勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

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第3章 龍人族

帰還

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 イヴリースは龍人族の秘術により[エルフの涙]を体に取り込むことで回復し、意識を取り戻すにまでに至った。しかし寝たきりによる低下した体力を取り戻さなければ移動は難しいので数日を龍人の里で過ごすことにする。
 そうして目を覚ましてから一週間はたった頃、体調も戻りすっかりと元気になったイヴリースはイグニスの背に乗り空を飛びまわれるようになったので、いよいよ龍人の里を旅立ち聖都市に戻ることにする。

■■■

 空を自由に飛ぶイヴリースを見るアヴラムとユキノ、そしてビート。

「もうすっかりと良くなったな」

「うん、イグニスも嬉しそう」

「でもまたオちてきそうだな」

 ビートにとってイヴリースと始めての出逢いがそれだったので一際強い印象に残っているのだろう。

「あはは、あれは例外だからな。でもすっかりと元気になったしそろそろ、聖都市に戻らないといけないな」

 穏やかに過ごせた日々であったが、それも今日で終わりである。
 目的を果たした今、国王との約束を果たすためにも一度は聖都市に戻らなくてはいけない。
 まったくもって良い予感はしないが、今は聖騎士団に所属している訳ではないので、国王が無謀なことを言い出したら逃げ出せば良いだけだ。

「新たな旗印とは誰のことなんだか……」

 悩み事は尽きないが、全ては聖都市に戻れば分かることだ。

「なら、そろそろ聖都市に戻るから皆に挨拶をしに行こう」

 イヴリースが地上に降りてくるのを待ち、皆で治療をしてくれたクラティオやお世話になった人に挨拶をし、そして最後に長であるカルロの元へ向かう。
 そこにはカルロだけでなく、フルグルもいる。

「カルロ様、ほんとうにながいあいだ色々とお世話になりました。おかげで大切な友を救うことが出来ました」

「いえいえ我々は手助けをしたにすぎません。彼女の強い意思がなければ回復することは叶わなかったでしょう。ただし、亜人エルフの核を使った影響があるやもしれません。困ったときはもう一度我々を頼ってください」

「それは有り難いのですが、またここ龍人の里へ来ることが難しいですよね」

 龍人の里へ迷うことなくたどり着けるのは龍もしくは龍人だけであり、ただの人では方向を見失ってしまう。
 再びここに来るためのハードルは高いのだ。

「それでしたら心配いりませんぞ。ぜひともこやつを連れていって下さい」

 そう言ってカルロはフルグルの方を指指す。

「ちょっ、ジジイ! いきなり何を言い出すんだよ!」

「そうですよフルグルを連れていくとは一体どういうことですか?」

「知っての通り、こやつは私の孫なのですが外の世界を知らないのです。この里の中だとちやほやされてしまい自由にしていますがこのままでは先行きが危ぶまれ、里の将来が心配になるのだ。不躾がましいですが、どうかこやつを連れていって外の世界の広さを見せてやってくれませんか? どうかお願いします」

 カルロは頭を下げ、本気でフルグルのそして里の未来のために発言している。
 そうなるとお世話になった手前、無下に断ることが出来ない。
 それにフルグルが仲間にいることで色々と助かることがあることも事実だ。
 そうなると後はフルグルの意思を確認するのみである。

「そうですか……ですが本人が行く気が無いのであれば連れていくことは出来ません。さぁどうするんだフルグル?」

「お、俺は……」

 フルグルにしては珍しく考えているみたいだ。

「里を離れ人間の街に行くのが怖いのか?」

「誰がそんなこと! 分かったよ行くよ行ってやらぁ! ジジイ! 俺は強くなって帰ってくるから、その時は長の座を奪ってやるからな!」

「はっ、やってみるが良い小わっぱが」

 カルロが孫に放つものとは思えないほどの圧を発し、フルグルが一歩後退りするも、そこで引き下がらずに一歩前に出て負けじとにらみ返す。
 とそこに扉が開いていつぞやの子供達が入ってくる。

「アニキ! 本当に行ってしまうんですか!?」

「すまねぇなお前達。だけど男は立ち止まるわけにはいかねぇんだ。でっかくなって帰ってくるから、それまでお前達が里を守ってくれ」

 しばらく何かの劇を見せられている気分になりながら、ことの行く末を見ていたアヴラム達だが、いい加減に付き合ってられなくなったので放置することにし、先に部屋を出る。

「ならそろそろ出発するぞ」

「ちょっ、待て俺も行くんだぞ!」

 フルグルは慌てて追いかけてきた。
 そして里を出発しようとすると、そこに竜谷で斥候として戦った竜が降り立つ。

「これは一体?」

「キュァア!!」

 その答えは追い付いてきたフルグルが教えてくれる。

「おお、どうやらこいつが俺達を運んでくれるみたいだぞ!」

「本当か!? 確かにそれだとイグニスとで乗ってきた客車を運んで貰えるけど、大丈夫なのか?」

 さすがに客車を運ぶだけあってスピードが出ない。だからこそ野生の竜に襲われる可能性が高く、飛竜船では訪れることが出来ない場所なのだが。

「ああ、ちゃんとドミナスから許可を得てるって。だから他の竜が手出しすることは無いらしいぞ」

 野生の竜のボスであるドミナスが、期を効かしてくれたみたいだ。
 しかし人を運ぶということは、この竜は人に隷属するということであり、もう竜谷に戻ることは出来なくなる。

「本当に良いんだな?」

 竜の目を見て離すと、言葉は伝わらないはずだが意図は伝わった気がする。

「フルグル、ならこいつ……って名前は何だろう?」

「スペクラータらしいぞ」

「ならスペクラータと竜隷で契約してもらっていいか?」

「分かった」

 フルグルとスペクラータとの契約はスムーズに事が運んだ。
 普通はもっと竜が抵抗するのだが、初めから竜がそのつもりでいるのが良かったのだろう。
 イヴリースも何度か竜隷の過程を見たことがあるらしいので、余計に驚いていた。

 こうしてアヴラム達は龍人の里に別れを告げ、聖都市に向かうのであった。

■■■

 聖都市に戻ってきたアヴラム達は気が進まないが、まずは国王に報告しに行かなくてはならない。
 流石にフルグルを王城に連れていくわけにはいかないので、ビートとユキノともども総ギルド長のエアミットに匿って貰う。
 そしてイヴリースと共に王城に入ると、すぐに王の元に招かれ謁見をすることになる。

「国王様、ただいま戻りました」

「待ちくたびれたぞアヴラムよ。そしてイヴリースも無事に回復したのじゃな」

「はい、お陰さまで回復するに至りました国王様。そして此度のネームド討伐を成功に導けず、申し訳ありませんでした」

 イヴリースが国王に頭を下げ、自身の回復と共に任務の失敗を改めて報告する。

「もうそれは良い、終わったことは取り戻せんのでな。じゃが未来は帰られる。そうであろうアヴラムよ?」

「わかっております。ネームド討伐の任には約束通り着かせていただきます」

「話が早くて助かるぞ。それでだ、お主には話しておったと思うが紹介せねばならんでな」

 国王が臣下に合図を送り、部屋の外で待たされていたのか、直ぐに連れてこられたのはアヴラムよりもさらに幼い少年だった。

「はじめましてアヴラムさん、僕はロプト・ラウフェイソンと言います。憧れのアヴラムさんに、こうして御会いできるなんて感激ですよ」

 アヴラムはロプトに手を差しのべられ握手をするのだが、どこか得たいの知れない雰囲気のロプトを内心警戒する。

「君は一体、何者なんだ?」

「僕はアヴラムさんの後輩で子供騎士団に所属しています。まさか一緒に任務につける日が来るなんて思ってもみませんでした」

 一見すると先輩を慕う後輩なのだが、浮かべる笑みに血が通っていないようにしか見えない。
 アヴラムはうわべだけを取り繕っただけのロプトの真意を読めないので困惑する。

「アヴラムよ、こやつは自身で説明した通り子供騎士団に所属しておるのじゃが、お主以来の秀才だ。お主がそうだったように子供騎士団に所属しながら既に実任務に付いて成果を残しておる。だからこそお主にはこやつを導いて貰いたい」

「そんなことが……」

 子供騎士団とは教会に預けられ、才能を認められた子供が将来、聖騎士団に所属することを目的とした組織であり、アヴラムも所属していた騎士団だ。
 イヴリースも訳あって所属することになった騎士団であるが、あくまでも将来に聖騎士団に所属するための教育機関として訓練することが主な目的である。
 それなのに聖騎士団と同じ任務に付き、ネームド討伐の任にも抜擢されるなど尋常なことではない。
 しかしその尋常ではない事態を可能にするのは国王の一声ではない。

 いきなり謁見の間の扉が開け放たれ、勇者そして神官が入ってくる。

「国王! 俺に変わる新たな旗印とはどういうことだ!」

 勇者ユウトがどこからか話を聞き、駆けつけて来たのだ。
 しかしその後ろを付いてきている神官は至って冷静であり、今回の事の全てを事前に把握していたとしか思えない。
 そもそも子供騎士団の管轄が教会である以上は当然であるのだが、ロプトと神官は顔見知りのようである。


 国王の思惑と神官の思惑、そして勇者の怒りが合わさって良いことが起こる予感はしないので、気が遠くなる思いのアヴラムなのであった。
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