勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

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第3章 龍人族

風雲急

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 アヴラムは約束を果たすために国王に謁見したのだが、そこで紹介された子供騎士団に所属しているというロプトそして乱入してきた勇者ユウト。そしてそこに見え隠れする神官の思惑。 
 悪い予感しかしない状況なのだが、勇者ユウトはその状況などお構いなしに発言をする。 

■■■

「国王、聞いているのか?」 

「勿論だともユウト殿。新たなる旗印についてだな」 

「そうだ! 俺がいるにも関わらず、新たに旗印を用意するとはどういうつもりだ!!」 

「お主はネームドに破れ、国民の期待を裏切ってしまった。このままでは我が国民たちは不安で夜も眠れまい。安心してもらう為に、そして保険の為にも別の象徴が必要なのだ」 

 これまでユウトも怪我を治療していたとあって、告げることが出来なかったようで、国王は言いづらそうだが包み隠さず真実を告げる。

「国王はネームドに破れたのが俺のせいだと思っているのか? そして次に戦ったときにもまた負けるとでも?」 

「そうではない。だがワシは国民を守るために、すべてを想定して動いておかなくてはならんのだ」 

「だから俺がまた負けるという想定をしているんだろ? 俺は次は負けやしない。あの時ネームドに負けてしまったのは、大聖剣の加護が働かなかっただ! この剣は魔物相手には須く加護が付与されるんじゃなかったのかよ!!」 

 ユウトの発言を聞いて驚く国王。

「そんなことが起こり得るのか、神官よ?」 

 国王に問われ、後ろで話を聞いていた神官が前に出てきて回答をする。 

「魔物相手ならば、加護は必ず働きます国王様。ですが今回大聖剣の加護が働かなかったこともまた事実なのです」 

「原因はわかっておるのか神官よ」 

「現在、鋭意調査中でございます。ただ大聖剣には異常ありませんでしたので、究明する事は困難を極めます」 

「そうかだが、今後も同じことが続かないとも限らんから何としても解明するのじゃ」 

「はっ! 畏まりました国王様」 

 話を終えた神官は後ろに下がる。 
 そして再びユウトが話始める。 

「大聖剣の異常があったことを分かってくれたみたいだが、問題はそれだけじゃねえ! これまでは我慢していたが勇者一行に選ばれた奴らが使えなさすぎるんだよ。というよりなんで聖騎士団のエリートで固められていないんだ? 本気で魔王を討伐しようと思っているとは到底思えねぇぞ!」 

 勇者一行に選ばれている人たちも、冒険者ランクとしてはAランクに達しており、決して弱いわけではない。 
 しかし聖騎士団のトップを張るような人と比べてしまうと見劣りするのは事実だ。 
 ではなぜ聖騎士団の団員が初めからアヴラムだけだったのかというと、勇者召還は国王が主導して行っているものであり、教会が手を貸しているとはいえ国王側の権力が強くなりすぎることを教会側が快く思わなかったからだ。 
 そこで、一人のみ国王が聖騎士団の団員を指名することが許可され選ばれたのがアヴラムであったということであり、サポートという名目だが監視の為に神官が同行している。 
 なので勇者一行の構成として既存の人員が中途半端になっていることは事実であり、ユウトの指摘はあながち間違いではない。 
 とはいえ実力としては大聖剣の加護を加味したうえで同等ぐらいであり、ユウトが非難する事が出来るレベルに有るということではない。 

「そうかではユウトどのはどうされたいというのだ?」 

「それは当然、メンバーを入れ替えたい。聖騎士団のエリートのみで構成されたメンバーであれば今回のような失敗は起こらなかったはずだ!」 

 そう進言したユウトはイヴリースの前にやってきて協力を求める。 

「イヴちゃん、今度は俺が守ってみせるから一緒に来てくれないか?」 

 ユウトはイヴリースを新たな勇者一行のメンバーとして加えたいようだ。 
 しかしイヴリースの返答は勿論、ユウトの希望には添えないものである。 

「ごめんなさい、私もう貴方と一緒に戦うつもりは無いの。そして次の任務で聖騎士団も辞めるつもり」 

「そんな! 聖騎士団を辞めてどうするつもりなんだ?」 

「それは……」 

 イヴリースの視線はアヴラムの背中を追う。 
 それを見たユウトはイヴリースの思い人がアヴラムであると結びつける。 

「お前かアヴラム……お前さえいなければ、いやそうだ最初から勇者一行選ばれた聖騎士団の団員がお前じゃなければ、俺はこんなに苦労することはなかったんだ」 

「ユウト、何を言って……」 

 急な飛び火に困惑するアヴラムだが、ユウトの怒りは収まることが無い。 

「決闘だ……そうだ俺と勝負しろアヴラム!!」 

「何故!? 私が勇者と戦う理由は無いはずですが?」 

「これは俺のメンツが掛かってるんだよ。いいか、俺が勝ったらイヴリースは勇者一行に加える。お前が勝ったら大聖剣をお前にやろう」 

「そんな勝手な……そんなこと誰も許してくれるはずが」 

 大聖剣は国の持ち物であり、引いては国王のものである。 
 だからこそ、国王の判断を仰ごうと国王の顔を見やるアヴラム。 

「面白いではないか、ワシはそれで構わんぞ。是非とも決闘を行うが良い。立ち会い人はワシが務めてやるがゆえ、存分に戦うが良い」 

「そんな……」

 国王の表情から良くないことを考えているのだと伺えるが、国王がやると言ってしまった以上、アヴラムは引き下がることが出来なくなってしまった。 

「でしたら国王様、会場など諸々の準備は私め共が務めさせていただきましょう」 

 再び神官が前に出てきて、話に加わる。 

「そうか、それでは頼んだぞ」 

 そして国王も神官の申し出を受け入れてしまった。 
 これまでの経緯から悪い予感がしてしまうが、証拠は何もないので拒否することも出来ない。 

「本当に、ユウトと戦わなくてはいけないのか……」 

「何だ、怖じ気ついたのか?」 

 ユウトが分かりやすい挑発をしてくる。 

「そんなことは無い。だが関係のないイヴリースを巻き込む必要はないだろう?」 

「関係ないだと……ちっ! 格好付けてんじゃねぇよ! いいか俺はお前を絶対にブッ倒してやるからな!!」 

 そう言い残しユウトは部屋から退出してしまった。 
 それに併せて神官、そしてロプトも一言アヴラムに声をかけて退出する。 

「ルールなどは後日送るから、それまで聖都市にいたまえよ」 

「アヴラムさん、僕は貴方と一緒に戦えることを楽しみにしていますので、負けないで下さい」 

「ああ……」 


 こうしてアヴラムは己の意志に関係無く、勇者ユウトと決闘をする事になってしまったのであった。 
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