恋色模様

文字の大きさ
5 / 17
恋情模様

「青山はどうする?」

 クリッとした猫みたいな目が俺のことを見上げた。百八十センチを超える俺より十センチほど下にある赤堀の存在は、小さくはないのに線の細さで小柄に見えた。

「アイスコーヒーで」

「了解。すいません、アイスコーヒーふたつください」

 さっき出してもらったから、ここは俺に出させて。そう言って映画館のカウンターでドリンクを注文してくれた。
 観たい映画があるから一緒にどうかと聞かれ、ちょうど観たいと思っていたやつだと返した。ならば、ついでに買い物や食事まで済ましてしまいたいと誘い、もちろん構わないという予想していた返事があり了承される。

 そうやって同期の名はとても都合がよく、警戒されることないまま立場を利用できた。決して無知でも非常識でもない彼だが、これまで周りの悪意に晒されたことがなかったのかもしれない。幸いなことに善人の中で育ったのだろう。疑うことを知らない赤堀の隣で堂々と親友の顔をしながら占領するまでに時間はそれほど必要なかった。

 話してみれば素直に感情を表し損得勘定なく接してくる赤堀は、思っていた以上に魅力的だった。共に過ごせば過ごしただけ、感情が埋められていく。そして同時に生まれるのは、もっと独占したいという醜く隠しようのない欲だ。

「ほら、ジンジャーエール」 

「ほわぁい、ありがとー。まだ飲めるんだけどぉ」

「顔赤くなってるぞ?やめとけ」

 するっと頬を撫でてやれば、熱くなった顔を気持ちよさそうにすり寄せてくる。まるで猫みたいだ。愛しさ半分、あとは滑稽なほど単純な自分に対するあざけりだろうか。

「弱いんだから、一杯までの約束だろ?」

「んー、わかってる…」

 会話はちゃんと成り立っている。ただ目がとろんと眠たそうで緩慢な動きだというのにまだ飲もうとしている時点で判断力が怪しい。
 野白の指摘を聞いてからは、一人で飲み会へ参加しないよう何度も言い含めた。常にどちらかが同席している俺たちからの助言とあって、知らないうちに酷い醜態を晒したのかもという勘違いをしているようだ。嗜めれば大人しく言うことを聞いてくれる。そう思ってくれているならそのままにしておいた方がこちらも側にいやすい。

 大人しくジンジャーエールをコクコク飲みながら、最近録画して見ているドラマの話になり出演している俳優のことから『青山は、かっこいいなぁ』とアルコールで緩くなった心の内がこぼれ始めた。

「ありがとう。赤堀もかわいいよ」

「えへへ、そうかなぁ。そうだったらいいなぁ、……そうしたら。青山が…、」

 言葉が途切れたかと思えば、器用にどこへも寄り掛からずコクリコクリ夢の中にいるらしい。週末の飲み会で疲れもあったのだろう。いつもより潰れるのが早かった。
 ゆっくり体を傾かせ、俺の膝上へ頭を乗せた。お開きになるまで寝かせておけば、大分酔いも冷めるだろう。この無防備な様を、誰彼かまわず披露されてはこちらの心配が尽きない。

「あちゃー、寝ちまったか」

「いいよ、少し寝かせたら俺が送るから」

「いつも悪いな、青山に任せちゃって」

「別に構わない。同じ方向だし」

 他の誰にも任せるつもりなど、あるわけもない。周りから赤堀の世話係と呼ばれている方が、こちらは願ったり叶ったりだ。

 こうして時間を掛けて少しずつ囲い、都合よく思い込ませて、赤堀が俺に絆されるよう仕向けていった。
 素直で誤魔化しが効かない赤堀は、俺に向ける好意も隠しきれていない。描いたように、まんまと転げ落ちてきてくれた。

 だから少し油断していたのかもしれない。やんわり断っていた誘いも大分なくなっていたというのに、珍しく正面からぶつけられた好意をさっさと断ち切りたくて手間を惜しんだ。
 赤堀が聞いているとも知らずに『好きな奴がいる』という言葉が、ややこしく伝わるなどと考えてもいなかった。

感想 0

あなたにおすすめの小説

酔った俺は、美味しく頂かれてました

雪紫
BL
片思いの相手に、酔ったフリして色々聞き出す筈が、何故かキスされて……? 両片思い(?)の男子大学生達の夜。 2話完結の短編です。 長いので2話にわけました。 他サイトにも掲載しています。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

【BL】寸劇

のらねことすていぬ
BL
偶然知り合った大人の男、伊佐島にどうしようもなく惚れてしまったフリーターの受け。泣き落としで付き合ってもらうことになったけど、彼が自分のことを好きだとは到底思えない。悩むことに疲れて別れることを決意するが、彼は他に男ができたと勘違いして……? すれ違っている二人の別れ話→ハピエンです。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。