6 / 25
第6話 国王の思い
しおりを挟む──ソフィがジャイアヌスに婚約破棄を告げられたあと、国王と王妃は頭を悩ましていた。
「エリザベスよ、此度の婚約破棄についてどう思う」
「良き娘であるソフィさんと結ばれて、ジャイアヌスもようやく落ち着いて貰えると思っていたのですが…………どうやら悪癖は治らなかったようですわ」
「はぁー、やはりそうか……」
国王と王妃は部下からの報告でジャイアヌスがたびたび女遊びを繰り返すことを知っていた。
いい加減に落ち着いて貰うためにも、宰相の進めもあって国王自らフェルンストレーム家との縁談をジャイアヌスに持ち込んだのだ。
しかしそれでもジャイアヌスの悪癖は治ること無く、婚約者がいるにも関わらず他の女性と遊び続けていたと報告を受けている。
「ジャイアヌスはソフィ君の品位に問題があったと言うが、やはり問題はジャイアヌスにあるのだな……」
「そうでしょうね」
此度の婚約破棄に至った理由の詳細についてジャイアヌスは、侍女を虐めたソフィが王家の品位に相応しくないと言ってその場は押し切られたのだが、国王はその切っ掛けはジャイアヌスの方にあると理解している。
しかしジャイアヌスの体面を考えると、国王はあの場で追及することは出来なかった。
「ソフィ君には本当に悪いことをしたな」
「あなたがそれを言うと説得力がありますわね」
「うぐぐ」
かつて国王であるウィリアム・グスタフもまた、妃となるエリザベスに出逢う前までは女遊びに興じていた。
エリザベスに惚れ、尻に敷かれてからは落ち着いたのだがジャイアヌスと同じように侍女に手を出していたので、いつかは落ち着くであろうという思いもあり国王は強く叱ることが出来ないでいるのだ。
ウィリアムが国王へ即位する前に身辺調査が行われたのだが、ある噂が囁かれたまま真実が明らかになっていないことが一つ残ったままである。
「しかしあの優しいソフィ君が侍女を虐めるなどと、そんな愚かなことを行ったのはなぜなのだろうか……」
「あら、もしこの場にあなたが寵愛していた侍女がいたら私も心穏やかにはいられないと思いますわよ? ソフィさんは気付かれないようにすべきだったとは思いますが、同情すれども非難すべきではありませんわ」
「そうか…………すまない」
「私に謝ってどうするのですか。今回の件でソフィさんは罰を受けなければなりませんが、手を回して差し上げなさい」
「はい」
国王に即位する前にウィリアムが寵愛していた侍女は母親の病の為に城を去ったのだが、それが無ければ此度のジャイアヌスと同じことになっていたかも知れないと知りウィリアムは冷や汗をかく。
そしてジャイアヌスが切り出した婚約破棄とはいえ明らかになったソフィによる侍女に対する虐めは問題だ。
その為、体面を維持するためにもフェルンストレーム家が処罰をしなければいけないのだが、情状酌量の余地は多分にあるので手を回すことになった。
「しかしこれでまた、子に王位を継がせる日は遠くなりましたわね……」
「ああ、まったく困ったものだ」
この国の王位継承権は王家の血を引く者に平等に与えられ、国王が次期国王を指名することで王位が引き継がれる。
万が一に国王が次期国王を指名する前に無くなった場合や病気などにより国王が判断を下すことが出来ない状況に陥った場合は、生まれた順に決定権が優先される慣例から王位継承権の順序が決められている。しかし国の制度上で最も優先されるのは、現国王と王妃の意志であるのだ。
しかし第一王子のヘンリーは学問の道に魅せられ王位には興味を示さず、今をなお他国を渡り歩いている。そして期待された第二王子のジャイアヌスはご存知の通りだ。
それならば第三王子以降に期待したいところなのだが、彼らはまだ十五歳に満たない子供である。
「ゴホッ、ゴホッ」
「大丈夫かしらあなた?」
「ああ、すまない咳が出ただけだ。……だが私に何かあっては困るから、早く王位を安心して引き継がせられる者が出てきて貰いたいものだな」
「ええ、そうね」
今はまだ健在だが、高齢になった国王が病に臥せると国の将来は危ぶまれる。
隣国との争いを考えると国の弱みを見せるわけにはいかないので早めに次期国王を決定したいのだが、またしてもその日は遠ざかってしまい国王の悩みの種は深まるばかりなのであった。
4
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】
繭
恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。
果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
他小説サイトにも投稿しています。
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる