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第3章 龍人族
龍人族のレラ
しおりを挟むイヴリースが生死をさ迷う重体を負い今もなお意識不明であることを聞いたアヴラムは、治療を施している聖騎士団内の施設へ向かうことにした。
アヴラムは何が出来るのか分からないが、何か力になれることが有るかもしれない。それに手元には[エルフの涙]があるので、これを使えば何とか出来るかもしれない。
その可能性を信じアヴラムはイヴリースに会う為に聖都市にある聖騎士団の本部に急いで向かう。
■■■
聖騎士団の本部は湖の中にあるのだが、王城が湖の中心にあり聖騎士団の本部はその隣の島にある。この島には教会がありその中に聖騎士団の本部があるのだ。
ちなみにこの教会は市民に解放された場所ではなく、国王などが祈りを捧げるために用意された場所である。
アヴラムは聖騎士団に所属していた頃、直接この島に通じ本部に入れる橋と通用門を使用していたのだが、しかし今は部外者である。
アヴラムは他の来客者と同様に王城の手前にある一般に解放された場所に通ずる正門から入らなければいけない。その為、アヴラム達は正門の前までやってきた。
「ミアー、ここまで来て言うのも何だけど本当に自分が入っても大丈夫なのかな?」
アヴラムは国王そして教会から良く思われていないことは確かであり、ここまで直接何かをされたわけでは無いとはいえこの場所に戻ってくると不安になる。
「そうですね……少し前までは勇者を支持する人達が幅をきかせていたので入ることが難しかったですが、勇者の敗北以降はそんな事を出来なくなっているので大丈夫だと思います」
「そうか……それなら行きますか」
アヴラムは複雑な感情を抱きながらも歩を進める。そしてまず正門で簡単な受付を済ませ、一般の冒険者として城の敷地内に入る。
ここまでは犯罪歴や武器の持ち込みさえなければ普通に入れる場所である。しかしここから先の王城の中や聖騎士団の本部に向かうには更に厳しいチェックがある。
なので先に進むための門に立っている衛兵に話しかける。
ここに立っているのが知り合いであれば話が早いが王城に勤める兵士が担当しているので面識がない。
「すみません、聖騎士団の本部へ通して貰いたいのですが」
「そうか、それでは目的を記入していただき身分を証明するものを提示して貰えますかな?」
「はい」
アヴラムは聖騎士団員への面会と記入しギルドカードを提示する。
「アヴラムねぇ……申し訳ないがこのランクではそのまま通すことが出来ないな。誰かからの紹介状や君のことを保証する者はいないかな?」
「それなら……」
後ろにいる3人に保証人をお願いする。
「はっ! 聖騎士団の方々が保証人であれば問題ありませんね。それではこちらが許可証になります」
「有難うございます」
衛兵の対応を見て聖騎士団のステータスの高さを改めて思い知る。
しかし内心は不安であったが先に進む許可も無事に降りたので、いよいよ聖騎士団の本部へと向かう。
道すがらアヴラムのことを知っている人がいて話しかけたそうにしていたが、そんなことをするためにここにきた訳では無いので、声を掛けられる前に足早に橋を渡った。
一般の人は聖騎士団の内部へは武器の持ち込みが禁止されているので事前に置いてきたが、衛兵に再度確かめられた後に中に入る。
「ここに入るのも久しぶりだな……」
建物の中に入ると見慣れた風景が目に入ってくる。しかし道行く騎士達に覇気が感じられず、どこか重たい雰囲気である。
「今はヴァニティー様がお亡くなりになりましたので喪に服していますから。それにネームドに勇者が敗れたという事実が皆を不安にさせているのです」
「そうか……」
皆が俯きながら歩いているのでこちらに気付かないというのは都合が良いが、騒ぎになる前に移動する。
「この部屋の中にイヴリースがいるんだな?」
「はい、早くお会いしてあげてください」
ミアーに促され、アヴラムは頷き部屋の中に入ると、そこにはベッドの上に横たわり眠っているイヴリースがいる。そしてその傍らには龍人のレラ様が立っていた。
「レラ様……どうしてここに?」
「ミアーちゃんか……いやこの娘に預けた竜が悲しんでいるから仕方無く見に来たんだよ」
レラは金髪の巻き髪でおっとりした雰囲気を醸し出すお姉さんといった見た目だ。龍人といっても普段の見た目は人とほとんど変わらず、ユニークスキル[龍化]を使わなければただの天然のお姉さんだ。
アヴラムはベッドの側に寄り、イヴリースの様子を見る。
容態は安定しており眠っているが、まだ一度も目を覚ましていないそうだ。そして傷は塞がってはいるが、お腹を貫通された痛々しい痕が残ったままである。
外の傷は薬で治すことが出来るが、中の臓器を復元するまでには至らない。損壊しているだけであれば魔法で何とか出来るのだが、失われたものを補うことは出来ないのだ。そのためイヴリースは意識を取り戻すまで回復することが出来ていないらしい。
「レラ様のお力でどうにかすることが出来ないのですか?」
「私にそんな力は無いよ。里に戻れば何か出来るかも知れないけど……難しいかな」
「レラ様、少しよろしいでしょうか?」
「ああアヴラム君か、久しぶりだね。しばらく見ないうちに変わった?」
「疑問形ってそう思っていないでしょ……ってそうでは無くて、[エルフの涙]というアイテムをご存知ですか?」
「ええ知ってますよ。確か生命力を底上げすることが出来るとか。でも簡単に手に入る物でもないでしょ?」
「実は……」
あまり公にすべきことではないのだが、エルフの里に行ったことそして[エルフの涙]を手に入れたことをレラに話す。
「そう……確かにそれを使えば里の者なら治療に使えるかもしれないけど、龍人の里に行くには案内が必要だよ。私が案内してあげたいけど、ここを離れるにはいかないから」
「そうですよね……」
「そういえば君の師匠はどこにいるか分からないの?」
確かに自分の師匠であるアトゥムスも龍人なので近くにいれば案内してくれるだろうが、今は行方不明だ。『君はもう卒業だ』と言われてからもう何年も姿を見ていない。
「師匠はどこにいるか分からないです……なので頼ることは出来ないですね」
「そう……なら他の龍人を探さないといけないか」
「聖騎士団とは違う他の場所、それも人間と生活している龍人がいるものなのですか? そんな話は聞いたことがないんですが」
「可能性の話だね。現にエルフも見つけられたのでしょ? 自分たちが知っていることだけが全てでは無いと思うよ」
「そうですよね、少しでも可能性があるならそこに掛けてみないとわからないですしね。分かりましたこれから探してみます」
今もなお眠り続けるイヴリースが元気にならなくては悲しむ人も多い。
龍人の里に行けば治療する可能性があるなら行ってみるべきで、その為にもどうにかして人の領域で暮らす龍人を見つけ出すべく動き出すアヴラムであった。
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