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その後の二人
ハロウィンの話
しおりを挟む「今日ってさ、バレンタインだったっけ?」
「十月三十一日だね。バレンタインは三ヶ月以上先」
「だよな…すごい量、青山のそれ」
「まあ……お菓子の日みたいなもんだから。断る理由もなくて」
今日は飯でも食おうってことになり、約束した時間に現れた青山は紙袋をもっていた。それには大量のお菓子が入っていて、バレンタインのような華美で丁寧にラッピングされたものではなく、手のひらに乗るようなお菓子だったり個包装のクッキーだったり、そういうものが大量に入っていたのだ。
イケメンで優しくて仕事もできる男の青山がモテることは知っている。本人がどう思おうと、例え俺という、こ、こ、恋人がいようと、周りには表明していないわけだからハロウィンみたいなイベントがあれば乗じて渡されるのも納得だ。
かくいう俺もいくつかもらってはいた。まあ全員に配られたかぼちゃの形をしたクッキーだけど。
そんな俺とは明らかに違う量の紙袋を引っ提げて現れたのだ。
ほとんど特別な感情は含まれていない、受け取ってくれるならこれもあげるよ~的なものばかりだとは思うが、やはり青山ってモテるんだなと感心したり再認識したり何ともいえないこれヤキモチなんだろうかというもしゃもしゃした気分が燻った。たぶんその中には本気の気持ちを含めたやつだってあると思うんだ。
HAPPYHALLOWEEN~なんて言われて渡されれば、そりゃ受け取るしかないもんな。俺も何か準備しておいて渡したらよかったのか。何となく負けた感がして悔しいような気がしなくもない。
青山ってそんなに甘い物好きじゃないから、お菓子じゃない方がいいだろう。ここは定番の『Trick or Treat~ あははっ お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞー』って俺からキスでもしたらいいだろうか。何も持ってないから差し出せるものは俺くらいしかないんだよ。
「どうした?行くぞ」
「あ、うん。あのさ」
頭の中でぐるぐる考えてしまった俺の足はなかなか動かなくて、訝しんだ青山が行き先を促した。うーん。やっぱキスはなしだ。ちょっと違う。
思い付いたからには何かしたいんだよな。せめてコンビニへ寄れたら、飴でもチョコでも買えるのに。
「後でいいからちょっとコンビニ寄りたい」
「別に構わないけど。何か急ぎ?欲しいものある?」
「そうじゃないけど、見たいというか欲しいというか、必要というか。ま、気にしないでよ」
必要なのに気にするなって言われたら気になる。としばらく食い下がられはしたものの、背中をぐいぐい押して店を目指すことにした。
夕飯は中華にして、歩きながら目にしたコンビニへ寄ることができた。買うものを見られたくないわけでもないし、別に隠すことじゃないから一緒に店内へ入ると思ったのに、外で待ってるよって青山は来なかった。たぶん俺がもにょもにょ考えていることがわかって、一人にさせてくれたんだ。そういう気遣いができるのいいなっていつも思う。
(何にするかな…うーん)
ミントガムなら甘くないよなと思ったりもするけど、ちょっとピンとこなかった。そういうのじゃなくて、ほら、ハロウィンだからって感じのものにしたい。ちょっと遊びゴゴロもあるような―――
「おまたせー」
「買えた?」
「うん、あった」
俺は買えたものをいつ青山に渡せばいいのか考えた。今でもいいし別れ際でもいいし、チョコみたいに溶けるものじゃないからポケットにサッと入れてくれたらいいサイズだし。
ま、今でいっか。買ったもの聞かれはしないが、きっと気にしてるだろうし。
「青山」
「んー?」
「ハッピーハロウィン! はい、これ」
俺は右手の中に小箱を握りしめ、パッケージが見えないように青山の前へ差し出した。そうすると条件反射なのか、青山は受け取ろうと左手をこちらへ向けた。
「甘いもん好きじゃないし、でもこれならお菓子っぽいからいいかなーと思って」
「……これ、」
「うん、お菓子入ってそうじゃん? このスキンのパッケージ。ちょうどいいかと思って、……っえ、ちょっ、ねえっ」
うえー。
手首を掴まれてぐいぐい歩かされる。ちょとー!家に帰らなきゃいけないのに、どこ行くんだよっ
『悪戯のお返し、しないとな』じゃなくて。その悪い顔、何するつもりなんだよー
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