身ですので」

「そんなモノはワシの一声で何とでもなるわ。御主の同意さえ得られればどうにかしてみせよう」

 アヴラムはやんわりと断ろうとするも、国王はそんなことを察してくれない。仕方ないのでハッキリと断ることにする。

「すみません……国王様のお気持ちは嬉しいのですが、私の居場所はもう聖騎士団には無いので辞退させてください」

 はっきりと断られ国王は落胆の表情をみせる。

「しかしなぜまた私を聖騎士団に戻そうと思われたのですか? 聖騎士団にはいまなお優れた騎士がいると思うのですが」

「謙遜などするでない、お主がいなくなってはっきりとそれがよく分かったわ。それにお主も知っての通り大規模遠征の結果が芳しく無くてな……」

 つまり国王の話によると、今はひた隠しにしてしのいでいるが何れは大規模遠征の結果は公になってしまう。なので失敗に終わったことでがた落ちになる信用を取り戻す為には、目に見える結果を残す必要があり過去を忘れさせる必要があるということだ。そこで勇者に代わる旗印の元でネームドを討伐しようと考えているので力を貸して欲しいらしい。

「聖騎士団を離れた身とはいえ魔王を倒す志を捨てた訳ではありません。なので私もネームドを倒すことには大いに賛成です。ですが聖騎士団に所属せず協力するという形をとるのは駄目でしょうか? 報酬も名誉も私には要りませんので、代わりに先程の件を了承頂ければと」

「うーむそうか……残念だがまぁそれでも良いのかのう」

「可能であれば苦しむ友の為に、先に治療に向かわせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」

「むむむ……それを断れば協力をせぬと言うのだろう。仕方ないがそうは時間を掛けてくれるなよ」

「もちろんでございます」

 こうして条件付きではあるが予想外にすんなりと許可を貰えたアヴラムは王城を直ぐに後にする。長居することで神官に見つかると、今の話が覆されかねないからだ。

■■■

 ギルス達と合流したアヴラムは王城で王との会話を話した。

「良かった……と言っても君には負担を掛けてしまうようだな。本当にすまない」

「いえ元より魔物を倒すことは自分の仕事でもありましたから、ネームド討伐も延長線上の仕事ですよ。それより早くイヴを連れ出しましょう」

「ああそうだな」

 国王から許可を貰ったとはいえ、時間が掛かることで教会から横やりが入ってはややこしいことになってしまう。なので急いでイヴリースを施設から連れ出し、ブリューナクと合流することにした。
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