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第23話 追手
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「あああああああああ!!!!!!!」
崩壊した無法都市にルシラの悲痛な叫びが響き渡った。
無法都市のボスであるバンチは、その巨体から崩落する無法都市から、逃げ出すことができず帰らぬ人となったのだ。
母であるルシラは服が汚れることも構わず地面に跪き、横たわるバンチの死体を抱え泣き叫んでいた。
母の悲痛な叫びは長く続き、最初は幾人かいた取り巻きたちも一人また一人と、無情にもその場を後にした。
残ったのはたったの五人。
しかし、彼らは伝説的な盗賊であった先代のボスに忠誠を誓った者たち……
殺生のラセツ。
偸盗のゴンズイ。
邪淫のリンプ。
妄語のランチュウ。
飲酒のバリン。
彼らこそ世に名を知らしめた『五悪道』である。
その中の一人。ひと際、若く露出の多い服を着た、艶かしい美しさを持つ女性が涙にくれるルシラに声をかけた。
「お母さん。そろそろ……」
そう言ってルシラの肩に優しく手を置く。
彼女こそ、ルシラから『邪淫』の称号を継いだ正真正銘、先代のボスとルシラの実子。そして、バンチの妹である。
しかし、この事実を知るのはこの場にいる者のみであった。
彼女は、常に正体を隠し、無法都市の悪鬼どもを監視していたのだった。
「お前が……お前が、あの山猿どもなら簡単に操ることができるなんて言うから……」
「ごめんなさい、お母さん。あいつがここまでするなんて思わなくて……本当にごめんなさい」
リンプは一時、名を「バーニー」と偽装し山猿盗賊団に席を置いていた事があった。
彼女は自身の色香と巧みな話術によりマシラたちを操り金貨輸送馬車襲撃を行わせた張本人である。
その襲撃の際、リンプは自分の死を偽装し山猿盗賊団とは距離を置いていた。
そして今回、ルシラとバンチにマシラ達山猿盗賊団が金貨強奪を成し遂げたと密告したのは誰を隠そうリンプであった。
母にマシラたちのことを教えなければ、無法都市はこんな惨状にはならなかったと彼女は胸に罪悪感を抱いていた。
「いいのよ。……悪いのは全部あの山猿。マシラの糞餓鬼よ」
そうつぶやくとルシラは立ち上がる。
その背後には、ゆらゆらとマシラへの怨嗟が陽炎のように立ち込めて見えた。
その気迫に百戦錬磨である五悪道も冷や汗を流す。
ルシラはそこに居並ぶ者たちの顔をゆっくりと確かめるように視線を送ると、かつて黒蛇のルシラとしての顔を取り戻す。
「お前たち、よくお聞き!!これからお前たちは、あの不細工面の山猿を私の前に連れてくるんだよ!!いいかい、殺すんじゃないよ!!あのクソ猿にはこの世のありとあらゆる苦痛を与えてから、私がこの手で止めを刺すんだからね!わかったら、お前達の手下を使って何がなんでもマシラを捕らえて来なっ!!!」
ルシラの顔が邪悪に歪む。その気迫に五悪道は即座に跪いて答えた。
「御意!」
無法都市であった、元ミスリル鉱山跡地から破落戸達が、放たれた矢のように飛び出す。
彼等は探す。
バンチの仇を……
無法者の楽園を破壊せし男を……
◇
公爵がエレオノーラの失踪の知らせを聞いたのは、マシラがエレオノーラを攫ってから三日後のことであった。
娘の凶報を聞いて普通の父親ならば娘の安否を心配するのが常であるが、公爵である彼が真っ先に思ったことは、豪商であるエレオノーラの婚約者ゴルバスが支度金として渡した五千万メルクのことであった。
もし、娘が無事に彼の手に渡らなければ、ゴルバスは支度金の返済を求めるだろう……
公爵は、すでに五千万メルクの大半は使い果たしており、返済は不可能であった。
金の使い道は国王の娘アリアータに我が息子カイルを結婚させんがために、王の側近連中への賄賂として渡していた。
「まずい……このままではまずいことになるぞ……」
公爵家は即座に捜索隊を騎士団を中心に編成し、エレオノーラ捜索に当たらせることとした。
捜索隊の指揮をとるは、若くして天武の才で騎士団副団長にまで上り詰めたサイ・クロフォード。
その姿はヴァレリーと同じ紋章が施された鎧と、綺麗に切りそろえられた金色の髪。新緑を想起させるようなそのグリーンの瞳を持ち、公爵領だけでなく、王都でさえも話題となる美男子である。
そのサイの心中は穏やかではない。
もちろんエレオノーラの身を案じているのは確かであるが、それ以上に彼の心の中を支配するのはヴァレリーの姿であった。
ヴァレリーと同時期に騎士団に入団し、つらい訓練も二人で励ましあい切磋琢磨して今の地位と力を手にしてきた。
そんな中、いつしか彼はヴァレリーに恋心をいだいていたのだ。
ヴァレリーの方も憎からず彼を思っていた節があり、騎士団内では、彼らがいつ付き合うのか賭けさえ行われていたのだ。
「ヴァレリー……君を必ず救って見せる!」
下卑た盗賊に捕まった女たちの末路など悲惨なものでしかないことは分かっている。
殴り、犯され、およそ人間の尊厳などないかのような扱いを受ける。騎士団にいてそんな事例は山のように見てきた。
それでも、彼はそんな現実を振り払うかのようにヴァレリーの姿を追う。
彼は早馬を飛ばし、エレオノーラとヴァレリーが襲われた現場まで駆けつけた。
そこで目の当たりにしたのは、腐り始めた騎士と盗賊たちの死体だった。
サイは自分の目でヴァレリーがいないことを確認して、安堵の息を漏らした。
先に駆けつけていた地元の警備兵がサイの元へと駆け寄くる。
「ご苦労様です」
「ああ、私は捜索隊の指揮を取るサイだ。さっそくで悪いが、賊に心当たりは?」
「死んでいる盗賊から見て、おそらくですが、この辺りを根城にする山猿盗賊団なる者たちのようです。しかし、死体の中にはボスであるマシラの姿は見られません」
「では、そいつが……」
サイは、マシラを想像してギリリと奥歯を噛み締める。
サイから放たれた殺気に警備兵の男が小さく悲鳴を漏らした。
「すまない……」
サイは冷静さを取り戻すように深呼吸をして、辺りを見回す。
馬車の周りに騎士の死体が転がっている。
おそらく馬車の中にいるエレオノーラ様を守るための陣形だろう……
ヴァレリーは、きっとエレオノーラ様と共に馬車の中にいたに違いない。
不可思議なのは、盗賊達だ。
誰が盗賊を殺した……?ヴァレリーか?
いや、彼女とは思えない。
盗賊の一人は魔法で焼け死んでいる。それに、もう一人は剣ごと体を切られている。
こんなことヴァレリーにできる芸当ではない。
「仲間割れか……それとも誰かが、助けに入った……?」
一人思案しているサイに、警備兵が声をかける。
「サイ殿!賊はここから森に入ったようです」
警備兵が指し示す箇所の藪が少し割れるように荒れていた。
サイは、なんの躊躇《ちゅうちょ》もなく、そこへ飛び込む。
主君の命によりエレオノーラを救うため……
愛しきヴァレリーに会うために……
崩壊した無法都市にルシラの悲痛な叫びが響き渡った。
無法都市のボスであるバンチは、その巨体から崩落する無法都市から、逃げ出すことができず帰らぬ人となったのだ。
母であるルシラは服が汚れることも構わず地面に跪き、横たわるバンチの死体を抱え泣き叫んでいた。
母の悲痛な叫びは長く続き、最初は幾人かいた取り巻きたちも一人また一人と、無情にもその場を後にした。
残ったのはたったの五人。
しかし、彼らは伝説的な盗賊であった先代のボスに忠誠を誓った者たち……
殺生のラセツ。
偸盗のゴンズイ。
邪淫のリンプ。
妄語のランチュウ。
飲酒のバリン。
彼らこそ世に名を知らしめた『五悪道』である。
その中の一人。ひと際、若く露出の多い服を着た、艶かしい美しさを持つ女性が涙にくれるルシラに声をかけた。
「お母さん。そろそろ……」
そう言ってルシラの肩に優しく手を置く。
彼女こそ、ルシラから『邪淫』の称号を継いだ正真正銘、先代のボスとルシラの実子。そして、バンチの妹である。
しかし、この事実を知るのはこの場にいる者のみであった。
彼女は、常に正体を隠し、無法都市の悪鬼どもを監視していたのだった。
「お前が……お前が、あの山猿どもなら簡単に操ることができるなんて言うから……」
「ごめんなさい、お母さん。あいつがここまでするなんて思わなくて……本当にごめんなさい」
リンプは一時、名を「バーニー」と偽装し山猿盗賊団に席を置いていた事があった。
彼女は自身の色香と巧みな話術によりマシラたちを操り金貨輸送馬車襲撃を行わせた張本人である。
その襲撃の際、リンプは自分の死を偽装し山猿盗賊団とは距離を置いていた。
そして今回、ルシラとバンチにマシラ達山猿盗賊団が金貨強奪を成し遂げたと密告したのは誰を隠そうリンプであった。
母にマシラたちのことを教えなければ、無法都市はこんな惨状にはならなかったと彼女は胸に罪悪感を抱いていた。
「いいのよ。……悪いのは全部あの山猿。マシラの糞餓鬼よ」
そうつぶやくとルシラは立ち上がる。
その背後には、ゆらゆらとマシラへの怨嗟が陽炎のように立ち込めて見えた。
その気迫に百戦錬磨である五悪道も冷や汗を流す。
ルシラはそこに居並ぶ者たちの顔をゆっくりと確かめるように視線を送ると、かつて黒蛇のルシラとしての顔を取り戻す。
「お前たち、よくお聞き!!これからお前たちは、あの不細工面の山猿を私の前に連れてくるんだよ!!いいかい、殺すんじゃないよ!!あのクソ猿にはこの世のありとあらゆる苦痛を与えてから、私がこの手で止めを刺すんだからね!わかったら、お前達の手下を使って何がなんでもマシラを捕らえて来なっ!!!」
ルシラの顔が邪悪に歪む。その気迫に五悪道は即座に跪いて答えた。
「御意!」
無法都市であった、元ミスリル鉱山跡地から破落戸達が、放たれた矢のように飛び出す。
彼等は探す。
バンチの仇を……
無法者の楽園を破壊せし男を……
◇
公爵がエレオノーラの失踪の知らせを聞いたのは、マシラがエレオノーラを攫ってから三日後のことであった。
娘の凶報を聞いて普通の父親ならば娘の安否を心配するのが常であるが、公爵である彼が真っ先に思ったことは、豪商であるエレオノーラの婚約者ゴルバスが支度金として渡した五千万メルクのことであった。
もし、娘が無事に彼の手に渡らなければ、ゴルバスは支度金の返済を求めるだろう……
公爵は、すでに五千万メルクの大半は使い果たしており、返済は不可能であった。
金の使い道は国王の娘アリアータに我が息子カイルを結婚させんがために、王の側近連中への賄賂として渡していた。
「まずい……このままではまずいことになるぞ……」
公爵家は即座に捜索隊を騎士団を中心に編成し、エレオノーラ捜索に当たらせることとした。
捜索隊の指揮をとるは、若くして天武の才で騎士団副団長にまで上り詰めたサイ・クロフォード。
その姿はヴァレリーと同じ紋章が施された鎧と、綺麗に切りそろえられた金色の髪。新緑を想起させるようなそのグリーンの瞳を持ち、公爵領だけでなく、王都でさえも話題となる美男子である。
そのサイの心中は穏やかではない。
もちろんエレオノーラの身を案じているのは確かであるが、それ以上に彼の心の中を支配するのはヴァレリーの姿であった。
ヴァレリーと同時期に騎士団に入団し、つらい訓練も二人で励ましあい切磋琢磨して今の地位と力を手にしてきた。
そんな中、いつしか彼はヴァレリーに恋心をいだいていたのだ。
ヴァレリーの方も憎からず彼を思っていた節があり、騎士団内では、彼らがいつ付き合うのか賭けさえ行われていたのだ。
「ヴァレリー……君を必ず救って見せる!」
下卑た盗賊に捕まった女たちの末路など悲惨なものでしかないことは分かっている。
殴り、犯され、およそ人間の尊厳などないかのような扱いを受ける。騎士団にいてそんな事例は山のように見てきた。
それでも、彼はそんな現実を振り払うかのようにヴァレリーの姿を追う。
彼は早馬を飛ばし、エレオノーラとヴァレリーが襲われた現場まで駆けつけた。
そこで目の当たりにしたのは、腐り始めた騎士と盗賊たちの死体だった。
サイは自分の目でヴァレリーがいないことを確認して、安堵の息を漏らした。
先に駆けつけていた地元の警備兵がサイの元へと駆け寄くる。
「ご苦労様です」
「ああ、私は捜索隊の指揮を取るサイだ。さっそくで悪いが、賊に心当たりは?」
「死んでいる盗賊から見て、おそらくですが、この辺りを根城にする山猿盗賊団なる者たちのようです。しかし、死体の中にはボスであるマシラの姿は見られません」
「では、そいつが……」
サイは、マシラを想像してギリリと奥歯を噛み締める。
サイから放たれた殺気に警備兵の男が小さく悲鳴を漏らした。
「すまない……」
サイは冷静さを取り戻すように深呼吸をして、辺りを見回す。
馬車の周りに騎士の死体が転がっている。
おそらく馬車の中にいるエレオノーラ様を守るための陣形だろう……
ヴァレリーは、きっとエレオノーラ様と共に馬車の中にいたに違いない。
不可思議なのは、盗賊達だ。
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いや、彼女とは思えない。
盗賊の一人は魔法で焼け死んでいる。それに、もう一人は剣ごと体を切られている。
こんなことヴァレリーにできる芸当ではない。
「仲間割れか……それとも誰かが、助けに入った……?」
一人思案しているサイに、警備兵が声をかける。
「サイ殿!賊はここから森に入ったようです」
警備兵が指し示す箇所の藪が少し割れるように荒れていた。
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