剣と紋と未来の約束

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7.亮

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 ──数年後

「そろそろ認めたら?」
「うる、せぇ……っ!!」

 結界内で行われている戦闘の勝敗は既に決している。右手に持つ剣を下げたまま、ナオは構えてすらいない。一方の対峙している相手は、ナオからの攻撃を受け全身に傷を負っていた。どちらに分があるかなんてわかりきっている。

 本来、突刺用であるレイピアなのに剣として憑いている亮が『ナオに似合う』という理由で細剣を持つことになった。亮をイメージした剣であれば、もっと違うタイプになっただろう。大剣あたりが相当だ。しかもナオが扱いやすいよう軽量化、物理的に剣を交えた場合を考え硬化・衝撃吸収もする。
 とことんナオを護り負担を減らす、初見から亮はとにかく甘かった。

「じゃあ、遠慮なくやらせてもらおうかな」

 ナオは剣を構え、自身の力を炎としてまとわせる。剣先を相手へ向けると、炎は生き物のように大口を開けて襲いかかった。

「くそっ──!!」

 喰らうように対峙者を飲み込むと、炎の消えた後には敗者が横たわっている。

《勝者、鷹栖尚》

 その場に機械的なアナウンスの声が響いた。悠々とどこかで見ているであろうスポンサーたちにとって、これも娯楽のひとつなのかもしれない。異能者たちはたまったものではないが。さりとて、高額な報酬を得られるのだから同類だろう。

 倒れている異能者は、スタッフにより回収されていった。そこまで深手を負っているわけじゃない。ナオが放った炎で周りの酸素を消しただけ。そうすることによって酸欠となり気を失ったのだ。

 戦いが終わると亮はナオのすぐそばに姿を現した。これもいつものこと。人の姿である方が実体なんじゃないか。何度もそう思わされた。

「帰るぞ」
「……うん」

 この場にもう用はない。ナオは亮に促され、歩き出した。



 異能には銃や弓といった飛び道具を使う者、音や光のように触れることはできなくても操れる者、梶原のような次元すら歪められる者。異能力は多種多様だ。
 梶原と出会った頃のナオは、力をうまくコントロールできず媒体となるものが必要だった。攻撃する方向にしろ加減にしろ、介するものによって異能力が扱いやすくなるからだ。宝の持ち腐れというのか、ナオは異能力を発揮できず燻っていた。
 そんなとき、未成熟だったナオは亮という剣を手に入れた。宿主を探していた亮との巡り合わせは、もしかすると互いが引き寄せられた結果なのかもしれない。
 媒体を使うことによってナオの異能力は飛躍的に上がった。自分の能力を自在に扱えるようになったのだから、当然、これまで以上にナオの体力や源となる力は消耗する。だからといってエネルギー切れになることはなかった。むしろその逆だ。
 異能を持つ者の中には、その能力と引き換えに何かを失う場合もある。例えば老いの停止、急激な睡魔、食欲過多……ナオは興奮状態の持続だった。戦闘後には神経が高ぶる。炎のようにゆらゆらと。それが性欲として表れるようになった。
 時間の経過とともに落ち着くものではあるが、ときには早く鎮めたいほどの火照りに苛まれる。手っ取り早い解決方法は性交だ。吐精により、燻る熱を体外へ出し興奮状態は収まった。

「ん、ふっ……っ」

 亮の舌がナオの口内を撫でる。すっかり慣れてしまった行為に、ナオはほっと安堵した。

 これはギブアンドテイク。体を鎮めたいナオと、取り憑いた宿主から楽に生命力を得たい亮の目的が合致しているからだ。宿主が健全で生命力の溢れる個体であればあるほど、共鳴するかのように亮も心地よいらしい。それもあってナオにとってはあくまで性欲処理の行為──のはずが、そうではなくなった。

 ナオの闘い方は『勝つ』という目的があるようで、どこか投げやりな一面もあった。あの日、強い異能力を秘めているにもかかわらず解放できないまま川で溺れていた。次の宿主を探していた亮がナオを見つけたのはそんなときだ。

 ──おもしろい

 それだけの理由でナオを宿主に決めたらしい。人の形を保ち、食べることも眠ることもできる。ほぼ人であるというのに亮は人ではなかった。

 いつから存在し、どういうものであるのかナオが尋ねても答えはないとのことだ。名前などもちろん持っておらず、宿主のそばで数年、あるいは数十年を繰り返し過ごしてきたと平坦に伝えられた。

「聞いてもいいかな? 尚くんを宿主にしてる……えーっと、なんて呼べば?」
「尋ねる前に貴様が名乗ったらどうだ」
「ああ、失礼。俺は尚くんのサポートをしている梶原せつ。当然、争う気はまったくないデス」

 梶原は両手を肘から曲げ、手のひらを見せた。何もする気はないという意思表示だ。

「名はない。好きに呼べばいいだろう」
「へー、そうなんだ。尚くん、どうする? しばらく一緒にいるわけだし、あったほうが何かと便利だよ」
「……あんた、人間じゃないモノが現れても平然としてるんだ」
「まあ。そもそも俺たち異能者が既にねえ?」

 いまさらいまさら。と、そんなやり取りから『亮……言いやすい』ナオがぽつりと付けた名前だ。

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