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恋情模様
3
「青山はどうする?」
クリッとした猫みたいな目が俺のことを見上げた。百八十センチを超える俺より十センチほど下にある赤堀の存在は、小さくはないのに線の細さで小柄に見えた。
「アイスコーヒーで」
「了解。すいません、アイスコーヒーふたつください」
さっき出してもらったから、ここは俺に出させて。そう言って映画館のカウンターでドリンクを注文してくれた。
観たい映画があるから一緒にどうかと聞かれ、ちょうど観たいと思っていたやつだと返した。ならば、ついでに買い物や食事まで済ましてしまいたいと誘い、もちろん構わないという予想していた返事があり了承される。
そうやって同期の名はとても都合がよく、警戒されることないまま立場を利用できた。決して無知でも非常識でもない彼だが、これまで周りの悪意に晒されたことがなかったのかもしれない。幸いなことに善人の中で育ったのだろう。疑うことを知らない赤堀の隣で堂々と親友の顔をしながら占領するまでに時間はそれほど必要なかった。
話してみれば素直に感情を表し損得勘定なく接してくる赤堀は、思っていた以上に魅力的だった。共に過ごせば過ごしただけ、感情が埋められていく。そして同時に生まれるのは、もっと独占したいという醜く隠しようのない欲だ。
「ほら、ジンジャーエール」
「ほわぁい、ありがとー。まだ飲めるんだけどぉ」
「顔赤くなってるぞ?やめとけ」
するっと頬を撫でてやれば、熱くなった顔を気持ちよさそうにすり寄せてくる。まるで猫みたいだ。愛しさ半分、あとは滑稽なほど単純な自分に対する嘲りだろうか。
「弱いんだから、一杯までの約束だろ?」
「んー、わかってる…」
会話はちゃんと成り立っている。ただ目がとろんと眠たそうで緩慢な動きだというのにまだ飲もうとしている時点で判断力が怪しい。
野白の指摘を聞いてからは、一人で飲み会へ参加しないよう何度も言い含めた。常にどちらかが同席している俺たちからの助言とあって、知らないうちに酷い醜態を晒したのかもという勘違いをしているようだ。嗜めれば大人しく言うことを聞いてくれる。そう思ってくれているならそのままにしておいた方がこちらも側にいやすい。
大人しくジンジャーエールをコクコク飲みながら、最近録画して見ているドラマの話になり出演している俳優のことから『青山は、かっこいいなぁ』とアルコールで緩くなった心の内が零れ始めた。
「ありがとう。赤堀もかわいいよ」
「えへへ、そうかなぁ。そうだったらいいなぁ、……そうしたら。青山が…、」
言葉が途切れたかと思えば、器用にどこへも寄り掛からずコクリコクリ夢の中にいるらしい。週末の飲み会で疲れもあったのだろう。いつもより潰れるのが早かった。
ゆっくり体を傾かせ、俺の膝上へ頭を乗せた。お開きになるまで寝かせておけば、大分酔いも冷めるだろう。この無防備な様を、誰彼かまわず披露されてはこちらの心配が尽きない。
「あちゃー、寝ちまったか」
「いいよ、少し寝かせたら俺が送るから」
「いつも悪いな、青山に任せちゃって」
「別に構わない。同じ方向だし」
他の誰にも任せるつもりなど、あるわけもない。周りから赤堀の世話係と呼ばれている方が、こちらは願ったり叶ったりだ。
こうして時間を掛けて少しずつ囲い、都合よく思い込ませて、赤堀が俺に絆されるよう仕向けていった。
素直で誤魔化しが効かない赤堀は、俺に向ける好意も隠しきれていない。描いたように、まんまと転げ落ちてきてくれた。
だから少し油断していたのかもしれない。やんわり断っていた誘いも大分なくなっていたというのに、珍しく正面からぶつけられた好意をさっさと断ち切りたくて手間を惜しんだ。
赤堀が聞いているとも知らずに『好きな奴がいる』という言葉が、ややこしく伝わるなどと考えてもいなかった。
クリッとした猫みたいな目が俺のことを見上げた。百八十センチを超える俺より十センチほど下にある赤堀の存在は、小さくはないのに線の細さで小柄に見えた。
「アイスコーヒーで」
「了解。すいません、アイスコーヒーふたつください」
さっき出してもらったから、ここは俺に出させて。そう言って映画館のカウンターでドリンクを注文してくれた。
観たい映画があるから一緒にどうかと聞かれ、ちょうど観たいと思っていたやつだと返した。ならば、ついでに買い物や食事まで済ましてしまいたいと誘い、もちろん構わないという予想していた返事があり了承される。
そうやって同期の名はとても都合がよく、警戒されることないまま立場を利用できた。決して無知でも非常識でもない彼だが、これまで周りの悪意に晒されたことがなかったのかもしれない。幸いなことに善人の中で育ったのだろう。疑うことを知らない赤堀の隣で堂々と親友の顔をしながら占領するまでに時間はそれほど必要なかった。
話してみれば素直に感情を表し損得勘定なく接してくる赤堀は、思っていた以上に魅力的だった。共に過ごせば過ごしただけ、感情が埋められていく。そして同時に生まれるのは、もっと独占したいという醜く隠しようのない欲だ。
「ほら、ジンジャーエール」
「ほわぁい、ありがとー。まだ飲めるんだけどぉ」
「顔赤くなってるぞ?やめとけ」
するっと頬を撫でてやれば、熱くなった顔を気持ちよさそうにすり寄せてくる。まるで猫みたいだ。愛しさ半分、あとは滑稽なほど単純な自分に対する嘲りだろうか。
「弱いんだから、一杯までの約束だろ?」
「んー、わかってる…」
会話はちゃんと成り立っている。ただ目がとろんと眠たそうで緩慢な動きだというのにまだ飲もうとしている時点で判断力が怪しい。
野白の指摘を聞いてからは、一人で飲み会へ参加しないよう何度も言い含めた。常にどちらかが同席している俺たちからの助言とあって、知らないうちに酷い醜態を晒したのかもという勘違いをしているようだ。嗜めれば大人しく言うことを聞いてくれる。そう思ってくれているならそのままにしておいた方がこちらも側にいやすい。
大人しくジンジャーエールをコクコク飲みながら、最近録画して見ているドラマの話になり出演している俳優のことから『青山は、かっこいいなぁ』とアルコールで緩くなった心の内が零れ始めた。
「ありがとう。赤堀もかわいいよ」
「えへへ、そうかなぁ。そうだったらいいなぁ、……そうしたら。青山が…、」
言葉が途切れたかと思えば、器用にどこへも寄り掛からずコクリコクリ夢の中にいるらしい。週末の飲み会で疲れもあったのだろう。いつもより潰れるのが早かった。
ゆっくり体を傾かせ、俺の膝上へ頭を乗せた。お開きになるまで寝かせておけば、大分酔いも冷めるだろう。この無防備な様を、誰彼かまわず披露されてはこちらの心配が尽きない。
「あちゃー、寝ちまったか」
「いいよ、少し寝かせたら俺が送るから」
「いつも悪いな、青山に任せちゃって」
「別に構わない。同じ方向だし」
他の誰にも任せるつもりなど、あるわけもない。周りから赤堀の世話係と呼ばれている方が、こちらは願ったり叶ったりだ。
こうして時間を掛けて少しずつ囲い、都合よく思い込ませて、赤堀が俺に絆されるよう仕向けていった。
素直で誤魔化しが効かない赤堀は、俺に向ける好意も隠しきれていない。描いたように、まんまと転げ落ちてきてくれた。
だから少し油断していたのかもしれない。やんわり断っていた誘いも大分なくなっていたというのに、珍しく正面からぶつけられた好意をさっさと断ち切りたくて手間を惜しんだ。
赤堀が聞いているとも知らずに『好きな奴がいる』という言葉が、ややこしく伝わるなどと考えてもいなかった。
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