八咫烏 〜神になるか、人として戦うか〜

秀零

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第83話 答えを抱えたまま

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朝の光が差し込むはずの窓辺を、私はただ無言で見つめていた。
眠ったのかどうかさえ曖昧で、まぶたは重く、体は鉛のようにだるい。胸の奥にはまだ、昨夜の声がこだましている。

――「知りたくはないですか? 前世に何があったのか」

先代最高神と名乗ったあの男の言葉が、頭から離れない。
知りたい。けれど、知ってしまえば今の自分が壊れてしまう気もする。
紫苑さんの前では強がったけれど、本当は怖くて仕方がない。

「……支度、しないと」

独りごちて身を起こし、戦闘服に袖を通す。鏡に映る顔は少し青白く、唇も乾いていた。それでも、仲間に心配をかけるわけにはいかない。私は八咫烏の一員なのだから。



食堂へ向かうと、すでに数人が席に着いていた。
凛子さんが私を見つけ、ふんわりと微笑む。

「おはようございます、天音ちゃん。……あら、顔色が少し悪いわね?」

「い、いえ。大丈夫です。少し寝不足なだけで」

慌てて笑顔を作るが、凛子さんの優しい視線が胸に刺さる。
絢華さんはパンを頬張りながら、じろりとこちらを見る。

「ふーん……何かあったんじゃないの? まあ、言いたくないなら詮索しないけどさ」

その軽口めいた言い方に救われるような、逆に図星を突かれたような気分になる。

千歳さんは静かにお茶を口に含んでから、私を見た。
柔らかい笑みを浮かべながらも、その瞳の奥にはどこか深いものが揺れている。

「無理はしないでくださいね。……時には、休む勇気も必要です」

私は小さく頷いた。けれど――彼女に“何かを見透かされている”気がして、心がざわめく。



「……来ていたか、天音」

低く落ち着いた声に振り向くと、紫苑さんが食堂に入ってきた。
無表情に近いその顔が、ほんの一瞬だけ私を確かめるように見つめる。
心臓が跳ね上がり、視線を逸らしてしまった。

(言えない……あのことは……。言ってしまったら、また迷惑をかける……)

自分に言い聞かせるようにスープを口に運ぶ。けれど味はほとんど分からなかった。



やがて本部に任務の報せが届く。
任務――過去へ行き堕天使討伐のための招集。
天音の胸の奥で、不安と恐怖と期待がないまぜになって渦を巻く。

(また……戦いが始まる……)

そして、昨夜の言葉が蘇る。

――「考えてみてください。知ることを望むなら、私はいつでも応じます」

答えを出せぬまま、私は任務へと歩き出す。
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