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幕間-その2-
龍物語
しおりを挟むアールヴヘイム国に伝わるお伽噺。
■■■□□□
――遥か昔、龍が空を飛んでいた頃
国にはまだ勇者も冒険者もおらず全ての土地が魔物の領域で、人は魔物によって常に命の危険に晒され怯えながら暮らしていました。
魔物は動物のように作物を荒らすにだけにとどまらず人を襲い殺します。
魔物は食欲などの原初的欲求だけでなく人に対して嫌悪感を抱くからで、そこに明確な理由はありません。
魔物にとっても人は忌み嫌うものなのです。
人もただ殺されるのを待つだけでなく魔物の侵攻に抗い必死に戦おうとしましたが、敵うことはありませんでした。
種として身体的な能力に劣る人間は魔物という敵に対して戦う術を持っていなかったのです。
その為に被害は甚大なものになり、とにかく魔物に近付かないことしか人には出来ませんでした。
この状況をどうにかする為に人が助けを求めた相手、それが龍という種族です。
龍はこの時代に魔物と戦える唯一の存在で、全ての生物の頂点に君臨する存在でした。
その自由に空を飛び何者にもとらわれることなく気ままに生きている龍の比護に、人という種が入るためには少なからずの代償が必要です。
龍が人を比護する代償として求めたことは若い子供を供物として捧げることでした。
未来ある子供を犠牲にすることに反対する声もありましたが、人はその要求に従い子供を捧げることで龍に守って貰えることになったのです。
なぜ龍が若い人の子を求めたのかは分かりませんが、龍は盟約に従い人を襲う魔物を殺すようになりました。
そして龍が守る場所は龍域(聖域)と呼ばれ、魔物が近付くことが出来なくなります。
その名残は各地に人の領域として残り、村や町が造られました。
こうして人が一時の平穏を手にした後のある日、人の村に近付く者がいました。
傍らに竜を携えたその者は自らを龍人と名乗り、人と共生し人を守ってくれるようになります。
龍人は人に魔物と戦う術としてスキルそして魔法を教え、龍に頼るだけでなく人自らが魔物と戦える方法が有ることを教えてくれました。
魔物から得られる素材により人の暮らしはより豊かになり、平穏な暮らしは末永く続いていくものと思われました。
しかしその期待は人の欲によって失われます。
平穏な暮らし送ることで龍に守られていることで成り立っている平穏という恩恵を忘れ、龍人によって授けられた魔物と戦う術を覚えた人は思います。『もう子供を龍に捧げる必要は無いのではないか?』と。
平穏を自らの力によって得ていると思っている人の、龍に対する不満は日に日に積もっていきます。
そして人が龍との繋がりを断ち切る為には龍と繋がる龍人が邪魔で、遂に人は龍人を罠に嵌めて追い出すことになりました。
そのことに気付いた龍人は悲しみ嘆き、人の側から離れていきます。
龍人が人の元を去り、人は龍に供物を捧げることをやめました。
人はこれで子供を失わずに済むようになるので、より皆が幸せになることが出来ると考えました。
しかしその希望は突如裏切られます。
龍の加護を失った龍域つまり人の住む場所に、魔物が大挙して押し寄せてきたのです。
龍の怒りを買った代償はあまりにも大きなものでした。
結果として魔物によって多くの命が失われ、人は龍に守られて平穏を享受していたことを思い出します。
悲しみに包まれた人は己の過ちを反省し龍そして龍人との繋がりを取り戻そうとしましたが既にその術を失い、龍そして龍人はその後、人の前に姿を表すことはありませんでした。
それでも人は己の過ちを深く反省し龍を神の化身として崇め、龍人は神の使いであるとされるようになりました。
そして人に初めて姿を表した龍人の名をとって、龍を崇めるヴァン神教としての教えを広めます。
ヴァン神教の教えにより人が己の過ちを反省し崇め続けた結果、後の初代教皇が龍と繋がりを取り戻し龍の怒りを静めることに成功します。
こうして龍域があった場所には再び平穏が訪れ、町は人の領域として魔物の侵攻が無くなりました。
人はヴァン神教の教えを守り、龍によって守られていることを忘れず伝えていくことで平穏に暮らすことが出来ているということを忘れてはいけないのです。
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