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第19話 山頂にて
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魔狼を倒した私達は足早にその場を去った。
その後は運良く魔物に出会うことなく、待ち合わせの山頂には昼過ぎには着くことが出来た。
「まだ、来てない……みたいね」
私は辺りを見回してみるが、マシラの姿はない。
「そうみたいですね。座って待ちましょう」
ヴィーは、「ふう」と息を吐くと、大杉の幹にもたれ掛かるように座った。
私もそれに習うように横に座る。
青い空に雲が流れる。そよぐ風に杉の葉が揺れ木漏れ日が踊る。
こんな状況じゃなきゃ、最高のハイキング日和なのに……
そんなことを考えられる自分が少し可笑しい。
「どうしました?」
その様子にヴィーが私の顔を覗き込んだ。
「うぅん。何でもないの。ただ、世界には、こんな景色があるんだなって思っただけ……」
見渡せば眼下は一面緑の海。
「ヴィーが爆発させた山は何処かしら?」
ヴィーをからかうように手を日除けにして、遠くを探ってみる。
「エルぅ、止めてくださいよ。あれは、事故なんです」
弱り顔のヴィーについつい笑いが溢れてしまう。
それに合わせるようにヴィーも笑ってくれた。
あの家にいたころには、考えられないような穏やかな時間。
「そうだ、ヴィーに聞いてみたいことがあるの?」
「何ですか?」
「ヴィーは、どうでした?初めての戦闘の時……私、さっきは取り乱してしまって、少し恥ずかしいんです」
「アッハッハッ!そんなことですか?心配しなくてもエルはうまく戦えてましたよ。初戦で魔狼を二匹も仕留めたんです。勲章ものですよ」
「じゃあ、ヴィーの時も?」
「いえいえ。私は酷かったですよ。あれは私が騎士団に入団したての頃ですね。ゴブリン退治の任務についたんです」
「へえ。それで?」
初めて聞くエルの初任務の話。こんな話さえ、あの家ではすることが出来なかった。
「仲間五人で向かったんですが、そのゴブリンの巣というのが洞穴の中にあって……少し不気味でして……」
何やら言い辛そうに辺りをキョロキョロとして誰もいないことを確かめると、私の耳元に顔を寄せて小声でコショコショと伝えてくれた。
「――!!ええ!漏らしちゃッ……!」
あまりに驚いて大声を出す私の口をヴィーが堪らず両手で塞いだ。
ヴィーの勢い押されて私は地面に転がってしまう。
私の上に馬乗りになる形でヴィーが覆い被さった。
「もう!せっかく小声で話したのに!」
「いいじゃない。他には誰もいないわ」
「そ、それもそうですけど……」
ヴィーは立ち上がると私に手を差し出してくれる。
私がその手を取ると、優しく起こしてくれた。
「懐かしいですね。こういうこと……」
ヴィーは遠い思い出を探るように、遠くそびえる山々を眺めた。
私も並んで同じ風景を見る。
かつて、お母様が生きていたころ、ヴィーは良く私の家に来てくれていた。
代々名のある騎士を多く輩出するヴィーの家は、公爵であるお父様と懇意にしていた。
そんな中、お母様が年の近いヴィーを友人にと良く家に招いてくれたのだ。
でも、お母様が死にヴィーが騎士の道へと進むと私は家で孤立することとなった。
数年後、私の専属の騎士としてヴィーが就いてくれると知った日はとても嬉しかったが、数年ぶりに会ったヴィーは、昔の仲の良かったヴィーではなく、騎士団所属のヴァレリーとなっていたのだった。
それがまた、こうやって笑い合える日が来た。
あの日盗賊に襲われ、絶望の底に落ちたと思ったのに……
皮肉なことに私は友達を再び取り戻すことが出来た。
暖かな日差しのもと、これまでの時間を取り戻すようにヴィーと色々な話をした。
瞬く間に時間は過ぎ、日が西に傾く。
「まだ、来ないね」
「ええ、来ませんね」
私達が朝いた山小屋のある方向を二人で眺めた。
「ねぇ、ヴィー?マシラは本当に大丈夫かしら?」
「まぁ、首輪が消えてませんから生きてるのは確かです」
私たちを縛る隷属の首輪がマシラの生存を知らせてくれる。しかし、彼が五体無事でいるかまでは分からない。
もしかしたら、動けないほどの大けがを負って森の中で倒れているかも……
もしかしたら、手足を縛られ無法都市まで連れていかれたかも……
次々と不穏な考えが頭の中に浮かんでは消えていく。
私はどんな顔をしていたのか分からないが、ヴィーが優しく「大丈夫です」と微笑んでくれたのだから、よっぽど酷い顔をしていたんだと思う。
日が西の山に掛かり、辺りは真っ赤に染まる。
その赤が私に血を流したマシラを連想させて居ても立ってもいられなくなった。
「ヴィー、一度森の中に戻りましょう」
「それはダメです。マシラが敵からどう逃げたのか分からない状況で森に入っても探しようがありません。それに、じき夜が来ます。悔しいですが夜の森は、あの男がいなければ私でも迷ってしまいます」
「そうだぜ。それにお前らに助けてもらうほどマシラさんは落ちぶれちゃいねえ」
「でも……」
「あの男とは付き合いは短いですが、あの手の男は殺したって死にません」
「おうおう、騎士様に褒めていただき光栄の至りってもんだ」
「「ん?」」
さっきから会話に誰か混ざってる気がする……
私たちは声の主がいる方へ振り返ってみる。
その後は運良く魔物に出会うことなく、待ち合わせの山頂には昼過ぎには着くことが出来た。
「まだ、来てない……みたいね」
私は辺りを見回してみるが、マシラの姿はない。
「そうみたいですね。座って待ちましょう」
ヴィーは、「ふう」と息を吐くと、大杉の幹にもたれ掛かるように座った。
私もそれに習うように横に座る。
青い空に雲が流れる。そよぐ風に杉の葉が揺れ木漏れ日が踊る。
こんな状況じゃなきゃ、最高のハイキング日和なのに……
そんなことを考えられる自分が少し可笑しい。
「どうしました?」
その様子にヴィーが私の顔を覗き込んだ。
「うぅん。何でもないの。ただ、世界には、こんな景色があるんだなって思っただけ……」
見渡せば眼下は一面緑の海。
「ヴィーが爆発させた山は何処かしら?」
ヴィーをからかうように手を日除けにして、遠くを探ってみる。
「エルぅ、止めてくださいよ。あれは、事故なんです」
弱り顔のヴィーについつい笑いが溢れてしまう。
それに合わせるようにヴィーも笑ってくれた。
あの家にいたころには、考えられないような穏やかな時間。
「そうだ、ヴィーに聞いてみたいことがあるの?」
「何ですか?」
「ヴィーは、どうでした?初めての戦闘の時……私、さっきは取り乱してしまって、少し恥ずかしいんです」
「アッハッハッ!そんなことですか?心配しなくてもエルはうまく戦えてましたよ。初戦で魔狼を二匹も仕留めたんです。勲章ものですよ」
「じゃあ、ヴィーの時も?」
「いえいえ。私は酷かったですよ。あれは私が騎士団に入団したての頃ですね。ゴブリン退治の任務についたんです」
「へえ。それで?」
初めて聞くエルの初任務の話。こんな話さえ、あの家ではすることが出来なかった。
「仲間五人で向かったんですが、そのゴブリンの巣というのが洞穴の中にあって……少し不気味でして……」
何やら言い辛そうに辺りをキョロキョロとして誰もいないことを確かめると、私の耳元に顔を寄せて小声でコショコショと伝えてくれた。
「――!!ええ!漏らしちゃッ……!」
あまりに驚いて大声を出す私の口をヴィーが堪らず両手で塞いだ。
ヴィーの勢い押されて私は地面に転がってしまう。
私の上に馬乗りになる形でヴィーが覆い被さった。
「もう!せっかく小声で話したのに!」
「いいじゃない。他には誰もいないわ」
「そ、それもそうですけど……」
ヴィーは立ち上がると私に手を差し出してくれる。
私がその手を取ると、優しく起こしてくれた。
「懐かしいですね。こういうこと……」
ヴィーは遠い思い出を探るように、遠くそびえる山々を眺めた。
私も並んで同じ風景を見る。
かつて、お母様が生きていたころ、ヴィーは良く私の家に来てくれていた。
代々名のある騎士を多く輩出するヴィーの家は、公爵であるお父様と懇意にしていた。
そんな中、お母様が年の近いヴィーを友人にと良く家に招いてくれたのだ。
でも、お母様が死にヴィーが騎士の道へと進むと私は家で孤立することとなった。
数年後、私の専属の騎士としてヴィーが就いてくれると知った日はとても嬉しかったが、数年ぶりに会ったヴィーは、昔の仲の良かったヴィーではなく、騎士団所属のヴァレリーとなっていたのだった。
それがまた、こうやって笑い合える日が来た。
あの日盗賊に襲われ、絶望の底に落ちたと思ったのに……
皮肉なことに私は友達を再び取り戻すことが出来た。
暖かな日差しのもと、これまでの時間を取り戻すようにヴィーと色々な話をした。
瞬く間に時間は過ぎ、日が西に傾く。
「まだ、来ないね」
「ええ、来ませんね」
私達が朝いた山小屋のある方向を二人で眺めた。
「ねぇ、ヴィー?マシラは本当に大丈夫かしら?」
「まぁ、首輪が消えてませんから生きてるのは確かです」
私たちを縛る隷属の首輪がマシラの生存を知らせてくれる。しかし、彼が五体無事でいるかまでは分からない。
もしかしたら、動けないほどの大けがを負って森の中で倒れているかも……
もしかしたら、手足を縛られ無法都市まで連れていかれたかも……
次々と不穏な考えが頭の中に浮かんでは消えていく。
私はどんな顔をしていたのか分からないが、ヴィーが優しく「大丈夫です」と微笑んでくれたのだから、よっぽど酷い顔をしていたんだと思う。
日が西の山に掛かり、辺りは真っ赤に染まる。
その赤が私に血を流したマシラを連想させて居ても立ってもいられなくなった。
「ヴィー、一度森の中に戻りましょう」
「それはダメです。マシラが敵からどう逃げたのか分からない状況で森に入っても探しようがありません。それに、じき夜が来ます。悔しいですが夜の森は、あの男がいなければ私でも迷ってしまいます」
「そうだぜ。それにお前らに助けてもらうほどマシラさんは落ちぶれちゃいねえ」
「でも……」
「あの男とは付き合いは短いですが、あの手の男は殺したって死にません」
「おうおう、騎士様に褒めていただき光栄の至りってもんだ」
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さっきから会話に誰か混ざってる気がする……
私たちは声の主がいる方へ振り返ってみる。
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