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第39話 包囲網
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「本当にごめんなさい」
露店市から宿に戻ると、すぐさまエルの奴が俺に頭を下げてきた。
「ヴィーから聞いたの。広場に無法都市の追手の人がいたって。それでカモフラージュのために腕を組んでただけだって」
俺はエルの後ろに控えるヴィーを見る。
ヴィーは俺に余計なことはするなと、釘を刺すためか鋭い眼光で俺を睨め付けていた。
「良いってことよ。ヴィーのお乳を腕に感じられて幸せだったからな……」と口から勝手に言葉が飛び出しそうになったが、これを言ったら恐らくヴィーに殴られ、エルには泣かれるかも知れんと理性が働く。
「良いってことよ。エルの焼きもち焼くかわいい顔が見れたからなぁ……ケケケケ」
どうにか、俺の冬場の凍った水たまり並みに滑りの良い俺の口がギリギリ怒られることのないラインの皮肉を口にすることに成功した。
俺のカワイイの発言を切り取り、エルは一瞬で頬を赤らめる。
「わ、私、焼きもちなんてやいてないわ!」
まあ、なんて愛いヤツよ。
俺はエルの横を通り過ぎざまにグリグリと頭を撫でてやる。
その光景を見るヴィーの顔は何とも複雑そうだった。
まあ、ヴィーの気持ちも分らんもはない。
エルは、どうやら俺に対し、好意めいた何かを抱いている節があるからな。
それが友に対してなのか異性に対してなのか……。どちらにしても盗賊であり誘拐犯である俺に抱いて良い感情ではないのは確かだ。
それに俺たちは、魔界領に着くまでの関係。そこまで行き着けば、お互い別々の道を行くことになるのだ。
愛着が湧けば別れも辛くなるってもんだ。
流石はお嬢様付きの騎士。
そのあたりのエルの心情を慮って心配しているのだろう。
しかし、そんなヴィーの心配とは裏腹にエルは「……もう」と、頬を膨らませ、満更ではない様子を見せた。
俺はヴィーを安心させるように彼女の肩を数度ぽんぽんと軽くたたく。
こんな好意など、まやかしだと俺だって分かってる。それに漬け込むような真似は、盗賊団の頭として、そして未来の領主としてすることはねえ。
ま、突然肩を叩かれたヴィーにしちゃ、なんのこっちゃ意味が分からんと呆けているが、そんなことは無視して書き物机に備えられた椅子を二人の方に向けて座る。
俺の雰囲気から何かを悟ったのか二人とも真面目な顔をして俺と向き合った。
「さ、仕事の話をするぞ……」
俺は神剣すり替えの作戦を二人に伝えることにした――
◇
アンスルの町ではここ数日盗難事件が多発していた。
それは大商会の支店から町に根付いた小さな商店、さらには旅の露店商にまで被害は多岐に及んだ。
その被害数は優に十を超えていた。
町長は被害をこれ以上増やさないよう警備兵、さらには冒険者ギルドに犯人確保の要請を出すまでに至っていた。
町には普段よりも多く兵が配置され物々しい警備がしかれていた。
そんな中アンスル有数の大店の商店から姿を表した男。
特に回りを警戒する様子はなく、通りを悠々と歩く。
彼は異様に長い手足を持ち、浅黒い肌と赤い目が特徴的だ。その腰には腰大容量のマジックバッグがぶら下げている。
彼こそが偸盗のゴンズイ。ここ連日に渡る窃盗の犯人である。
彼が出てきた商店から助けを呼ぶ声が響いた。
「泥棒だ!!誰か来てくれ!!店の、店の金が盗まれてる!!!」
その声にゴンズイは振り返ることなく愉快に笑う。
白昼堂々の盗みに、警備兵がすぐさま駆けつけ、その周りには野次馬が集る。
ゴンズイはすれ違う人のポケットから、さらに財布を抜き取り、何食わぬ顔で道を行く。
まさに神業。誰の目に留まることなく彼は盗みを完遂する。
これが大盗賊ウォンカにさえ一目置かれた盗みの手である。
愉快に笑うゴンズイの元に彼の手下の一人が駆け寄ってくる。
「ゴンズイの兄貴。カーラマハルからの報告です」
ゴンズイは手下に一瞥だけくれると、そのまま歩道に備え付けられたベンチに座る。
「言ってみろ」
「はい。ダコタの森にはラセツの旦那が。東側国境付近はリンプ、北側はランチュウが探しています」
「あの酒飲みの爺さんは?」
「さあ……バリン様はいつも酔っぱらってて何言ってるかわからんですから」
ゴンズイはマジックバッグから、タバコを取り出し火をつける。
「ったく、面倒ごとに巻き込まれたもんだ」
ゴンズイ含め彼らのほとんどが忠誠を誓ったのは大盗賊ウォンカであって、その息子バンチや妻のルシラではない。
しかし、生前彼らに何かあったら手助けをしてほしいとウォンカから頼まれていた。
そして、ルシラはかつて五悪道として自分たちと肩を並べウォンカを支えた一柱でもある。
悪道とは言え彼らに義理を立て、復讐に手を貸しているのだった。
「そうだ、兄貴。カーラマハルの奴隷商の婆さんからの情報です。どうやらマシラの奴、女の奴隷を二人連れているらしいんです」
「女の奴隷だとぉ?」
「はい。それもなかなか上玉な女らしく。一人は金髪で十代後半の女で、奴隷になるには不自然なほど育ちが良さそうだったと。
そして、もう一人は赤毛の女で年は二十前半、背は高く、かなり鍛えているように見えたと言ってました」
それを聞いてゴンズイの脳裏に、とある光景が蘇る。
それは先日マシラ捜索の傍ら暇つぶしで行った広場での出来事だった。
男が女二人と揉めていたのだ。
その時は、よくある浮気男の修羅場かと思い、気にも留めていなかったが、男が連れていた女はさきほどの報告通りの容姿だった。
男の顔は……思い出そうとするが、今一つ思い出せない。
マシラの顔の特徴は、黒髪のボサボサ髪に伸ばしっぱなしの髭だという話だ。要するに髪を切り髭を剃ってしまえば、誰が誰だかわからない。
ゴンズイの勘があの男が怪しいと告げる。
「どうしますか、兄貴?この町出て他の町に行きますか?」
「いや、気になることがある。手下どもを集めろ。俺たちは、その奴隷の女どもを追う」
ゴンズイは不敵に笑った。
露店市から宿に戻ると、すぐさまエルの奴が俺に頭を下げてきた。
「ヴィーから聞いたの。広場に無法都市の追手の人がいたって。それでカモフラージュのために腕を組んでただけだって」
俺はエルの後ろに控えるヴィーを見る。
ヴィーは俺に余計なことはするなと、釘を刺すためか鋭い眼光で俺を睨め付けていた。
「良いってことよ。ヴィーのお乳を腕に感じられて幸せだったからな……」と口から勝手に言葉が飛び出しそうになったが、これを言ったら恐らくヴィーに殴られ、エルには泣かれるかも知れんと理性が働く。
「良いってことよ。エルの焼きもち焼くかわいい顔が見れたからなぁ……ケケケケ」
どうにか、俺の冬場の凍った水たまり並みに滑りの良い俺の口がギリギリ怒られることのないラインの皮肉を口にすることに成功した。
俺のカワイイの発言を切り取り、エルは一瞬で頬を赤らめる。
「わ、私、焼きもちなんてやいてないわ!」
まあ、なんて愛いヤツよ。
俺はエルの横を通り過ぎざまにグリグリと頭を撫でてやる。
その光景を見るヴィーの顔は何とも複雑そうだった。
まあ、ヴィーの気持ちも分らんもはない。
エルは、どうやら俺に対し、好意めいた何かを抱いている節があるからな。
それが友に対してなのか異性に対してなのか……。どちらにしても盗賊であり誘拐犯である俺に抱いて良い感情ではないのは確かだ。
それに俺たちは、魔界領に着くまでの関係。そこまで行き着けば、お互い別々の道を行くことになるのだ。
愛着が湧けば別れも辛くなるってもんだ。
流石はお嬢様付きの騎士。
そのあたりのエルの心情を慮って心配しているのだろう。
しかし、そんなヴィーの心配とは裏腹にエルは「……もう」と、頬を膨らませ、満更ではない様子を見せた。
俺はヴィーを安心させるように彼女の肩を数度ぽんぽんと軽くたたく。
こんな好意など、まやかしだと俺だって分かってる。それに漬け込むような真似は、盗賊団の頭として、そして未来の領主としてすることはねえ。
ま、突然肩を叩かれたヴィーにしちゃ、なんのこっちゃ意味が分からんと呆けているが、そんなことは無視して書き物机に備えられた椅子を二人の方に向けて座る。
俺の雰囲気から何かを悟ったのか二人とも真面目な顔をして俺と向き合った。
「さ、仕事の話をするぞ……」
俺は神剣すり替えの作戦を二人に伝えることにした――
◇
アンスルの町ではここ数日盗難事件が多発していた。
それは大商会の支店から町に根付いた小さな商店、さらには旅の露店商にまで被害は多岐に及んだ。
その被害数は優に十を超えていた。
町長は被害をこれ以上増やさないよう警備兵、さらには冒険者ギルドに犯人確保の要請を出すまでに至っていた。
町には普段よりも多く兵が配置され物々しい警備がしかれていた。
そんな中アンスル有数の大店の商店から姿を表した男。
特に回りを警戒する様子はなく、通りを悠々と歩く。
彼は異様に長い手足を持ち、浅黒い肌と赤い目が特徴的だ。その腰には腰大容量のマジックバッグがぶら下げている。
彼こそが偸盗のゴンズイ。ここ連日に渡る窃盗の犯人である。
彼が出てきた商店から助けを呼ぶ声が響いた。
「泥棒だ!!誰か来てくれ!!店の、店の金が盗まれてる!!!」
その声にゴンズイは振り返ることなく愉快に笑う。
白昼堂々の盗みに、警備兵がすぐさま駆けつけ、その周りには野次馬が集る。
ゴンズイはすれ違う人のポケットから、さらに財布を抜き取り、何食わぬ顔で道を行く。
まさに神業。誰の目に留まることなく彼は盗みを完遂する。
これが大盗賊ウォンカにさえ一目置かれた盗みの手である。
愉快に笑うゴンズイの元に彼の手下の一人が駆け寄ってくる。
「ゴンズイの兄貴。カーラマハルからの報告です」
ゴンズイは手下に一瞥だけくれると、そのまま歩道に備え付けられたベンチに座る。
「言ってみろ」
「はい。ダコタの森にはラセツの旦那が。東側国境付近はリンプ、北側はランチュウが探しています」
「あの酒飲みの爺さんは?」
「さあ……バリン様はいつも酔っぱらってて何言ってるかわからんですから」
ゴンズイはマジックバッグから、タバコを取り出し火をつける。
「ったく、面倒ごとに巻き込まれたもんだ」
ゴンズイ含め彼らのほとんどが忠誠を誓ったのは大盗賊ウォンカであって、その息子バンチや妻のルシラではない。
しかし、生前彼らに何かあったら手助けをしてほしいとウォンカから頼まれていた。
そして、ルシラはかつて五悪道として自分たちと肩を並べウォンカを支えた一柱でもある。
悪道とは言え彼らに義理を立て、復讐に手を貸しているのだった。
「そうだ、兄貴。カーラマハルの奴隷商の婆さんからの情報です。どうやらマシラの奴、女の奴隷を二人連れているらしいんです」
「女の奴隷だとぉ?」
「はい。それもなかなか上玉な女らしく。一人は金髪で十代後半の女で、奴隷になるには不自然なほど育ちが良さそうだったと。
そして、もう一人は赤毛の女で年は二十前半、背は高く、かなり鍛えているように見えたと言ってました」
それを聞いてゴンズイの脳裏に、とある光景が蘇る。
それは先日マシラ捜索の傍ら暇つぶしで行った広場での出来事だった。
男が女二人と揉めていたのだ。
その時は、よくある浮気男の修羅場かと思い、気にも留めていなかったが、男が連れていた女はさきほどの報告通りの容姿だった。
男の顔は……思い出そうとするが、今一つ思い出せない。
マシラの顔の特徴は、黒髪のボサボサ髪に伸ばしっぱなしの髭だという話だ。要するに髪を切り髭を剃ってしまえば、誰が誰だかわからない。
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ゴンズイは不敵に笑った。
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