八咫烏 〜神になるか、人として戦うか〜

秀零

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第46話 白き記憶の彼方でー一鉄視点ー

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⸺白。

どこまでも深く、どこまでも透き通る白の中に、俺は立っていた。

ここに居る前の最後の記憶を思い出す。
天音の力を借りて、娘を……結をあるべき場所へ送って……。
俺の中の記憶は、そこで途切れていた。

(これは……夢、か?)

思考は重く、体は霞のように曖昧だった。

けれど、目の前に広がる風景だけは、はっきりしていた。

白い石造りの柱が連なる回廊。

整然と並ぶ鎧と武器。

神界……あの世界の、騎士団本部。

「……そう、だ」 

ぽつりと、声がこぼれた。

記憶が、脳裏に浮かび上がってくる。

命令に忠実で、剣に忠実で、正義に忠実だった俺。

あの頃の俺は、何も疑わずにただ剣を振るっていた。

人間ではない。神でもない。

ただ、神界に仕える兵として生きていた。

 

──それが、俺の“前世”。

 

「……ああ、俺は、ここで生きていたんだな」

 

懐かしさも、悔しさも、寂しさも混ざったような感情が胸に滲む。

そんなときだった。

 

「やっと……思い出してくれたのですね」

 

柔らかく、どこか切なげな声が背後から届いた。

振り返る。

そこに立っていたのは、透き通るような白の衣を纏い、銀色の長い髪を風に揺らす女性だった。

美しく、神々しく、それでいてどこか人間的な温もりを感じさせるその存在。

 

「……天禰(あまね)……様」

 

その名が、自然と口から漏れた。

そうだ。この人は──俺たちの前世での主。

神界を治め、長きに渡り最高神として君臨していたお方。

 

天禰は静かに微笑み、俺を見つめた。

「前世の記憶を思い出した一鉄なら、分かったと思いますが、私も皆と同じように転生しています……ですが今世の私、天音は泣き虫で弱虫で……それでも、前よりもずっと強くなっているんです」

 

たった一言だった。

だが、その言葉には、重く優しい想いが込められていた。

彼女がどれほどの時間、俺たちを想ってくれていたのか。

その一言が、すべてを語っていた。

 

「……あんたは、ずっと……見ていたのか?」

 

俺は低く呟いた。

「俺は、娘を……救えただろうか。あの時、もっと何か……できなかったのか」

 

その問いに、天禰は目を細め、わずかに首を横に振った。

「答えを出すのは、あなた自身です。一鉄」

 

「けれど──あなたが娘さんを想い続けた心は、何ひとつ、無駄ではありません」

 

その言葉に、心の奥がじんわりと熱くなった。

「一鉄……これは、命令ではありません……どうか天音をよろしくお願いします」

俺は、もう一度天禰を見つめる。

「……あんたの願い、受け取った。今世のあいつを……天音を、守る」

 

天禰は、まるで微笑みが光そのものになったかのように、静かに消えていった

 

 

目を覚ましたとき、俺は仰向けに寝かされていた。

薄暗い医務室の天井が見える。

体は重いが、不思議と心は軽かった。

 

(……俺は、あの時、死んでいた)

(でも今、こうしてここにいる)

 

記憶の奥で、剣を握った自分が微笑む。

 

──これが、俺の過去。そして、俺の始まり。

 

「……ああ。まだ、終わっちゃいねえ」

 

そう呟いて、俺はゆっくりと上体を起こした。

新たな朝が、始まろうとしていた。
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