恋色模様

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その後の二人

その後3




 海の景色を満喫しながら更に車を走らせ、せっかくなので海鮮丼という看板を掲げている店を昼食に選んだ。
 誰かが言っていたっけ、わあ宝箱のようだぁ、と。あれもこれも豪華なネタが丼一杯で満喫できるお得感。わかる。

「苦手なネタは?ある?」

「しらす、かなぁ。目がさ、付いてるじゃん。あれダメなんだよ。こっち見てるの」

「うまいのに…」

 そんな風に見ないでくれ。憐れむな。知ってるわかってる。うまいということは重々承知しているんだ。人生半分損してるぞもったいないって言われたこともある。俺の人生しらすに半分もっていかれるのかってツッコミたかったけどな。まあそれはしらす丼食べるとき限定でということで。
 でもさ、でもだよ。食べられないことはないんだ。たぶん。口に入れたら食べる。飲み込む。たぶん。味が嫌とか美味しさどうこうではなくて、気分なのだ。そういう理由で残念ながら同じように桜えびが苦手である。漁師さんすみません。ごめんなさい。

 席へ案内され海鮮丼ふたつを注文した。初めから選ぶものを決めて入店したからメニューは見なかった。でも他にどんなものがあるのか気になってやっぱり手にして見る。
 ペラペラめくるとどれも美味しそうで、今度来たら違うものにしてみようなんて思った。硬めレトロプリンうまそう。うん?再来あるかな。青山に聞いてみよう。俺だけじゃたぶんココには来ないだろうし、旅行するような友達……といえば野白くらいしかいない。彼女いるしな、俺とじゃ来ないかー。

「おまたせしました~」

 好きな食べ物のことやこの辺りの観光の話をしていたら二人分のトレイが運ばれてきた。店員さん力持ちだな。
 わー、すげぇうまそう。海鮮丼に茶碗蒸しと天麩羅まで付いていた。あと味噌汁に漬物も。このちょっと付いている香の物が好きだったりする。何気にうまいよな。ちなみに俺はごぼうの漬物が推しだ。やつはうまういぞー。

「いっただきまーす」

 俺はうきうきと好きなネタから食べ始めた。最後にとっておく主義の人もいるけど、腹が空いてる最初の一口ほどうまさを満喫できる瞬間はないだろ。口が待っている。好物を選ばないで何を選ぶんだ、と言いたい。
 むぐむぐ。ほらな、思った通り口の中が幸せ空間だ。ちなみに俺はほたてを選んだ。甘くて好きなんだよ。青山はまぐろだった。王道オブ王道。さすがイケメンは選ぶものもイケてる。はて?

「うまっ!」

「新鮮だな」

 つい子供みたいに食いついてしまった。うまーい。青山と味わいながらしばらく食べることに集中した。会話は『これ何だろう?』とか『これうまい』の繰り返しでほぼないも同然だ。
 いやホントうまい。もちろん会社の近くにだって海鮮食べられる店くらいはあるから、初めてってわけじゃないけどな。
 でもさ全然違う。今までの海鮮丼は何だったんだ。いや別にケチ付けてるわけじゃないからな?まずいとか新鮮じゃないとか、そういうことを言いたいんじゃなくて。これが最高にうまい!と言いたいわけだよ。100点満点が標準だとすれば200点です。倍うまい。倍うまいってなんだ?まあいいや。うまいが二倍。二杯食ったらいいのかもしれんが、いやそれ100点が二個なって自分で脳内ツッコミしておいた。

「はあ~、ごちそうさまっ」

「ごちそうさま。美味かったな」

「うん、満足ー」

 二人して腹いっぱいの大満足だ。会計を済ませ、車は有料駐車場に入れてあるから、このまま近くをちょっと歩いて回ることにした。パンパンになってしまった食後の腹ごなしでもある。
 ちなみにそれなりの速度で徒歩十分が三〇キロカロリー消費らしい。だらだら散歩じゃ大した運動にならなないのか。まあいいや。

 観光地だから飲食店が多くて、歩きながら視界に入るあれもこれもが美味しそうに見えた。
 食べたばかりでも甘いものは別腹というか、うーんたぶんイケるけどさっきもソフトクリーム食べているからやめておこう。ちなみに甘くないものもしっかりうまそうに見える。不思議。

「よく食おうと思えるよな。さすがにその食欲には負ける」

「えー、入るよ。成分違うじゃん」

「成分!?そういう話?」

「そうそう、そういう話」

 青山が爆笑していた。え、レア!いつも飄々としているのにこんな笑うって、珍しさもあるけど顔いっぱいに笑ってくれているのが嬉しかった。しかもイケメンがかわいいってすげぇ。

「もう、そんな笑わないでよ」

「いや、ゴメン……細いのにどこへ入るのかと思って」

 つつっと、胸骨のあたりから臍までを指の先でなぞるから、ぎゅんっと背筋が伸びた。嘘です、ぞわぞわしてます。誤魔化しました。

「……感じちゃった?」

 くすっと笑って青山が意味ありげに見るから、『おかげさまで!』と返してやった。どうだ、素直だろう。少しは俺の反撃に驚くがいい。
 そう思ってわざと言ったのに、『へえ……じゃあ、責任とって今夜遠慮なく』って返された。意趣返しのつもりが、全然効果なかった。むしろ余計なこと言ったかもしれない。なんでこうなるんだよ。俺のバカー。

 足湯が体験できるところでは二人並んで入れてみたり、銘菓の試食や地産の果物ジュースを試飲したことは青山にちょっと呆れられたけど。ぷらぷら手にはお土産を持って、ゆっくり過ごす時間はとても楽しかった。

 地元野菜が並んでいる直売所もあった。野菜も好きな俺はサラダを毎日のように食べていて、特に旬のトマトが大好きだ。あの瑞々しく溢れ出る汁がたまらない。そのままでももちろん美味しいが塩を少し振って食べるのが一番お気に入りだった。
 ここで売っているものもツヤツヤしてて美味しそうだ。黒とか緑のミニトマトも並んでいた。へー、おもしろい。
 やっぱり実るものは旬に食うのが一番だよな。冬のトマトは何ていうか、旬になるのを待とうかなと思う感じです。はい。

 それで、たまたま。目の前にとてもご立派なきのこ類がございまして、その中にあるエリンギがどうにもこうにも。ええ、ご立派なナニそれとよく似ていらっしゃるんですよ。

(おっかしいな、すげえ似てる……)

 気のせいか?そんなよく見たことないし、比べるのもどうかと思うのだが。一度気になるとどうにも目がチラチラそれを見てしまう。いやー、失礼かとも思うし。でも全然違うものだから冗談にできそうだし。似てるんだよ、何となく。このエリンギと、その、あの、青山さんちの息子さん?
 どうしてこんなにそっくりなのかDNAが一緒とか?そういうの詳しくないんだけど。形状記憶の組織だか細胞が同じなんじゃないかと思えるくらい形というか?雰囲気?太さは違う。だって青山さんちの息子さんの方が絶対勝っている。Win。うーん野菜に向かって勝ち負けもどうかって話だけど。でもさあ。

「どうした?」

「ぅわっっ!!!」

「何でそんなに驚くわけ?」

「あはははーっ」

 変なこと考えていたなんて言えない。おたくの息子さんとエリンギを比べていたなんて言えない。でも余計なことを考えていたせいで、おかしな気分になっていることも事実だった。
 えー、形状の妄想で興奮できちゃうって、実はそういう性癖でもあるのかな、俺。いやいやいや。これは誰のでもいいわけじゃない。きっと青山だから。そう青山だからなんだと思う。

「あのさ、まさかと思うけど。変なこと考えてなかったよね?」

 青山が俺の視線の先にあったエリンギを見て、じっとり疑ってきた。おかしいな。俺の考えていることまでわかっちゃうなんて、さすが何事も優秀なだけあって洞察力もピカイチです。もしかして読心術できる?って感心している場合ではなかった。無駄と思いつつ否定する。

「ないない、ないですー。アレとこれはどれが誰とか比べるとああだとかすごいなとか長いなとか思ってない、から」

「そうなんだ、考えてたんだ。へー」

 くうっ。俺のバカ。
 そこからはもう機嫌の悪くなった青山に引きずられ車に乗り込み、本日の宿泊地までびゅびゅんと走って到着です。

 頑張れ、俺!




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