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6.憑かれたらしい
しおりを挟む「おやおやおや。変なもの拾っちゃったね、尚くん」
GPSでも付けられているのか探知できる異能なのか、ナオの居場所は梶原に把握されていた。ほどなくして迎えに来たわけだが、それにしてはあまりにも早くないだろうか。ここまで道なんてものはないはずで、どうやって辿り着いたのか手段がわからない。
不審に思うナオの疑問は顔に出ていただろう。しかしそれに応えることなく、梶原はガシッと腕を掴み『いっくよ~』という緊張感の欠片もない声と同時に空間異動を行使された。
ナオは強制的に初体験することになったのだが時空の歪みは乗り物酔いのそれで、気持ち悪さがとにかく酷い。どうやらナオにはむいていないらしい。二度と味わいたくないものだ。これから先何があろうともこの移動方法は断固拒否すると心に誓った。
そもそも梶原はこの能力を際限なしに使えるわけではなく、移動手段がない場合や緊急時のみしかやらないとのこと。体力の消耗が激しいからだ。
梶原の異能は空間移動と、自分の気配を弓のように射る攻撃。離れた相手にも攻撃できるが、気づかれてしまえば避けられる。ゆえに、戦闘向きではなかった。
一瞬で施設まで戻ると、『で?』と端的に訊ねられ、事の経緯を梶原へ伝えることになった。当然ながら隠しておけるわけもない。
施設内にある談話室のようなスペース。テーブルにソファやスツールもある。甘党のナオには『ココアでいいよね?』とマグカップを置き、梶原自身もコーヒーを飲みながらキーボードをカタカタ鳴らし始めた。十ノ宮への報告なのだろう。おそらくナオの変化は毎日伝えられているはずだ。
「なるほどね。川に落ちて助けられた、と。──尚くん、その痕はどうしたのかな?」
「つけられた」
「へー…… 何か言ってた?」
「よくわからない。剣がどうのと、『宿主』って」
「宿主かあ……なるほどね」
梶原はテーブルをコツコツと爪先で叩き、再びキーボードで文字を打ち込み始めた。画面を目で辿りながらしばらくその作業が続く。他にやることのないナオはその間にマグカップを手にしてココアを飲むことにした。
「あった。うん、やっぱりそうみたい。尚くんに『憑いた』んだと思う」
「憑いた?」
聞き慣れない言い回しに、ナオは同じ言葉を返した。梶原によると、異能者の中にはバディのように組む者もいるらしい。与える威力の供給源と攻撃者、あるいは合せ技を放つ異能者のことだ。
同じ目的を果たそうとすれば人と人になるのだろうが、そうではない場合片方が人ではないこともある。ナオはその状態なのだ。
「『精霊』『憑依』『妖怪』……言い方は様々なんだけど総じて『憑いた』と表現してる。尚くんの話だとその紋様によって、そこに憑いたってわけ。しかも宿主ってことは何かしらの供給があった場合、見返りを求められるね」
「……は?」
梶原の説明にナオは不機嫌な声しか出せなかった。
溺れていたナオが助けられたことは間違いないだろう。状況からして他に考えようがない。黒髪の男は人間ではないらしく、どういう力を使ったのかわからないがとにかく助けられた。そこは一応感謝している。
しかしそれとこれは別だ。
勝手に宿主とやらにされ、頼んでもいないのに供給の見返りを払う関係になったらしい。了承どころかナオに憑いていることすら知らなかった。
「……出てこい。聞こえてるんだろう?」
「尚くん、まあ落ち着いて。えっとー、どうやって呼び出すんだろうね。名前呼ぶのか召喚の言葉なのか……それとも紋様に触れたり異能力を注ぐとか?」
「名前なんか知らない」
「だよねぇ」
あいつは何も言っていなかった。目的が何なのかもナオにはわからない。左手首の内側。赤い紋様へナオは苛立ちをぶつけるように自らの歯を立てた。
(噛んでたよな……めちゃくちゃ痛かったし、何の説明もないってどういうことだよ)
自分の肌であるからもちろん手加減はしている。同じようにしてみたが変化は特になかった。あのときを思い返してみても特別な言葉なんてない。一方的に『お前の剣』とかなんとか言っていたくらいだ。
「僕の剣……」
ナオがぽつりと呟いた。姿を現せよと恨めしく思いながら。
すると手首の内側、皮膚の下というのか、紋様のあたりに虫が這っているようなぞわぞわした感覚が起こった。
「……っ!!」
「尚くん!」
梶原もただならぬ気配を感じ取り、立ち上がって身構える。何が引き金だったのか、どれが答えだったのか。ナオに憑いた黒髪の男が姿を現した。
「さて、ようやくか」
不遜な態度は変わらずだ。
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