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第7話 新しい生活
しおりを挟む名誉なことである第二王子であるジャイアヌスとの婚約を破棄されお父様に激怒された私は、王都から遠く離れたヴィエンヌという小さな町にあるレストランに住み込みで給仕の仕事をすることになった。
レストランの名前は[木漏れ日亭]といい宿も併設している。
大きなお店では無いので私が来るまでは、オーナーであるニコライと奥さんであるシュティーナの二人で切り盛りしていた。
「ほらソフィ、早くこれを運んでおくれ!」
「はい! あっ、いらっしゃいませ!!」
私は伯爵令嬢としての立場を伏せて働くことになりオーナー夫妻も我が子のように扱ってくれるので、城の生活と比べると全てを自分で行わなければいけないが居心地が良い。
そして手間の掛かる巻き髪を止めて肩に掛かるぐらいまで髪を切った私は、面影が変わり町の人にもお嬢様と思われることなく溶け込んでいる。
「ソフィちゃんは今日も元気がいいね! どうだい俺の息子の嫁に来てくれないかい?」
「ありがとうございます……ってハンスさんの子供はまだ赤ちゃんじゃないですか!」
「ハハハ、やっぱり駄目か」
冗談が飛び交う店内には笑顔が溢れ、既に顔馴染みも増えているので、罰としてここで働くことになったのだが楽しく暮らせている。
「あっ、オットーさんお帰りですか?」
「ああ、今日も美味しかったよ」
「ありがとうございます。ニコライさんに伝えておきますね!」
木漏れ日亭はヴィエンヌの町で皆に愛されるお店で、遠い親戚と説明をしたとは言っても、いきなりやってきた余所者なので目立たない筈がない。
なので入れ替わりお客がやって来て散々に見世物になったが、お陰で顔を覚えて貰うのに時間は掛からなかった。
「ソフィ、今日はもう食事処は閉めるから着替えておいで」
「はい、シュティーナさん」
夕暮れ時になりレストランは終了し、私は給仕用の服装から動きやすい格好に着替えに自室に向かう。
私の仕事はレストランが終わっても終わらず、朝と夜は宿の仕事をしなくてはいけないのだ。
「ソフィは良く働いてくれるわね、あなた」
「ああ、このままうちの子として引き取りたいぐらいだ」
部屋から戻ると、私に聞こえるようにニコライとシュティーナの二人が話をしている。
「そんなにおだてられても何も出ませんよ」
「ハハハ、これはおべっかでは無くて本音だよ。本当に君は伯爵令嬢なのかい?」
「そうですよ。どこからどうみても伯爵令嬢……」
……言い切ったもののソフィは間違いなく伯爵令嬢であるけれど、中身に共存する花音は三十路間近のドがつくほどの庶民だ。
若々しい十代の体を手に入れて動き回れるのが楽しく、ついつい張り切って働いているのでお嬢様らしさは無くなっているかもしれない。
「そうか……いや私が知っている貴族は自分で働くことなんて無いからな。ここまで働けるソフィが不思議なんだ」
「ならもう働きません!」
「こら、冗談でも止めておくれ。忙しくなるのは、まだまだこれからなんだから」
「はあーい」
日が暮れてからは宿泊客の受け入れは当然のこと、お客が入る限りお風呂を沸かし続けなくてはいけない。
そして時間があれば、夜はお酒とつまみを出す酒場に変わったお店の手伝いもある。
……さあ、今日も後ひと踏ん張りだ!
こうして、伯爵令嬢あらため宿屋の町娘として忙しく生活を送り始めたソフィであった。
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