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第47話 約束の光
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堕天使の相手をしていてくれた紫苑さん達の到着は、思ったよりも早かった。
だけど、それまでの数分が、私には何時間にも感じられていた。
「……一鉄さん」
担架に乗せられ、意識のない一鉄さんが運ばれていく。その横に付き添う私の手は、汗でぐっしょり濡れていた。震えていた。息がうまくできなかった。
「大丈夫だ、一鉄は……良くやった天音」
桔梗さんや絢華さん達が私に寄り添ってくれた。
でも、あの瞬間――結を送った後、一鉄さんが倒れた瞬間、私は咄嗟に身体を動かせなかった。足がすくんだ。まるで地面に縫い付けられたかのように。
目の前で人が倒れたというのに、私は何もできなかった。
今も胸の奥で、その悔しさが燻っている。
*
病室の淡い灯りが、一鉄さんの顔を照らしている。点滴とモニターが規則的な音を立てる中、私はただ黙って椅子に座っていた。
一鉄さんの手は、どこか冷たかった。
もう、誰も失いたくない。そう思っていたはずなのに――どうして、私はまた動けなかったんだろう。
(……私、何も……できなかった)
ぐるぐると、同じ言葉が頭の中を巡る。
視界が滲みそうになったその時――。
「……あまね……?」
「!」
かすかな声。私はすぐさま顔を上げた。
「一鉄さん……!」
一鉄さんの目が、ゆっくりと開いた。焦点が合うまで少し時間がかかったけれど、確かに私を見て、微かに笑った。
「……無事……だったか……」
その言葉に、胸の奥がきゅっと痛んだ。
「……倒れたのは、一鉄さんの方です……私のことなんて……あのとき、私の足は動かなかった。助けなきゃって思ったのに、体が言うことを聞いてくれなかった。まるで、私がまた……誰かを失う未来を見てしまったみたいに、怖くて、足が……」
唇が震える。俯いた私の目元に、彼の大きな手がそっと触れた。
「……自分を……卑下するな」
「……え?」
「結を……救ってくれたのは、紛れもないお前だ……お前が居たから、俺は前を……未来を向けた……今でも思うぜ、結に生きていてほしいって……でも、約束したからな結と……」
一鉄さんの声はかすれていたけれど、しっかりと私の胸に届いた。
「……お前が、どんな力を使ったとしても……恩人を悪く言うな。それがたとえ、本人であっても……だ」
恩人――。
私は、ただそれだけで報われるような気がして、胸がいっぱいになった。
「……あの、一鉄さん……」
少し間を置いてから、私は唇を噛みしめた。
これまで、誰にも言えなかった。怖かった。
だけど今は――
「私……自分の力のこと、分からないんです」
彼の眉がわずかに動く。
「暴走した時も……初任務で、仲間を守ったときも……そして今回、結さんを送ったときも……私は、負けたくない……守りたい……助けたいって思いで力を使いました」
言葉が、ぽつぽつと落ちるように続いていく。
「でも、何となく分かるんです……あの力は八咫烏としての私の能力じゃないって……私、どんな力を持っているのかも、それが何なのかも……怖くて、誰にも…… もし、私の力が……誰かを傷つけるものだったらって、思うと、怖くて。私の手からあの光が出たとき……もし、一鉄さんに何かあったらって、そう考えてしまって……」
指先が、膝の上でぎゅっと握りしめられた。
「一人で抱え込むな」
一鉄さんの言葉は、短くて、温かかった。
「お前は、一人じゃない……頼っていいんだ」
――ああ、私は。
誰かに、こう言ってほしかったのかもしれない。
*
その夜、私は初めて少しだけ――
自分の力と向き合ってみようと思えた。
だけど、それまでの数分が、私には何時間にも感じられていた。
「……一鉄さん」
担架に乗せられ、意識のない一鉄さんが運ばれていく。その横に付き添う私の手は、汗でぐっしょり濡れていた。震えていた。息がうまくできなかった。
「大丈夫だ、一鉄は……良くやった天音」
桔梗さんや絢華さん達が私に寄り添ってくれた。
でも、あの瞬間――結を送った後、一鉄さんが倒れた瞬間、私は咄嗟に身体を動かせなかった。足がすくんだ。まるで地面に縫い付けられたかのように。
目の前で人が倒れたというのに、私は何もできなかった。
今も胸の奥で、その悔しさが燻っている。
*
病室の淡い灯りが、一鉄さんの顔を照らしている。点滴とモニターが規則的な音を立てる中、私はただ黙って椅子に座っていた。
一鉄さんの手は、どこか冷たかった。
もう、誰も失いたくない。そう思っていたはずなのに――どうして、私はまた動けなかったんだろう。
(……私、何も……できなかった)
ぐるぐると、同じ言葉が頭の中を巡る。
視界が滲みそうになったその時――。
「……あまね……?」
「!」
かすかな声。私はすぐさま顔を上げた。
「一鉄さん……!」
一鉄さんの目が、ゆっくりと開いた。焦点が合うまで少し時間がかかったけれど、確かに私を見て、微かに笑った。
「……無事……だったか……」
その言葉に、胸の奥がきゅっと痛んだ。
「……倒れたのは、一鉄さんの方です……私のことなんて……あのとき、私の足は動かなかった。助けなきゃって思ったのに、体が言うことを聞いてくれなかった。まるで、私がまた……誰かを失う未来を見てしまったみたいに、怖くて、足が……」
唇が震える。俯いた私の目元に、彼の大きな手がそっと触れた。
「……自分を……卑下するな」
「……え?」
「結を……救ってくれたのは、紛れもないお前だ……お前が居たから、俺は前を……未来を向けた……今でも思うぜ、結に生きていてほしいって……でも、約束したからな結と……」
一鉄さんの声はかすれていたけれど、しっかりと私の胸に届いた。
「……お前が、どんな力を使ったとしても……恩人を悪く言うな。それがたとえ、本人であっても……だ」
恩人――。
私は、ただそれだけで報われるような気がして、胸がいっぱいになった。
「……あの、一鉄さん……」
少し間を置いてから、私は唇を噛みしめた。
これまで、誰にも言えなかった。怖かった。
だけど今は――
「私……自分の力のこと、分からないんです」
彼の眉がわずかに動く。
「暴走した時も……初任務で、仲間を守ったときも……そして今回、結さんを送ったときも……私は、負けたくない……守りたい……助けたいって思いで力を使いました」
言葉が、ぽつぽつと落ちるように続いていく。
「でも、何となく分かるんです……あの力は八咫烏としての私の能力じゃないって……私、どんな力を持っているのかも、それが何なのかも……怖くて、誰にも…… もし、私の力が……誰かを傷つけるものだったらって、思うと、怖くて。私の手からあの光が出たとき……もし、一鉄さんに何かあったらって、そう考えてしまって……」
指先が、膝の上でぎゅっと握りしめられた。
「一人で抱え込むな」
一鉄さんの言葉は、短くて、温かかった。
「お前は、一人じゃない……頼っていいんだ」
――ああ、私は。
誰かに、こう言ってほしかったのかもしれない。
*
その夜、私は初めて少しだけ――
自分の力と向き合ってみようと思えた。
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