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第3章 龍人族
ギルド本部
しおりを挟むデミスとアヴラムそしてビートとユキノは、認定試験の課題である[エルフの涙]を手に入れたことを報告すべく聖都市ビヴロストにやってきた。
ビートとユキノにとっては初めての聖都市だが、目立って不要なトラブルに巻き込まれないようにフードを被って移動する。
聖都市では亜人に対する目が厳しく奴隷すらもほとんどいないのでそのままであると悪目立ちするのだ。
最初はエルフであるユキノの存在が公になれば危険なことになりかねないので、ルインと一緒に待っているべきかという話にもなったが、[エルフの涙]に関わることでありまたアヴラムの側にいたいということで一緒に付いてきた。
アヴラムにとっても久々の聖都市でありまず入ることが出来るかが心配ではあったが、ユキノとビートの確認に少しだけ確認に時間が掛かった以外は何事もなく入ることが出来た。
聖都市の中に入り奥に進んでいくと、中心部に近付くにつれ人通りも増えていくのだが、知っている光景とは違いどこかいつもの明るさが無く活気が失われている。そして街の中にいる衛兵の数が異様に多く、その誰しもが険しく張り詰めた表情をしている。
少し話を聞いてみたい所ではあるが、要らぬ騒ぎに巻き込まれないよう真っ直ぐにギルド本部へと向かった。
■■■
ギルド本部は教会とは違い無骨な白い壁の建物ではあるが、街の中では有数の巨大な建物なのでかなりの存在感がある。
入口に近付くとフードを被って移動しているので衛兵が怪しんでこちらを見てくるが、ビートがフードを外すと訳有りということを分かってくれた。さらにデミスが事前に許可を貰っていることを話すとすんなりと通して貰える。
色々と確認されこのような衆人の前でユキノの正体がバレると面倒なことになりかねないのでアヴラムは安心した。
建物の中に入り受付を済ませると部屋に案内してくれるということなので付いていく。しかしそこは応接室などではなく総ギルド長の部屋だった。
アイテムの確認だけであればもっと他の場所で良いはずなのだが、総ギルド長がアヴラム達に会いたいと希望しているそうだ。
部屋の中に入ると白髪に白髭を蓄えた老人なのだが、他の人より遥かに身長が高く威圧感がある総ギルド長が待ち構えていた。
「久しぶりだなデミス。そして初めましてアヴラム君、ビート君、ユキノ君。私が総ギルド長のエアミットじゃ」
「お初にお目にかかります、アヴラムです。エアミット様は私たちのことをご存知なのですか?」
「デミスから色々と話を聞かせてもらっているからのう。それに君のことは前から噂で知っておるが、こういう形でお会いすることになるとは思っていなかったわい」
「総ギルド長に知って貰えているとは光栄です。今はギルドに所属する身ですので今後ともお世話になると思いますがよろしくお願いします」
「はっは勿論じゃとも。此度の[エルフの涙]の入手においても君の活躍を色々と聞いておるよ」
ギルド独自の情報網があるので既に様々なことを知っているみたいだ。
「ですが自分が所属したにしても、レジェンダリーアイテムの入手は余りにも課題が難しすぎませんでしたか?」
「だが君は成し遂げてくれた。それに我々では手出しが出来なかった案件を解決してくれたではないか」
「まぁそうですが……」
結局は総ギルド長の手のひらの上で踊っている気もするが、確かにお陰でユキノを救うことも出来た。そこに悪意がないのならこれ以上は文句は言わまい。
「それでは早速で悪いが[エルフの涙]を見せて貰えるかな?」
「はい勿論です」
アヴラムはエアミットに[エルフの涙]を差し出す。
「これが……どうやら本物みたいだね」
「エアミットさんは鑑定スキル持ちなのですか?」
「もちろんだとも、伊達に総ギルド長をやってるわけではないからのう」
エアミットは一ギルド員からの叩き上げで総ギルド長の立場にまで上り詰めた人物なのだ。
「それではこれでギルド[クリフォート]は冒険者ギルドとして認めて貰えるのですか?」
「そうじゃこれで君たちは晴れて冒険者ギルドになる。本来であれば鑑定士に見せるのじゃが私が鑑定しておるから問題ないのう。残りのいくつかの手続きはデミスが行う必要があるが、君たちはこれから正式に冒険者ギルドとして頑張ってくれ」
エアミットの言葉を隣で聞いたデミスが再び感謝してくる。デミスにとっては悲願の冒険者ギルドに認められた瞬間なので無理はないだろう。
こうしてここまでたどり着くのに紆余曲折が有りながらも、認可の時は特に何事もなく冒険者ギルドとして認められることになった。
■■■
デミスが手続きを行っている間に、アヴラムは気になっていることを聞く。
「そういえばエアミットさんは勇者の事について何かを知りませんか?」
「……それは大規模遠征についてかね?」
「ええ他では聞けないみたいですが、ここでなら何か情報を聞けるかなと思って」
「ふむ確かに知ってはおるが、箝口令が出ているから私の口からは言えんよ」
「そうですか」
「だがそれを知る聖騎士団員との世間話なら別じゃ。君は知るべきだと思ったから呼んでいるからもう少し待っていてくれたまえ」
「ちょっ、呼んだって誰を!?」
「心配しなくても悪いようにはならないさ。彼女達から君がここを訪ねてきたら連絡するように頼まれていてな」
「一体誰が……まぁそれなら仕方ないですかね」
聖騎士団員こそ口止めをされていると思うのだが、それを破ってまで伝えたいことがあるということなのだろう。
■■■
しばらく待っていると、扉が開き見知った三人組が入ってくる。いつもイヴリースを慕っているミアー、ディケー、レーネの3人だ。
「アヴラムさん! 良かったようやく、ようやく会えました。イヴ姉様が、イヴ姉様が!!」
「イヴリースがって……まさか遠征に付いていった聖騎士団員ってイヴリースなのか!? それで一体イヴリースがどうしたんだ!」
「それが……」
イヴリースと共に3人とも遠征について行きヴラド城で人型のネームドと戦闘になったそうだ。そしてその戦いでヴァニティーが殺されたこと、イヴリースも重症を負い死にかけたことを聞く。
イヴリースは今もなお意識を失っていて何とか一命をとりとめている状況だそうだ。
勇者はその後にネームドと戦い呆気なく敗れたそうだが、その間にイヴリースを運び出す事ができたそうだ。
「そんな……何でイヴリースがそんな無茶な任務に着いたんだ!? ダンジョン内で飛竜を飛ばせないことなど分かっているだろ!」
飛竜に乗って闘うのが本来のイヴリースに、ダンジョン内で戦わせるというあまりにも適正でない理不尽な任務に怒りが込み上げてくる。
「落ち着いて下さいアヴラムさん。イヴ姉様が聖騎士団を退団する条件としてこの遠征に付いていくことが課せられたのです。断れば退団することは認めないと……。なのでアヴラムさんと早く合流するためにイヴ姉様は無茶と知りつつもこの任務に付いたのです」
自分と合流するために無茶な任務に付いたと聞いてアヴラムは複雑な心持ちになる。
それに勇者の発言で無茶な任務が組まれ聖騎士団としても力のある人を派遣しなければいけないという判断だったとはいえ、もしアヴラムが聖騎士団に残っていればイヴリースではなくアヴラムが派遣されたはずだ。そうであったならばイヴリースは傷付かずに済んだはずだ。
「そんな、何でどうして……それよりもイヴリースは今どこに?」
「聖騎士団の施設の中で治療を受けているのですが、傷が深く損傷が激しいので誰にも完治させることが出来ないんです」
「そんなに悪いのか……分かった、何ができるか分からないけどそこに案内してくれるか?」
「はい、もちろんです! アヴラムさんが来てくれるとイヴ姉様もきっと喜びます」
どうすることもできなくて不安な表情をしていた3人の顔が少し晴れやかになる。
「すみませんエアミット様、デミスさんが戻ってきたら先に帰っておいて貰えるよう伝えて貰えますか?」
「ああ、分かった」
「それとビートとユキノはここで待っていてくれくれるか?」
聖騎士団の施設に向かって流石にどうなるか分からないし、地位の低い亜人をすんなりと通してくれるとも思えない。
「ワかった」「うん」
アヴラムの意図を汲んでくれた二人は、素直に応じてくれる。
「それでは早く行こう」
聖騎士団の中に入れるかどうかはまだ分からないが、こうしてアヴラムは3人についてイヴリースの元に向かうことになった。
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