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第53話 イベント
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農夫のおっさんは、藁を村はずれに届けると告げ、俺たちをカーンバーニュ村の入り口に下ろして去っていった。
その場に取り残された俺たちは、村の入り口に三人仲良く並んで村の様子をうかがう。
村には色とりどりの三角旗が建物の屋根から屋根へ吊り下げられ青い空によく映えていた。
近隣の村や町からも人が来ているのだろう、多くの人が吸い込まれるように村の中へと入っていく。
俺たちはそんな人を尻目に風にパタパタとなびく三角旗をアホみたいに見上げていた。
「なあ、エルよ。お前、コーエンってヤツ知ってんのか?」
「うん。年に一度の王室晩餐会でお会いしたことがあるの。とてもお優しい方だったと記憶しているわ」
王の晩餐会!!?
たまぁにこいつが偉いとこ出の女だってことを忘れちまうが、聞き馴染みのない言葉にエルが公爵家の娘だと改めて思い知らされる。
「私も噂程度ですがコーエン様の事を耳にしたことがあります。どこかの誰かと違って、とても聡明で眉目秀麗な方だと……」
「だってよ、エル」
「お前の事だ、マシラ!!」
「ケケケケ。冗談じゃねえか。そんなに怒るなよ。ほれ、俺たちもさっさと行こうぜ」
どうやら村の中の警備をしているのは村の若衆がほとんどで兵士は、ほとんど見受けられない。
これならエレオノーラ捜索隊もここには来ていないだろう。
そうと分かれば祭りを楽しむしかねえ!!
さっきから村の中から楽し気な音楽が鳴り、甘い葡萄酒の匂いがプンプン漂ってきている。
「……うん。行こう」
なぜかエルは緊張した面持ちで村の中へ足を踏み入れた。
「何、そんな緊張してんだよ。たかが村祭りだろ?」
「そ、そうなんだけど、私、お祭りに参加するの初めてだから」
「ありゃ?アンスルの露店市じゃ、『お祭りみた~い、楽しいわっぁぁあん!』って喜んでたじゃねえか。ありゃ、ウソなのか?」
俺の誇張した渾身のエルのモノマネ、笑うにしろ怒るにしろ何らかの反応が返ってくると思っていたのだが、エルはただただ暗く俯いた。
「ウソじゃないわ。露店市は、私の街でもやってたから、少し顔を出したことがあったの。だけど、お祭りには顔を出すなって、お父様に言われてたから……」
おそらくエルの親父は跡継ぎ問題やらでエルが祭りに出席するのを嫌ったのだろうことが学のない俺にもすぐに分かった。
ま、分かっただけで、まったくこれっぽっちも同情してやるつもりはない!なぜなら祭りに来たのならやることはただ一つ。
「んな、暗い顔するな!!祭りってのはなぁ!!!楽しく遊ぶもんなんだよ!!ひゃっほーーーい!!俺が一番乗りぃい!!!」
「あっ!!ずるい」
「おい!!」
二人が俺の後を追いかけてくる気配を背中で感じるが、待ってやる義理はない。
初めての村だが、人の波が全て同じ方向へと歩いているので、それに倣って俺も進む。
あまり広くない村だ。すぐさま祭りのメインの会場となっている広場に出てきた。
少し高い位置にステージが設けられ、そこではリュートやバイオリン、太鼓や笛が気持ちの良いテンポで音楽を奏で、赤ら顔の男や女が楽しそうに踊りを踊っていた。
どこかで、肉でも焼いているのか香ばしい匂いが漂い、両手いっぱいにジョッキを持つ給仕とすれ違う。
昔の俺なら、酔っ払から金を盗んでやろうなァんて考えが、いの一番に頭に浮かんできたモンだが今は違う。
俺もみんなと同じように、祭りのご相伴に預からねえと勿体ねえ!
「まずは酒だな!!」
広場には、大樽が三か所に分けて置かれている。俺は一番人の少ない樽の列に並ぶ。
俺の前には五人ほどの男が、顔を赤くして上機嫌に自分の順番が来るのを待っている。
「ここの酒は美味いのか?」
何の気なしに俺は目の前に並ぶ頭が禿げ上がったオヤジに声を掛けた。
「あったりめえじゃねえか!!カーンバーニュの葡萄酒っていやあ、毎年、王室にも献上される一級品だぞお!!」
自慢気に大声で唾を飛ばす。
「そうなのか!!初めて知ったぜぇ!!」
「なんだい、兄ちゃん。そんなことも知らずにこの村に来たのか!!おおーい、この兄ちゃんこの村の葡萄酒を知らねえってよ!!!」
ハゲオヤジが前に並ぶ男たちに声を掛けた。みんな酔っぱらって、ご機嫌だ。
「なんだと!!?じゃあ、今までの分取り返すくらいに飲め」だの「カーンバーニュの葡萄酒を飲まない奴がいるなんて信じられねえ」と声が上がる。
その中の一人が樽から酒を注ぎ俺の元へやってくると、葡萄酒が並々と注がれたジョッキを渡してきた。
「人生で一番うまい葡萄酒が今日飲めるなんてツイてるな。ガハハハ」
「その通りだな!」
俺はその言葉に同意して、まじまじとオッサンどもに注目されながら渡された葡萄酒を一気に腹の中に流し込む。
そして葡萄酒を飲み干した俺は空になったジョッキを天高く掲げ叫ぶ。
「カーンバーニュの葡萄酒は世界一だあああああああ!!!!」
「「「うおーーー!!!」」」
これでこの場は大盛り上がり。皆で肩を組んで葡萄酒を乾杯だ。
金?そんなもん、誰かが払ってくれるだろ。
俺は遠慮なく葡萄酒を口へ運んだ。
仲良くなったオッサンたちがあれもこれもと料理も出してくれる。そのたびに俺は「カーンバーニュの飯は世界一だ」と雄たけびを上げながら飯を食べた。
そうこうしていると、さっきまで聞こえていた音楽がなりやみ、辺りが静まり返る。
「ん?もうお開きか?」
隣で酒を飲むハゲオヤジに尋ねた。
「何言ってんだ!!これからメインイベントだ。見てみろ」
ハゲオヤジが顎で示したのは広場に隣接する大きな建物。おそらく其処が葡萄酒の醸造所なのだろう。大きな扉が開けられると中に大樽がいくつも並んでいるのが見えた。
その扉から、これまたバカでかい桶が三人がかりでゴロゴロと転がされてくる。
それを見て広場にいる人から歓声が上がる。
大桶が中央に来ると、誰が合図したわけでもなく男連中が我先にと集まり、大桶をゆっくりと地面に置いた。
それを見計らったかのように今度は広場に続く三本の道から大きな荷車がそれぞれひかれてやってくる。その上には葡萄が山のように積まれていた。
それが大桶の中にひっくり返されると、なんとも言えない甘酸っぱい葡萄の匂いがあたりに充満する。
「すごいね」
「ええ、こんな葡萄の量、見たことありません」
いつの間にか俺に並んでエルとヴィーもその光景を見ていた。
二人の手にもジョッキが持たれ、顔を僅かに赤く染めていた。
すべての葡萄が大桶に入ると、ステージの上に小綺麗な服を着た男が立つ。祭りの参加者から壇上に立つ男に向けて「村長!」と声が上がり、ステージ上の男はそれに手を振り答えていた。
「この行く先すべてに豊穣の女神の幸あらん事を願って」
そう言って葡萄酒を一杯、地面に落とす。
それが合図になったのか、広場にいた女たちが一斉に大桶の中に入っていく。
キャアキャアと女たちの黄色い声に混じり、音楽が再びなり始める。
女たちはスカートの裾が汚れないよう、手で高くスカートを摘まみ葡萄を踏みつぶしていく。音楽に乗り、まるでそれは踊っているかのよう。
女たちの白いふくらはぎに男たちは歓声を上げ、再び葡萄酒を飲みだす。
みるみる女の素足が葡萄の紫に変色していく様はなぜか艶めかしく映る。
その場に取り残された俺たちは、村の入り口に三人仲良く並んで村の様子をうかがう。
村には色とりどりの三角旗が建物の屋根から屋根へ吊り下げられ青い空によく映えていた。
近隣の村や町からも人が来ているのだろう、多くの人が吸い込まれるように村の中へと入っていく。
俺たちはそんな人を尻目に風にパタパタとなびく三角旗をアホみたいに見上げていた。
「なあ、エルよ。お前、コーエンってヤツ知ってんのか?」
「うん。年に一度の王室晩餐会でお会いしたことがあるの。とてもお優しい方だったと記憶しているわ」
王の晩餐会!!?
たまぁにこいつが偉いとこ出の女だってことを忘れちまうが、聞き馴染みのない言葉にエルが公爵家の娘だと改めて思い知らされる。
「私も噂程度ですがコーエン様の事を耳にしたことがあります。どこかの誰かと違って、とても聡明で眉目秀麗な方だと……」
「だってよ、エル」
「お前の事だ、マシラ!!」
「ケケケケ。冗談じゃねえか。そんなに怒るなよ。ほれ、俺たちもさっさと行こうぜ」
どうやら村の中の警備をしているのは村の若衆がほとんどで兵士は、ほとんど見受けられない。
これならエレオノーラ捜索隊もここには来ていないだろう。
そうと分かれば祭りを楽しむしかねえ!!
さっきから村の中から楽し気な音楽が鳴り、甘い葡萄酒の匂いがプンプン漂ってきている。
「……うん。行こう」
なぜかエルは緊張した面持ちで村の中へ足を踏み入れた。
「何、そんな緊張してんだよ。たかが村祭りだろ?」
「そ、そうなんだけど、私、お祭りに参加するの初めてだから」
「ありゃ?アンスルの露店市じゃ、『お祭りみた~い、楽しいわっぁぁあん!』って喜んでたじゃねえか。ありゃ、ウソなのか?」
俺の誇張した渾身のエルのモノマネ、笑うにしろ怒るにしろ何らかの反応が返ってくると思っていたのだが、エルはただただ暗く俯いた。
「ウソじゃないわ。露店市は、私の街でもやってたから、少し顔を出したことがあったの。だけど、お祭りには顔を出すなって、お父様に言われてたから……」
おそらくエルの親父は跡継ぎ問題やらでエルが祭りに出席するのを嫌ったのだろうことが学のない俺にもすぐに分かった。
ま、分かっただけで、まったくこれっぽっちも同情してやるつもりはない!なぜなら祭りに来たのならやることはただ一つ。
「んな、暗い顔するな!!祭りってのはなぁ!!!楽しく遊ぶもんなんだよ!!ひゃっほーーーい!!俺が一番乗りぃい!!!」
「あっ!!ずるい」
「おい!!」
二人が俺の後を追いかけてくる気配を背中で感じるが、待ってやる義理はない。
初めての村だが、人の波が全て同じ方向へと歩いているので、それに倣って俺も進む。
あまり広くない村だ。すぐさま祭りのメインの会場となっている広場に出てきた。
少し高い位置にステージが設けられ、そこではリュートやバイオリン、太鼓や笛が気持ちの良いテンポで音楽を奏で、赤ら顔の男や女が楽しそうに踊りを踊っていた。
どこかで、肉でも焼いているのか香ばしい匂いが漂い、両手いっぱいにジョッキを持つ給仕とすれ違う。
昔の俺なら、酔っ払から金を盗んでやろうなァんて考えが、いの一番に頭に浮かんできたモンだが今は違う。
俺もみんなと同じように、祭りのご相伴に預からねえと勿体ねえ!
「まずは酒だな!!」
広場には、大樽が三か所に分けて置かれている。俺は一番人の少ない樽の列に並ぶ。
俺の前には五人ほどの男が、顔を赤くして上機嫌に自分の順番が来るのを待っている。
「ここの酒は美味いのか?」
何の気なしに俺は目の前に並ぶ頭が禿げ上がったオヤジに声を掛けた。
「あったりめえじゃねえか!!カーンバーニュの葡萄酒っていやあ、毎年、王室にも献上される一級品だぞお!!」
自慢気に大声で唾を飛ばす。
「そうなのか!!初めて知ったぜぇ!!」
「なんだい、兄ちゃん。そんなことも知らずにこの村に来たのか!!おおーい、この兄ちゃんこの村の葡萄酒を知らねえってよ!!!」
ハゲオヤジが前に並ぶ男たちに声を掛けた。みんな酔っぱらって、ご機嫌だ。
「なんだと!!?じゃあ、今までの分取り返すくらいに飲め」だの「カーンバーニュの葡萄酒を飲まない奴がいるなんて信じられねえ」と声が上がる。
その中の一人が樽から酒を注ぎ俺の元へやってくると、葡萄酒が並々と注がれたジョッキを渡してきた。
「人生で一番うまい葡萄酒が今日飲めるなんてツイてるな。ガハハハ」
「その通りだな!」
俺はその言葉に同意して、まじまじとオッサンどもに注目されながら渡された葡萄酒を一気に腹の中に流し込む。
そして葡萄酒を飲み干した俺は空になったジョッキを天高く掲げ叫ぶ。
「カーンバーニュの葡萄酒は世界一だあああああああ!!!!」
「「「うおーーー!!!」」」
これでこの場は大盛り上がり。皆で肩を組んで葡萄酒を乾杯だ。
金?そんなもん、誰かが払ってくれるだろ。
俺は遠慮なく葡萄酒を口へ運んだ。
仲良くなったオッサンたちがあれもこれもと料理も出してくれる。そのたびに俺は「カーンバーニュの飯は世界一だ」と雄たけびを上げながら飯を食べた。
そうこうしていると、さっきまで聞こえていた音楽がなりやみ、辺りが静まり返る。
「ん?もうお開きか?」
隣で酒を飲むハゲオヤジに尋ねた。
「何言ってんだ!!これからメインイベントだ。見てみろ」
ハゲオヤジが顎で示したのは広場に隣接する大きな建物。おそらく其処が葡萄酒の醸造所なのだろう。大きな扉が開けられると中に大樽がいくつも並んでいるのが見えた。
その扉から、これまたバカでかい桶が三人がかりでゴロゴロと転がされてくる。
それを見て広場にいる人から歓声が上がる。
大桶が中央に来ると、誰が合図したわけでもなく男連中が我先にと集まり、大桶をゆっくりと地面に置いた。
それを見計らったかのように今度は広場に続く三本の道から大きな荷車がそれぞれひかれてやってくる。その上には葡萄が山のように積まれていた。
それが大桶の中にひっくり返されると、なんとも言えない甘酸っぱい葡萄の匂いがあたりに充満する。
「すごいね」
「ええ、こんな葡萄の量、見たことありません」
いつの間にか俺に並んでエルとヴィーもその光景を見ていた。
二人の手にもジョッキが持たれ、顔を僅かに赤く染めていた。
すべての葡萄が大桶に入ると、ステージの上に小綺麗な服を着た男が立つ。祭りの参加者から壇上に立つ男に向けて「村長!」と声が上がり、ステージ上の男はそれに手を振り答えていた。
「この行く先すべてに豊穣の女神の幸あらん事を願って」
そう言って葡萄酒を一杯、地面に落とす。
それが合図になったのか、広場にいた女たちが一斉に大桶の中に入っていく。
キャアキャアと女たちの黄色い声に混じり、音楽が再びなり始める。
女たちはスカートの裾が汚れないよう、手で高くスカートを摘まみ葡萄を踏みつぶしていく。音楽に乗り、まるでそれは踊っているかのよう。
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