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8.未来へ
しおりを挟む亮が現れたことにより、梶原と行動をともにする理由がなくなった。ナオは用意されたマンションで生活することに。一人暮らしのつもりだったが、実質亮との同居だ。
住み始めてしばらくの間、ナオは食事を適当に済ませていた。あまりこだわりがないこともあってシリアルバーや栄養調整バーなどをかじることが多かったように思う。コンビニという便利なものもあるわけだ。一日に必要な栄養を得ていればいいだろう、と気にしたこともない。
亮がそばにいることにも慣れ始めたある日、テーブルの上にコトンと皿が置かれた。とろとろのたまごの上にケチャップ、どう見てもオムライスである。それもふたつ。時刻は昼時だ。
ナオは梶原に課せられているレポート作成に飽きているところだった。年相応の勉学もしておけという考えらしいが、ナオからすると必要性を感じない。今更日常生活になんて戻れるわけもないというのに。そうなるとどうしたって進みが遅くなる。
「飯にしろ」
「なに、これ」
「オムライス」
「それはわかるって。亮が作ったってこと?」
「お前の健康と健全に繋がることだからな。誰かと食べる方がいいとも聞いた」
なんだ。結局は自分のためだったのかと、棘のようなものを感じながらナオは散らかっているテーブルの上を片付け、亮の料理を口にした。
(うま……っ)
意外なことに亮の料理はうまかった。気づけば皿を空にしていた。歴代の宿主たちの影響もあって、亮は大概のことをこなす。知識も豊富だ。料理もそのうちのひとつらしい。
「料理もできて普通に食べるし話すし、ほとんど人間なのに。でも死なない。しかも僕に憑いてるって。わけわかんないね」
「俺は俺という存在以外の何者でもない」
「うん、そうなんだけど」
いつまでナオのそばにいるのかわからないが、このとき、亮に対する警戒心のようなものは消えていた。絆されたというほうが近いかもしれない。
それからナオの好物を把握され、食事は亮に任せることになった。思惑に乗せられたような気もするが、うまいものに罪はない。実際、ナオの体調はすこぶるよかった。
ナオの異能力が格段に上がると、異能者同士のゴタゴタに巻き込まれることが増えた。目立つ要素はないと思うのに、やはり一般人とは存在そのものがどこか違うのかもしれない。特におかしな異能力の使い手が寄ってくる。あるいは、ナオの外見だろうか。ただそこまでの強敵ではないこともあって問題なく一人で対処できた。今のところ亮の出番はほぼない。
亮は紋様の中に封印されているわけではないのだが、戦っている最中に姿を見せることはなかった。ナオが呼び出さなければ姿を見せることはない。手を貸す必要性があるときには出ると言いつつ、傍観に徹している。
最近のゴタゴタ、実は梶原からの嫌がらせなんじゃないかと疑っているくらいだ。『実践大事。尚くんは経験が必要』とよく言っていた。二日に一回は絡まれているような気がしている。
この頃には異能力を使うと体にじわじわ溜まる熱を自覚していた。ナオは一人で処理していたが亮には話さなくても伝わってしまう。共鳴ってなんだ。プライバシーなんてものはない。放っておいてほしいのに『手伝う』と言い出した。
もちろん拒んだが、亮に押し切られる形となってしまった。後ろから抱えられる体勢で吐精を促された。
「ぁ、あっ、……ん、ふっ」
自分の手以外の誰かに絶頂へ追いやられるとは思ってもいなかった。ただ、拒否する気持ちは微塵もない。それどころか亮の手は気持ちよかった。一度受け入れてしまうとどうしたって他のことも緩くなる。何しろ亮は何をするにもナオに甘い。食事にしても戦いにしても生活全般から、体のケアまで。
『ナオ……』
いつしかキスすることが当たり前となり、グズグズとその先へ進んだ。体を鎮めたいナオと、取り憑いた宿主から楽に生命力を得たい亮の目的が合致しているから。宿主が健全で生命力の溢れる個体であればあるほど、共鳴するかのように亮も心地よいらしい。それもあってナオにとってはあくまで性欲処理の行為──そう思っていたが、そうではなかった。
「何を言う。俺とナオは血で絆を結んだ。離れることはない」
「……は?」
亮の構い方に『僕に飽きたら他の宿主へ行くんだろ』と声にしたことがある。それに対して想像していない言葉が返ってきた。知らない。いつの間にそんなことになっていたんだ。
「はじめからだが?」
お前という器がおもしろい。得られる力も好みだ。亮はそう言った。異能者である自分はたしかに一般人とは違うだろうが、なるほど、憑いた理由はそういう意味合いもあるのかと納得した。
ナオの中で、亮に対して何かが芽生えた瞬間だ。
『ナオ』
「……」
『ナオ、集中しろ』
「わかってる」
頭の中に声が響く。誰にも聞こえない、ナオだけがわかる亮の声だ。
朝、梶原から画像付きのメッセージが届いた。妹がはにかんで笑っている。ナオの記憶にある妹の姿から少し成長していた。
いつまでも立ち止まっているのは自分だけなのかもしれない。ナオがいなくなってもこうして前を向き進んでいる。あの子は強い。それでいい、それでいいはずなのに。
──自分は存在するべきではないのかもしれない
相手からの攻撃は決して厳しいものではなかった。避けようと思えばいくらだってできる。次に何が起きるのか、ナオには予測できた。それなのに体が動かない。このまま攻撃を受ければ──頭の片隅でそう思ってしまったのだ。
しかしナオへ攻撃が届く直前、亮が前に出た。避けようとしないナオに代わり、盾となって攻撃を受けている。
「りょ、う……!!」
そうだ。自分が倒れれば少なからず亮にだって影響がある。いや、最悪道連れじゃないか。こうして盾にさせてしまったことに後悔した。
「ナオ、落ち着け」
「……っ」
「お前は強い。お前には、俺がいる。誰にも負けないということは、守りたい誰かを最後まで守りきれる。強くなれ」
「強く……」
答えのような気がした。自分がいたことによって生じた不幸なできごと。今更消えたとしても過去へ戻れるわけじゃない。元になんか戻らない。いなくなった方がいいのではないかという考えはナオのエゴだ。
亮はそれを打ち消してくれた。自分が存在する理由を教えられた気がして、ナオは『最強』であることを目指すようになった。
亮という人ではない特別な相手をいつまでも自分へ縛り付けるためにも──
おわり
※気まぐれで単話を書く可能性があります
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