恋色模様

文字の大きさ
13 / 17
その後の二人

その後1

しおりを挟む



 恋人になって一週間。
 @青山の部屋。である。

 色々となし崩しにこういう関係になってしまい、説明というか経緯というか、ちゃんとお互いの気持ちを確かめ合ってからの合意らしいんだけど、残念ながら俺の記憶にはさっぱり残っていなかった。何故かおかしなことに、どうでもいいことばかりが断片的に残っていて、うおーっ!と叫びたくなること数万回。肝心の告白だとか合意だとか、覚えておくべき言葉は微塵も思い出せなかった。何てことだ。

 そこはまあ翌日に青山が色々説明してくれたんだけど、でも記憶がないってホントかどうかもわからないし全然実感なんて湧かなかった。
 一体俺はどんなことを言って何をしでかしたんだろう。そんなことしたの?え、捏造とかじゃなくて言ったの?記憶がなくてむしろよかったのかもしれないと思い直すこと数千回。自分で自分を励ました。ファイト、俺。

 だから。恋人期間にするであろうことをしてみたいわけですよ。例えば待ち合わせとか、デートとか。大切なのでもう一回。デートとか。

「あのさ、青山」

「宗士」

「あ、うん……宗士」

 あ、あ、あー。呼び方が苗字から名前へ。大したことないたったそれだけのことで照れるのもどうかとは思うけど、口がくすぐったくて俺は口元を押さえてしまった。慣れないんだよ、これ。いい大人がとかいう苦情は受け付けていません。悪しからず。

「何?」

 ソファーにだらりと身を置いていた俺を、後ろ側から見下される。ぬっと視界に入った顔は仕事をしているときと全く違った。いやでもかっこいいに変わりはない。イケメンはいつだってイケメンだ。逆さまに見たって損なわれない。
 どこの誰かが言っていたっけ。『あまーいっ!』ってセリフ。あれが急に頭をよぎった。俺も今言いたい。

『あまーい』

 ううぅー。やめてぇ。好きな人からの好きだよオーラ全開。攻撃レベルがもんのすごいですから。撃沈です。

 内心一人実況と悶絶している俺のことなど青山にわかるはずもない。人間の心が見えなくてよかった。もしかしたら読心術とかできたりするんだろうか。それならどうぞお構いなくですよ。
 頭の両側に手をつきこうやって見下されると、青山だけの空間に囲まれているみたいだ。ああ充満する。青山でいっぱいに満たされる。
 さらには前髪を掻き分け額を晒して、そこへわざとらしくちゅっと音をさせた。満足したのか蕩けるように少し笑うと言いましたとさ。

「今日も夏月はかわいいよね」

 ぐぬぬ。イケメンの投げてくる爆弾は威力がすごい。自覚ないのかな。本人がどれだけのものかわからずに使ってくるから、受けるこっちの被害は相当なものです。撃沈の次は爆破でした。現場からは以上です。
 攻撃が例えピンポン玉だろうがスポンジボールだろうが、硬度の問題じゃねぇんです。こっちの受け止め方なんだろうけど慣れないし、何より俺は惚れてるわけで本人が大した意味もなく言った一言にだって反応しちゃうわけ。

 堪らず赤面という名の恥ずかしの刑にされてしまい、ついでにズクリッともたげた昂りを慌てて鎮めることになった。朝から勘弁してくれ。

「デート!デートしたいのっ」

 用件をさっさと伝えないとおかしなことになってしまいそうで、俺は色々な煩悩を振り払って口にした。

「デート?」

「そう。待ち合わせとか、どこかでかけたりとか、してみたい」

「デートねえ……」

 ふいっと視線が宙を探る。いくつか候補が上がっているのであろう優秀な青山の頭脳。思いつきのような俺の一言にだって対応してくれるらしい。どこから仕入れているんだろう、その情報。仕事も遊びも満遍なく詳しいなんて、すごすぎる。

「じゃあ、ちょっと考えとくから楽しみにしてて」

「え、ホント!?ありがっ…」

 俺が言い出したことだからせめて礼を言いたかった。でもその言葉は塞がれてしまって言えなくて。ならば離れたときにでもと思っていたのに、舌を絡めて口の中に唾液が溜まるくらい、それはそれは深いものでやはり叶わなかった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

酔った俺は、美味しく頂かれてました

雪紫
BL
片思いの相手に、酔ったフリして色々聞き出す筈が、何故かキスされて……? 両片思い(?)の男子大学生達の夜。 2話完結の短編です。 長いので2話にわけました。 他サイトにも掲載しています。

俺より俺の感情が分かる後輩は、俺の理解を求めない

nano ひにゃ
BL
大嫌いだと思わず言ってしまった相手は、職場の後輩。隠さない好意を受け止めきれなくて、思い切り突き放す様なことを言った。嫌われてしまえば、それで良かったのに。嫌いな職場の人間になれば、これ以上心をかき乱されることも無くなると思ったのに。 小説になろうにも掲載しています。

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。 ◆ 2025.9.13 別のところでおまけとして書いていた掌編を追加しました。モーリスの兄視点の短い話です。

【本編完結】おもてなしに性接待はアリですか?

チョロケロ
BL
旅人など滅多に来ない超ド田舎な村にモンスターが現れた。慌てふためいた村民たちはギルドに依頼し冒険者を手配した。数日後、村にやって来た冒険者があまりにも男前なので度肝を抜かれる村民たち。 モンスターを討伐するには数日かかるらしい。それまで冒険者はこの村に滞在してくれる。 こんなド田舎な村にわざわざ来てくれた冒険者に感謝し、おもてなしがしたいと思った村民たち。 ワシらに出来ることはなにかないだろうか? と考えた。そこで村民たちは、性接待を思い付いたのだ!性接待を行うのは、村で唯一の若者、ネリル。本当は若いおなごの方がよいのかもしれんが、まあ仕方ないな。などと思いながらすぐに実行に移す。はたして冒険者は村民渾身の性接待を喜んでくれるのだろうか? ※不定期更新です。 ※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。 ※よろしくお願いします。

ワンナイトした男がハイスペ弁護士だったので付き合ってみることにした

おもちDX
BL
弁護士なのに未成年とシちゃった……!?と焦りつつ好きになったので突き進む攻めと、嘘をついて付き合ってみたら本気になっちゃってこじれる受けのお話。 初めてワンナイトした相手に即落ちした純情男 × 誰とも深い関係にならない遊び人の大学生

【完結】幼なじみが気になって仕方がないけど、この想いは墓まで持っていきます。

大竹あやめ
BL
自身に隠した想いと過去の秘密……これはずっと表に出すことは無いと思っていたのに……。 高校最後の夏休み、悠は幼なじみの清盛と友人の藤本と受験勉強に追われながらも、充実した生活を送っていた。 この想いはずっと隠していかなきゃ……悠はそう思っていたが、環境が変わってそうもいかなくなってきて──。 スピンオフ、坂田博美編も掲載した短編集です。 この作品は、ムーンライトノベルズ、fujossy(fujossyのみタイトルは【我儘の告白】)にも掲載しています。

アズ同盟

未瑠
BL
 事故のため入学が遅れた榊漣が見たのは、透き通る美貌の水瀬和珠だった。  一目惚れした漣はさっそくアタックを開始するが、アズに惚れているのは漣だけではなかった。  アズの側にいるためにはアズ同盟に入らないといけないと連れて行かれたカラオケBOXには、アズが居て  ……いや、お前は誰だ?  やはりアズに一目惚れした同級生の藤原朔に、幼馴染の水野奨まで留学から帰ってきて、アズの周りはスパダリの大渋滞。一方アズは自分への好意へは無頓着で、それにはある理由が……。  アズ同盟を結んだ彼らの恋の行方は?

溺愛じゃおさまらない

すずかけあおい
BL
上司の陽介と付き合っている誠也。 どろどろに愛されているけれど―――。 〔攻め〕市川 陽介(いちかわ ようすけ)34歳 〔受け〕大野 誠也(おおの せいや)26歳

処理中です...