恋色模様

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恋情模様

 

 マンション前に着いて自宅へ向かう。弱い力ながら、どうにかすり寄ってくる赤堀に小さく笑みが浮かんだ。

「赤堀、抱いてもいい?」

「ぅん、?」

 解錠して面倒だから靴は履かせたまま赤堀のことを抱き上げた。寝室のベッド上へゆっくり座らせるようにしてから仰向けに寝かせた。靴は脱がせて三和土たたきへ置いてきた。

 布の質感を感じて自然に体の力が抜けたらしい。すうっと意識が沈んでいく様子が見て取れる。本格的に寝るつもりなのだろうが、この好機を逃すわけもない。

(まあ逃しはしないが…)

 仕事服を脱がせ俺のシャツに換えてやり、寒くないよう布団を掛けた。赤堀にしてはだいぶ深酒しているようだから、少しだけ寝かせ酔いを抜かせてやるつもりだ。
 その間に俺はシャワーを浴び、いつもの帰宅と同じように室内を片付けた。そうしているうちに、どこか暴走しようとしていた獰猛な気分も落ち着いてくる。別に無理矢理どうこうするつもりなど毛頭ないのだから、優しく理性を保って……。

 まあそんなことを考えていたのは最初だけだった。

「あっ、あっ、やぁ…っ」

「いやじゃないよ、まだイける」

 寝ている赤堀に口付けながら、徐々に触れる場所を深めていった。無反応だった舌がおずおず動き出し、追えば逃げ捕まえれば絡みつくように返され、こちらだって抑えようとしていた欲にも火が灯る。

 傷付けないことを念頭に努力はしながら、けれどいつになく事をいていたかもしれない。後孔を解し、赤堀の意識が覚醒しきる前に硬度を増した俺の分身を進み挿れた。
 ゆっくり抜いて挿して焦らずに慣らしていくが、締め付けてくる力にこちらも余裕がなくなっていく。

「あ、あっ、はっぁ…?あっ?」

 痛みだけではない声の変化に気を良くして、感じているであろう箇所を執拗に擦り付けた。たっぷり垂らしたローションのヌメリで円滑に抽挿しつつ、互いの熱を昂めていった。

「ほら、ココが好き?」

 グリッと抉れば赤堀の身体はビクビク震えた。その反応に気を良くして、何度も何度も突いてやる。

「ひぃあっ」

 ぎゅうっとシーツを握り締めていた手が制止しようと俺の腕に縋り付いた。それくらいのことでどうなるわけもない。弱々しく何の意味もないそれを、ただ一方的に制圧してやりたくなって両手を頭上へ拘束した。

「待って、…もうっ、ムリ…っ」

「大丈夫、できる」

 ガツガツ腰を打ち付けながら、自然と溢れてきたらしい涙を唇で掬い取った。痛みでも嫌悪でもないことは赤堀の反応を見ていればわかる。滲んだ瞳の奥に浮かぶ快楽への淫らさに、俺は余計に煽られた。

 ビクッと身体が震えた瞬間、赤堀は達していた。後孔だけで感じることができたのは、相性がいいこともあるのだろう。このまま俺のことだけを覚えさせ、もちろん俺以外を受け入れることがないようにするつもりだ。

「イけたじゃん……かわいい、」

 はっはっと忙しなく乱れた息が苦しそうなのに、構わず唇を塞いでしまった。口腔内を蹂躙して味わう。離れるときはちゅうっと吸ってから、名残惜しく離してやった。

「…っふはぁ」

「夏月…」

 いつもとは違う名で呼んでみる。
 うん、いいな。この音は赤堀によく似合ってる名前だと思った。
 その瞬間、ぎゅうと身体に力が入った赤堀に、思い切りまだ抜いていない陰経を締め付けられた。

「ッ、そんなに締めるな」

「う、あっ…ぁ、なに、コレ?」

 ちょっと待て。名前を呼ばれて感じるとか、可愛すぎるだろう。何だよその反応。
 自分でやっておいて何が何だがよくわかっていないらしい赤堀は、ようやく自分の置かれている状況に気付いたらしい。ホントにこれ俺じゃなかったらどうするつもりだったんだ?

「あ、れ?青山…?」

「そうだけど。誰に抱かれてると思ったわけ?」

「抱かれ、っ?」

 彷徨う視線が頑張って理解しようとしているらしい。考えても考えてもよくわかっていないようでくるくる変わる百面相が面白い。
 どうにか結論に辿り着いたらしく、目を見開きながら若干高めの声で素っ頓狂な声を上げた。

「ウソ、何でぇ?!」

「本当。何でって、俺が夏月のこと好きだから。夏月も、俺のこと好きだし」

 ようやく伝えることができた。もしかすると今はまだ伝わりきれていないかもしれない。飲酒してたし寝起きだし。
 そうだとしたら何度でも言おう。もう遠慮はいらないし、後は与えて満たして呆れられるくらいの愛を捧げる。伝わるまで何度だって想いの丈を言えばいい。

「うん。……ん?」

「じゃあそういうことで、俺まだイってないし」

「いや、えっ、え、待ってぇ……ぁっん」

 とりあえず。
 冷めないこの熱をどうにかしようじゃないか。まだまだ夜は長い。これまで手を出さなかった分、いくらだって夏月のことを抱ける。

「夏月…、なつきっ」

「そんなっ、しない…で、ぁっ」

 一度吐き出して萎えた赤堀の分身も擦って刺激してやればやわやわ力を取り戻していった。吐精できるようになったら促し、萎えればまた昂ぶらせてを繰り返した。

 敏感になった肌はどこもかしこも性感帯のようで、細やかな愛撫さえも拾う。耳に息を吹き込めば空気の波でさえもヒクリッと身を粟立たせた。

 れろっと首筋を舐めれば震え、腰骨のあたりに見付けたホクロを親指でクルクル撫でれば腰が跳ねる。見ていて笑みが止まらなくなるほどに、赤堀は堕ちていった。

「ぁ、……あ、っ」

 もう涎を垂れ流す程度にしか張らなくなった陰経になっても、まだ俺は攻め続けた。挿れては抜いて何度目になるかわからない白濁を後孔へ叩き付ける。

 後ろから腰を深く押し進めてみると突き当たったのかコツリと壁に辿り着いた。初めてであろう結合なのに、相手が俺で自分のことながら赤堀も運が悪いと思う。いや、俺からすると幸いなことではある。

「もうちょっと、頑張って…」

「あっぁ、いやぁ、…むり、ダメ…っ」

 更に奥を目指し、ゆっくりゆっくり探りながら侵入していく。
 くぽっと先端が入ってはいけない場所にまで辿り着いた。ああ、ここだな。

「ぁ――………っ」

 力なく赤堀が震え、きゅうっと窄まる。出すものがないから空イキで意識が飛んでいるらしく、ふにゃりとベッドへ身体が落ちた。それでも二、三回揺すってこちら側へ無理に意識を向かわせた。

 可哀想に、俺に捕まってしまって。
 泣いても逃してやれない。執拗に貪ってもういらないと拒んでいるのに、まだこちらは与え続けた。何度も、何時間でも。

 ぐちゃぐちゃになったベットの上とドロドロの体液まみれになった赤堀の体を見て、ようやく俺の何かが満足した。
 気を失っている赤堀からズルっと陰経を引き抜く。閉じられなくなった孔からは何度吐き出したかわからない精液がトロトロ溢れた。




 翌朝、いや昼だな。ベッドの上で顔を両手で覆い、何やら自問自答しているらしい赤堀に声を掛けた。

「起きた?おはよ」

「お、…はよっ」

 発した声はカスカスだ。そうだろうな、あれだけ喘いで絶叫に近い懇願をしていたのだから。
『ごめん、無理させた』というあまり悪いと思っていない謝罪はしておいた。自分の仕業だと思えば、どうしようもない優越感に笑ってしまう。

 どうにも動かせないらしい体を手伝って起こしてやり、はちみつとレモンを入れた温かいマグカップを渡した。

「覚えてる?昨夜のこと」

「……ちょっと、わかんなくてっ、覚えてるトコも、ある」

 そうだろうな。どれだけ意識があったのかわからないし、記憶に残っているのかも測りかねる。

「そっか。じゃあ、俺の告白は?」

「え…?」

 キョトンと首を傾げながら記憶を辿っておろおろしている様子で、どうやらほとんどのことを覚えていならしいことがわかる。うん、これはどうしたものか。
 あの狂気じみた欲望を知られていないと安堵するべきか、あれだけ示した独占欲が通じないと落胆するべきか。まあこちらのいいようにさせてもらおうか。

「夏月のこと、好きだよ。夏月は?」

「お、俺っ?!」

 すんなり直球で告白してみる。素直な赤堀のことだから変な誤魔化しや湾曲させた伝え方をしないほうがいい。ここは大切な言葉のみで十分だ。
 案の定、パチパチ瞬きを繰り返し、おそらく様々なことを考えているのだろう。これが冗談なのか本気なのか、自分がどう答えればいいのかを。

 少しだけ待ってやると意を決したように顔を上げて俺を真っ直ぐ見返した。

「俺も、…好き」

「うん、ありがとう」

 わかっていても改めて正面から伝えられた想いに、俺の中で何かさざめいた。手を伸ばし赤堀を包むように腕の中へ入れる。後はダメ押しだ。

「抱くよって聞いたら、了解してくれたけどな。それも覚えてないんだろ?酒はほどほどにしてくれ」

「わかった、何か…ごめん」

 言ったというか言わせたというか、言質にもならない相槌だったけれども。赤堀にはそれでも十分な効力となる。ごめんな、悪い奴で。

「青山、あの…」

「宗士、って言ってみて」

「あっ、……宗士、」

「うん、何?」

 照れながら呼ばれた名前はただ甘ったるく、思っていた以上に歓喜が湧き起こった。自然にこちらも気配が緩む。
 とろりと赤堀を見遣れば頬を染めてこちらを見上げてきた。

「宗士、好き……っ」

 きゅっと抱き付かれ、愛しさが溢れる。『あんまり、ちゃんと覚えてないから…キスして』と強請られ、それはもう何度も、何度だって。

 蕩けるほどの、キスを贈った。



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