84 / 108
第83話 答えを抱えたまま
しおりを挟む
朝の光が差し込むはずの窓辺を、私はただ無言で見つめていた。
眠ったのかどうかさえ曖昧で、まぶたは重く、体は鉛のようにだるい。胸の奥にはまだ、昨夜の声がこだましている。
――「知りたくはないですか? 前世に何があったのか」
先代最高神と名乗ったあの男の言葉が、頭から離れない。
知りたい。けれど、知ってしまえば今の自分が壊れてしまう気もする。
紫苑さんの前では強がったけれど、本当は怖くて仕方がない。
「……支度、しないと」
独りごちて身を起こし、戦闘服に袖を通す。鏡に映る顔は少し青白く、唇も乾いていた。それでも、仲間に心配をかけるわけにはいかない。私は八咫烏の一員なのだから。
⸻
食堂へ向かうと、すでに数人が席に着いていた。
凛子さんが私を見つけ、ふんわりと微笑む。
「おはようございます、天音ちゃん。……あら、顔色が少し悪いわね?」
「い、いえ。大丈夫です。少し寝不足なだけで」
慌てて笑顔を作るが、凛子さんの優しい視線が胸に刺さる。
絢華さんはパンを頬張りながら、じろりとこちらを見る。
「ふーん……何かあったんじゃないの? まあ、言いたくないなら詮索しないけどさ」
その軽口めいた言い方に救われるような、逆に図星を突かれたような気分になる。
千歳さんは静かにお茶を口に含んでから、私を見た。
柔らかい笑みを浮かべながらも、その瞳の奥にはどこか深いものが揺れている。
「無理はしないでくださいね。……時には、休む勇気も必要です」
私は小さく頷いた。けれど――彼女に“何かを見透かされている”気がして、心がざわめく。
⸻
「……来ていたか、天音」
低く落ち着いた声に振り向くと、紫苑さんが食堂に入ってきた。
無表情に近いその顔が、ほんの一瞬だけ私を確かめるように見つめる。
心臓が跳ね上がり、視線を逸らしてしまった。
(言えない……あのことは……。言ってしまったら、また迷惑をかける……)
自分に言い聞かせるようにスープを口に運ぶ。けれど味はほとんど分からなかった。
⸻
やがて本部に任務の報せが届く。
任務――過去へ行き堕天使討伐のための招集。
天音の胸の奥で、不安と恐怖と期待がないまぜになって渦を巻く。
(また……戦いが始まる……)
そして、昨夜の言葉が蘇る。
――「考えてみてください。知ることを望むなら、私はいつでも応じます」
答えを出せぬまま、私は任務へと歩き出す。
眠ったのかどうかさえ曖昧で、まぶたは重く、体は鉛のようにだるい。胸の奥にはまだ、昨夜の声がこだましている。
――「知りたくはないですか? 前世に何があったのか」
先代最高神と名乗ったあの男の言葉が、頭から離れない。
知りたい。けれど、知ってしまえば今の自分が壊れてしまう気もする。
紫苑さんの前では強がったけれど、本当は怖くて仕方がない。
「……支度、しないと」
独りごちて身を起こし、戦闘服に袖を通す。鏡に映る顔は少し青白く、唇も乾いていた。それでも、仲間に心配をかけるわけにはいかない。私は八咫烏の一員なのだから。
⸻
食堂へ向かうと、すでに数人が席に着いていた。
凛子さんが私を見つけ、ふんわりと微笑む。
「おはようございます、天音ちゃん。……あら、顔色が少し悪いわね?」
「い、いえ。大丈夫です。少し寝不足なだけで」
慌てて笑顔を作るが、凛子さんの優しい視線が胸に刺さる。
絢華さんはパンを頬張りながら、じろりとこちらを見る。
「ふーん……何かあったんじゃないの? まあ、言いたくないなら詮索しないけどさ」
その軽口めいた言い方に救われるような、逆に図星を突かれたような気分になる。
千歳さんは静かにお茶を口に含んでから、私を見た。
柔らかい笑みを浮かべながらも、その瞳の奥にはどこか深いものが揺れている。
「無理はしないでくださいね。……時には、休む勇気も必要です」
私は小さく頷いた。けれど――彼女に“何かを見透かされている”気がして、心がざわめく。
⸻
「……来ていたか、天音」
低く落ち着いた声に振り向くと、紫苑さんが食堂に入ってきた。
無表情に近いその顔が、ほんの一瞬だけ私を確かめるように見つめる。
心臓が跳ね上がり、視線を逸らしてしまった。
(言えない……あのことは……。言ってしまったら、また迷惑をかける……)
自分に言い聞かせるようにスープを口に運ぶ。けれど味はほとんど分からなかった。
⸻
やがて本部に任務の報せが届く。
任務――過去へ行き堕天使討伐のための招集。
天音の胸の奥で、不安と恐怖と期待がないまぜになって渦を巻く。
(また……戦いが始まる……)
そして、昨夜の言葉が蘇る。
――「考えてみてください。知ることを望むなら、私はいつでも応じます」
答えを出せぬまま、私は任務へと歩き出す。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる