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第3章 龍人族
報告と噂
しおりを挟むアヴラム達はギルド[クリフォート]が冒険者ギルドになるための認定試験課題である[エルフの涙]を手に入れ、エルフの里からフェブラの街に戻ってきた。そして報告のためにギルドに向かう。
■■■
扉を開けギルドの中に入るとルインがこちらに気付き、直ぐに駆け寄ってくる。
「おかえりなさい!」
「「ただいま」」
「あら? その後ろの方は誰ですか?」
ルインがアヴラムの後ろにいるユキノの存在に気付くもフードで耳が隠れており、その他の身体的な特徴はユキノには無いのでエルフだとは気付いていない様子だ。
しかしここで正体を明かすのは憚れるので応接室に移動する。
応接室はイヴリースを連れ戻しにきた女騎士達に扉を壊されていたがしばらくフェブラの街を離れている間に修復を終えたそうだ。
「それでそちらの方はわざわざ場所を変えるということは……もしかして?」
「はじめましてユキノです」
自己紹介と一緒にフードを外し特徴的な耳があらわになり、下手な説明より説得力がある。
「やっぱり! こちらこそはじめまして、私はここクリフォートの受付をしているルインです」
ルインとユキノが握手をするも、ルインにとっては初めて触れあうエルフなどで恐る恐るといった感じである。
「エルフのユキノさんがここにいるということは本当に……」
「その話はデミスさんも交えてしたいのですが今はどちらに?」
「えっとそれがですね……前にもお伝えしましたが本当に勇者が大規模遠征を実施したみたいなんです。その後に聖都市の方で何やら動きがあったみたいなのですが、どうやら勇者達が既に帰って来たのではないかと。でも遠征の結果がどうなったのか情報が流れてこないので、状況を確かめる為に聖都市へ向かったのです。おそらく今日には戻ってきますよ」
「そうですか、それは確かに気になりますね。意図して隠しているなら良からぬことが起きているかもしれませんし……なら、しばらくここで待たせて貰っていいですか?」
「もちろんいいですよ。それと……その間にユキノちゃんをギルド登録しても良いですかね?」
ユキノの年齢は自分達より遥かに上なのだが見た目が子供なので、ルインは子供に対するように接しているが、ユキノは気にしていないので別に良いのだろう。
「そうですね良いと思いますが、ユキノはどうだ?」
「うん、お願いする」
ということでデミスが帰還するのを待っている間にユキノをギルドに登録を済ませることにした。
■■■
ユキノの登録を終えて長らくの間を待っていると、ようやくデミスがギルドに戻ってきた。デミスはアヴラム達が帰ってきていることそしてエルフのユキノが一緒にいることを聞いて、直ぐに応接室に入ってくる。
「アヴラム君、ビート君、おかえりなさい! そして貴女がユキノさんですね。はじめまして私がここのギルド長のデミスです。それにしてもまずは君たちが無事に戻ってきてくれて本当に良かったよ」
マルクの町から先にフェブラの街に帰って来たトロイメア商会のフォッシルが、マルクの町での出来事について報告してくれていたらしい。
さすがにその後のことは分からないとのことなのでエルフの里で何があったのかを話し、そして手に入れた[エルフの涙]を取り出して見せる。
「これがエルフの涙……」
デミスもルインも[エルフの涙]と呼ばれる結晶の煌めきに目をとられる。
しばらくして本来の目的を思い出したデミスが感謝の言葉を口にする。
「アヴラム君、信じていたけど本当に手に入れてくれてありがとう! そしてユキノさんもお婆様の形見であるのに譲ってくれてありがとう! これで私達のギルドが本当に冒険者ギルドに成ることが出来るよ」
デミスとルインの目にはうっすらと涙が溢れている。二人にとっては[エルフの涙]を手に入れられるかで冒険者ギルドになるという悲願が叶うかどうが懸かっていたので安堵したのであろう。
「自分の力だけで手に入れられた訳ではなくて、本当に皆の力があってこそ手に入れられました。これを譲ってくれたエルフの為にも魔物をそして魔王を倒さなくてはいけません」
「そうだ! その魔王討伐に関わることなんだけど以前に勇者の動向を話したことは覚えているかい?」
「ええ確かネームド討伐の為か、大規模遠征の準備ををしているという話ですよね?」
「ああその話で合ってるが、それで本当に聖騎士団の人間も加えた人員で遠征が行われたみたいなんだ。だけど一向にその後の話が伝わってこなかったから聖都市に出向いて調べていたんだけどね……」
「はい、その話はルインさんから聞きました。それでどうだったんですか?」
「頑張って調べたのだけれどもね、詳しい話は情報統制が敷かれていて聞くことが出来なかったよ。だけどどうやら芳しい結果は得られなかったみたいだね」
「そうなのですか……それで勇者達の被害の状況とかは何か知れなかったんですか?」
「詳しくは何も……でも聖都市は暗い雰囲気に包まれてどこか元気が無い様子なのに、訂正しないで単に情報統制を引いているところを見るに相当酷いものだと思う」
「そうですか……」
聖都市では噂が広まらないように火消しの為、そして監視の目として聖騎士団が街に出ているらしい。アヴラムは一緒にネームド討伐に向かった聖騎士団員が誰なのか、そして被害状況がどれくらいなのか気になるがデミスが分からないのでは確かめることは出来ない。
「でもこんな状況だとエルフの涙を納入報告する時に何が起こるか想像が付かないから、出来ればアヴラム君達についてきて貰いたいけど大丈夫かな?」
「もちろんです。むしろ実物を誰かに預けると不安ですし、何かあるとユキノにも他のエルフ達にも顔向け出来ないですから」
隣でユキノも頷いている。
「あはは、そうだよね。それを聞いて安心したよ。なら帰って来て直ぐになって申し訳ないけど宜しくね」
こうしてギルドへの報告を終えたばかりだが、後日にアヴラム達も聖都市に向かうことになった。
■■■
余談だが[フェブラ]の街でユキノが宿泊する場所はルインの家になった。
最初は誰かに狙われたら不味いので、ビートと同じ様に同じ宿屋にと思ったのだが、反対したルインが預かることになったのだ。
女同士でということもあるが、ギルド職員が住む家はデミスが用意しているらしく、アヴラムが側にいることには劣るが一般より遥かに安全は確保されているので何も心配はいらないそうだ。
こうしてしばらくは身の回りの準備を整えつつ、ギルドの認定の為に聖都市へ向かう日がやってきた。
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