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第3章 龍人族

龍人の里

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 アヴラム達はグラキエースに運ばれ[龍人の里]にたどり着く。

 [龍人の里]は周辺を深き森に囲まれた山の上にあり一年のほとんどが深い霧に包まれている。
 本来であれば[帰らずの森]より遥かに凶悪なその森が冒険者の足を阻み、龍人の導き無しにはたどり着くことが出来ないようになっているのだが、今回はそれを文字通り飛ばした。
 本来であれば森の上を飛ぼうとする者があれば竜に襲われるのだが、竜の上位種である龍に運ばれているおかげで近付いてくる竜は皆無である。

 アヴラムは[龍人の里]は人と交流を図っていないのでもう少し質素な暮らしをしていると思っていたが、そこは石で造られた建造物が建ち並び想像以上にしっかりとした町になっていた。
 そして生活する龍人は見た目は人と何ら変わらないので一見しただけでは[龍人の里]とは思えないのだが、グラキエースイグニスと会話が出来るというのはやはり龍人ならではである。

 そして[龍人の里]ではもっと警戒されると思っていたのだが、龍に乗ってきたからかすんなりと里に入ることが出来た。
 そしてブリューナクが事情を説明してくれたので門番の案内のもと直ぐに龍人の長カルロに面会することになったのだが、その道中に突っ掛かってくる者が一人。

■■■

「何だお前ら! このフルグル様の許可を得ずに里に入ってくるとは無礼だぞ!」

 遠方の建物上で腕組みをしながらこちらを睨んでくるが、距離が遠くてアヴラム達は反応に困る。

「えっと彼はフルグル様と言いまして長の孫なのですが、相手をするだけ時間の無駄なのでお気にせずお進みください」

 アヴラム達は案内をしてくれる門番に無視をするように促される。
 フルグルは自己主張が激しくお調子者の為に里の皆も扱いに困っているみたいだ。

「えっと……そうですか」

 促されるままに歩を進めるアヴラム達だがフルグルは当然のように目の前までやってきて立ちはだかる。今度は隣に小さな子供の取り巻きを連れてだ。恐らく建物の下で待機していたのだろう。
 フルグルは近くで見ると人一倍大きな体躯をしており、自信満々な様からかなり暑苦しい。
 そしてフルグルと取り巻きに絡まれる。

「おい待てやこの野郎共! 俺様を無視をするなんていい度胸じゃねぇか!」

「そうだぞアニキの前を素通りするなんて何様だ!」「そうだそうだ!」

「お止めくださいフルグル様。それに君たちも止めなさい。この方々は龍に運ばれてここまでこられたのです。龍に導かれた者が里の長に会うのは当然のことです」

「そうか里に龍が来た、とこいつらが言っていたがお前らが一緒に来たのか……って子供ガキじゃねぇか! こんな奴らを信用できるかよ!」

 龍人にとって龍に導かれる人は特別な存在であり魔王に挑む歴戦の戦士や高名な魔導師とされ、それこそ勇者の様な存在であるとされている。だからこそ年端の変わらぬアヴラム達を見て納得いかないこともおかしいことではない。
 しかしフルグルに文句を言われて怒った者が前に出る。

「私は野郎では無い。そしてあなたより歳上。子供と言ったのを訂正しなさい」

「うおっ! なんだお前」

「あれ? ユキノ!?」

 いつの間にかユキノが前に出て否定をし、顔は無表情だがお怒りのようだ。
 慌ててアヴラムが引き離すも『むー』と唸っている。
 フルグルの何かがユキノを怒らせたみたいだ。

「すみませんフルグルさん。だけど人は見た目で判断するべきではないですよ」

「おおう、何かスマン」

「フルグル様、これ以上は長がお待ちですので先に行かせていただきます」

「うっ……そうか分かった」

 怒ったユキノの迫力に圧されたのか長が待っているからかは分からないが、フルグルは大人しく引き下がってくれた。

 こうして一悶着あったのだが、アヴラム達はカルロに会うべく足早に移動する。

■■■

 龍人の長であるカルロは白髪白髭でかなりの歳を召しているはずなのだが、筋肉隆々なので若々しい。そして醸し出される雰囲気から只者でないことが直ぐにわかる。
 歴戦の戦士である聖騎士団長に勝るとも劣らない圧があるのだ。

「カルロ様、はじめまして私はアヴラムと申します。此度は我々を受け入れて下さり感謝致します」

「いえいえ貴方達は龍に導かれてここにやって来られた。さればこそ我々は貴方達を歓迎しましょう。それにしても貴方達はなかなか面白い面々ですな」

 ここでは身分を隠す必要がないのでビートもユキノもフードを外している。そしてアヴラムの身の上もカルロは分かっているようだ。なので確かに獣人とエルフそして聖騎士団崩れを龍人が連れてきた一向など確かに珍しいだろう。

「私には過ぎた仲間達ですよ。ですがやはり龍人にとっても龍は特別な存在なのですね」

「もちろんですとも、龍は始まりにして我々の全てでもありますからな。それよりも確か私にお願いがあってここへこられたとか?」

「そうです。実は……」

 アヴラムはカルロにイヴリースのことを伝え、[エルフの涙]を用いて治療することが出来ないか聞く。

「そうですか……確かに私どもであればその[エルフの涙]があれば治療は可能でしょう」

「では直ぐにでも治療をお願いできないでしょうか? 対価は私に準備出来るものであれば何でも用意致します」

「いえ必要なのは対価ではありません。それよりもこの施術は我々に伝わる秘術でもあるのです。なのでそれを施すに値するか貴方の実力を試させて頂き、信じるに値するか見極めさせて頂きたい」

 治療が出来る可能性が高いことは分かったのだがそれは龍人族にとっての秘術を用いたものであり、簡単に教えて貰うまたは施して貰うことは出来ない。そこでその代わりに求められる対価が実力を確かめるとはどういうことなのかカルロに説明して貰った。

■■■

 カルロは真意を語ることは無かったが、龍人の置かれている状況が複雑になっていること、その中で龍に導かれ[龍人の里]にやって来た人間を本当に信じることが出来るのか確かめたいとのことらしい。
 しかしアヴラムはそのことを言われてモヤモヤすることを尋ねる。

「でも龍に運ばれてきたと言ってもグラキエース様は自分を見ただけでは乗り気では無くて、イヴリースの竜であるイグニスの思いを汲んで運んできてくれたのですが……」

「ですが実際にグラキエース様は貴方を運んできたのでしょう? 真に信頼出来なければ龍が背に人を乗せることは無いのですよ」

「そうですか、それなら……でも一体どのようにして自分のことを確かめるのでしょうか?」

「そうですね……貴方が龍に認められたと思っていないようですから、それも確かめるような試練にさせてもらいましょう」

 ということで試練の内容を教えて貰う。

■■■□□□
 秘竜石ひりゅうせき、それは竜が亡くなることで露になった竜の魔石が風化し大地に溶け込み再び結晶化したものである。
 竜は他の生物が生息している場所で亡くなることはなく、死期を悟ると自ら姿を消す。そして竜谷りゅうこくと呼ばれる竜が住まう巣があるのだがその最深部に竜の墓場があるのだ。
 竜の墓場は竜にとっては重要な場所で簡単に立ち入れる場所ではない。そこにたどり着くためにはまず竜の巣を越えなければならず、竜に認められなければ全ての竜と戦わなければ秘竜石を手に入れることは出来ない。
■■■□□□

「つまり竜に認められ秘竜石を手に入れてくれば良いのですね」

「そうです、龍ではなく竜ではありますが、竜に認められないような者が龍に認められる訳がないのです。逆説的ではあるがその逆もまた然り。それに竜谷は険しい場所にあるので我ら龍人ですら容易には近付くことが出来ないのでな。そこに辿り着いて帰ってくることで貴方の実力は測れるでしょう」

「そうですか……でも龍人であれば竜に乗ることも出来ますよね? それならば飛んでたどり着くことも出来るのではないのですか?」

「それは無理な話なのだ。一度でも人に乗ることを許した竜は他の野生の竜から嫌われ竜に乗ってでは竜谷に近付くことすら出来ないのでな」

「そうなのですか……」

 竜谷のある場所は確かにかなり険しい場所にあるようで、アヴラム一人であれば到着出来るであろうがビートとユキノを連れては難しい。

「悪いがビートとユキノはここで待っていてくれるか? 俺がここを離れている間にイヴリースを見守っていて欲しいんだ」

「……ワかった」
「仕方ない。でも気を付けて」

「ああ、直ぐに帰ってくるさ」


 こうして龍人の長に課せられた試練、[秘竜石]を手に入れる為にアヴラムは竜谷へ向かうことになったのだった。
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