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その後の二人
その後1
恋人になって一週間。
@青山の部屋。である。
色々となし崩しにこういう関係になってしまい、説明というか経緯というか、ちゃんとお互いの気持ちを確かめ合ってからの合意らしいんだけど、残念ながら俺の記憶にはさっぱり残っていなかった。何故かおかしなことに、どうでもいいことばかりが断片的に残っていて、うおーっ!と叫びたくなること数万回。肝心の告白だとか合意だとか、覚えておくべき言葉は微塵も思い出せなかった。何てことだ。
そこはまあ翌日に青山が色々説明してくれたんだけど、でも記憶がないってホントかどうかもわからないし全然実感なんて湧かなかった。
一体俺はどんなことを言って何をしでかしたんだろう。そんなことしたの?え、捏造とかじゃなくて言ったの?記憶がなくてむしろよかったのかもしれないと思い直すこと数千回。自分で自分を励ました。ファイト、俺。
だから。恋人期間にするであろうことをしてみたいわけですよ。例えば待ち合わせとか、デートとか。大切なのでもう一回。デートとか。
「あのさ、青山」
「宗士」
「あ、うん……宗士」
あ、あ、あー。呼び方が苗字から名前へ。大したことないたったそれだけのことで照れるのもどうかとは思うけど、口がくすぐったくて俺は口元を押さえてしまった。慣れないんだよ、これ。いい大人がとかいう苦情は受け付けていません。悪しからず。
「何?」
ソファーにだらりと身を置いていた俺を、後ろ側から見下される。ぬっと視界に入った顔は仕事をしているときと全く違った。いやでもかっこいいに変わりはない。イケメンはいつだってイケメンだ。逆さまに見たって損なわれない。
どこの誰かが言っていたっけ。『あまーいっ!』ってセリフ。あれが急に頭をよぎった。俺も今言いたい。
『あまーい』
ううぅー。やめてぇ。好きな人からの好きだよオーラ全開。攻撃レベルがもんのすごいですから。撃沈です。
内心一人実況と悶絶している俺のことなど青山にわかるはずもない。人間の心が見えなくてよかった。もしかしたら読心術とかできたりするんだろうか。それならどうぞお構いなくですよ。
頭の両側に手をつきこうやって見下されると、青山だけの空間に囲まれているみたいだ。ああ充満する。青山でいっぱいに満たされる。
さらには前髪を掻き分け額を晒して、そこへわざとらしくちゅっと音をさせた。満足したのか蕩けるように少し笑うと言いましたとさ。
「今日も夏月はかわいいよね」
ぐぬぬ。イケメンの投げてくる爆弾は威力がすごい。自覚ないのかな。本人がどれだけのものかわからずに使ってくるから、受けるこっちの被害は相当なものです。撃沈の次は爆破でした。現場からは以上です。
攻撃が例えピンポン玉だろうがスポンジボールだろうが、硬度の問題じゃねぇんです。こっちの受け止め方なんだろうけど慣れないし、何より俺は惚れてるわけで本人が大した意味もなく言った一言にだって反応しちゃうわけ。
堪らず赤面という名の恥ずかしの刑にされてしまい、ついでにズクリッともたげた昂りを慌てて鎮めることになった。朝から勘弁してくれ。
「デート!デートしたいのっ」
用件をさっさと伝えないとおかしなことになってしまいそうで、俺は色々な煩悩を振り払って口にした。
「デート?」
「そう。待ち合わせとか、どこかでかけたりとか、してみたい」
「デートねえ……」
ふいっと視線が宙を探る。いくつか候補が上がっているのであろう優秀な青山の頭脳。思いつきのような俺の一言にだって対応してくれるらしい。どこから仕入れているんだろう、その情報。仕事も遊びも満遍なく詳しいなんて、すごすぎる。
「じゃあ、ちょっと考えとくから楽しみにしてて」
「え、ホント!?ありがっ…」
俺が言い出したことだからせめて礼を言いたかった。でもその言葉は塞がれてしまって言えなくて。ならば離れたときにでもと思っていたのに、舌を絡めて口の中に唾液が溜まるくらい、それはそれは深いものでやはり叶わなかった。
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