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1.はじまり
しおりを挟む──面倒くさいことになったな
ナオは頭の片隅でそう思った。
王座というものに興味はないし関わりたくもないポジションだ。自分以外の誰かが勝手に座ればいいと思っている。誰がなろうと大して代わり映えなんかしないのだから。
しかし周りの連中はそうではなかった。誰が王座へつくかによって思い通りにならなくなる大人たちがいるのだ。そういった思惑により、ナオのことは放っておいてくれないらしい。
人口の1%が『異能』と認定される世界。総人口を考えれば特段に珍しくもない存在を表す数字だ。であるからナオもそのうちの一人で、異能を持って生まれたことは不思議ではない。
ただ、それだけの人数が異能者として存在すれば、能力に差は出てくる。大したことのない雑魚から、スポンサーが付くほど強力な異能者まで様々である。ナオは後者にあたり、そうなれば必然的に重宝されるため、名は異能者の間でも知られる存在となった。
ナオの容姿はそこまで詳しく晒されていないはずだが、この情報過多の時代である。探せばどこかで入手できるのだろう。自分の能力を過信し名を上げようとしている異能者が、日常的に絡んでくるようになった。
もちろんナオからすれば大したレベルではないから、片手を振る程度の動きで対処できる。しかし同じようなことを言われ、同じように挑まれ、同じ結果が続く日々に少々うんざりしていた。
何故このようなことになったのか──
それは日本の最強異能者である異能省事務次官が退任を発表したからだ。
後継には『日本の最強異能者』を条件としている。異能省の大臣はいわゆる能力を持たない『無能』であるため、事務次官が実質的なトップだ。そうなると、事務次官の地位に就けば国政に関わることができる。権力者たちが躍起になって強い異能者のスポンサーとなるのはそのためだ。
囲った異能者が別のスポンサーへ移ろわないよう、与えられるだけの金を与える。ナオには生活どころか何でも好き放題できるだけの金が振り込まれていた。同年代が手にしているであろう金銭とは比べようのない金額だ。
ただ金品には興味がない性質であるから、提示される金額よりも『煩く束縛せず自由にさせる』という条件と、寝床に困らなければそれでよかった。今のスポンサーはそれが適っているから大人しく留まっているにすぎない。
「……お前が、鷹栖尚だろ。ははっ そのおキレイな顔を歪ませて殺るのは楽しいだろうなぁ」
同じようなことを何度言われてきただろうか。標準的な体格に薄茶色の髪。女顔と言われる少しつり上がった大きな目。噂ほどの強敵ではないと思われ、侮られる。
異能者には血気盛んな人間が多いのかもしれない。備わっている本能というやつか。どうやらナオの見目は加虐心を煽るようで、孔に突っ込みたいだとか啼かせてやりたいなどという戯言も多かった。
「さっさと片付けるか……」
ナオは独り言のようで、姿の見えない誰かに話しかける声音で溜息まじりにそう呟いた。
「あ? 何言ってんだ? 逃げても無駄だぜ」
目の前にいる男の言葉は無視する。雑音などどうでもよかった。
左手の長袖シャツを少し捲ると、あらわになった手首には紋が刻まれていた。ナオには不似合いな赤黒い印だ。印がある左手をゆっくり口元へ近づける。そして手首の内側、日に焼けていない白く柔らかい肌の紋へ自身の唇を寄せた。
【僕の剣】
言葉とも声ともいえない音で短く詠唱すると、その紋から光が溢れた。瞬き程度の時間、一瞬の出来事である。
その輝きが治まると同時にナオの隣には頭ひとつは背の高さが違う男が立っていた。一体どこから現れたのか、身を隠す場所などないというのに。
短い黒髪に精悍な顔つき、体格はナオとは正反対でガッシリしている。この男の方がよほど異能者に見えた。
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