異世界転移モノの序盤でやられる悪役盗賊の頭、公爵令嬢を人質に転移勇者からトンズラかまして新天地を目指す!

ポンコツロボ太

文字の大きさ
52 / 57

第52話 ちょっと寄り道

しおりを挟む
 藁を山のように積んだ荷車を引くロバの足音がポックリ、ポックリ響き、それに合わせて車輪がガタガタと歌う。

 アンスルの町を出て数日、いくつかの小さな村を経由しながら穏やかに旅が続いていた。
 連日エルから施される回復魔法によって俺の傷は完璧に癒えているものの、道中同じ方向に行くという農夫を頼って荷馬車に便乗させてもらっているのだ。

 俺たちはうず高く積まれた藁にまみれながら荷車の尻に三人肩をすぼめて座っていた。
 流れる景色は代わり映えがなくアクビが出てくる。

 数日前に振った雨が作った水たまりの水を車輪がバシャリとすくうと、それをきっかけにしたかのようにエルが口を開く。

「……ねえ、本当に共和国に行くの?」

 エルの口から出た共和国とは俺たちの住むレイアース王国から東に隣接するフーガ共和国の事だ。

 俺の目指す大陸東部に向かうルートは主に二つある。
 一つは、いったん北に抜け多種族同盟が治める国に入り、東へと向かうルート。
 そして、もう一つが今俺たちが向かうフーガ共和国から魔界領へと入るルートだ。

 エルは訳あって共和国へ入ることを嫌がっている。もちろんエルが嫌がるのなら、ヴィーも反対だ。
 ぶっちゃけ、エルの提案に乗って北に抜ける方が安全ではある。
 なぜなら多種族同盟と名の付く通り、人間、エルフ、ドワーフ、あらゆる獣人たちが、多様なコミュニティを作って暮らしているため、いちいち王国の些事になど構う者たちが少ないのだ。

 反対に共和国では、そうはいかない。魔界との戦争を機に我が王国と友好条約を結んでおり、国交も盛んで、もしかしたら俺の情報も向こうに流れているかもしれないのだ。

 ま、今語った大半の事は全てエルの受け売り。俺は自分の国のことですらよく知らねぇんだから、共和国だの多種族同盟だののどうでも良いのだ。

 そう俺の目的はただ一つ。金だ!

 共和国は、商業が盛んで四大商家なんて奴らは金にものを言わせてブイブイやってるらしいのだ。
 俺もそれにあやかりてえ。

 まあ、それは半分冗談だが、本音を言えばバンチのお宝を換金せにゃならんのだ。
 もちろん我が国レイアース王国でそれを行えば、即刻盗品から足が付きお縄頂戴の首ちょんぱ。

 ならば安全な多種族同盟で換金?

 はっ!御冗談!!

 あの国はお世辞も金回りが良いとは言えねぇからな。せっかく命懸けて手に入れた宝が安く買い叩かれるのは勘弁願いたい。

 それに引き換え共和国には金がある。どこか、デカい街にでも行ってパパっと換金して、ささっと魔界領へ向かうってのが俺の考えだ。

 エルがなんと言おうと俺の考えは変わらない。
 
「お前にゃ悪いが、共和国に向かうのは決定事項だ」

「そっ……か」

 エルは暗い顔して荷馬車の作るわだちをじっと眺め出す。

「そんなにお前、婚約者に会いたくないのか?俺は一目拝んで見たいもんだぜ、お前がそこまで嫌がるゴルバスってやつをよぉ。ギシシシ」

 そう、エルが共和国へ行きたがらないのは親が勝手に決めた婚約者がいる国だから。しかし、俺は思う。

 国だぜ?
 小さな村や町じゃねえんだ。会おうと思ったって会えないほうがザラだろ?
 まったくどこまでエルって女はデリケートにできてんのか俺は知りたいね……

 なぁんて俺の考えなんぞ女連中は知るよしもない。

「お前にはデリカシーって言葉はないのか?」

 ヴィーが俺を荷車から落とすように背中を押してきやがった。

「おい!!押すな!!」

 俺はかろうじて荷車の縁を掴んで落下を防ぐ。
 そんな俺を心配することなく、エルは真ん中に座る俺を飛び越してヴィーに話しかけた。

「そんなに暴れて大丈夫なの、ヴィー?」

「心配かけてすみません。……うっぷ。マシラの顔を見たら余計気分が悪くなりました」

 ケケケケ。ヴィーのヤツ騎士のくせに荷馬車に酔ってやんのぉ!

 背後に積まれた藁の山にもたれながら真っ青な顔して遠い空を眺めだしてやがる。

「誰の顔見て気持ち悪くなっただってぇ?まったく失礼な奴だな。ほれ、見てみろ!!ケケケケ、俺の顔見て本当に気持ち悪くなるかあ??よぉく見ろ」

 ヴィーに顔がよぉく見えるように、しこたま顔を近づけてやる。ヴィーは狭い荷台で近づく俺を遠くに離そうとグイグイと力任せに肩を押した。
 そんなはしゃぐ二人に押される形でエルはどんどん肩身を狭くしているのにヴィーはそれに気付かない。

「やめろ!!口が臭い!!うう……死ぬぅ……」

 ついにヴィーは藁の中に潜り込んで俺から逃げ出した。

「ケケケ。俺の勝ちぃ!!」

 この際、口が臭いと言われたことは良しとしてやろう。

 俺だけが気分上々のまま荷馬車に揺られる。

 いつの間にか左手に見えていたダコタの森がはるか遠く、荷馬車はガタガタと知らぬ間にあぜ道を走っていた。
 ただでさえ狭い道なのに横には腰ほどの高さで乱雑に積まれた石壁があり、より一層狭さを引き立たせていた。

 その石壁の上には規則正しく並べられた低木が立ち並び、人とすれ違うことが多くなる。

 やっとここで俺は自分がルートを外れていることに気づいた。

「おおい!おっさん、ここどこなんだ?」

 俺は藁の山の反対側でロバの手綱を引いているであろう農夫のおっさんに声を掛けた。

「あんれぇ?そういえば、人乗せてたんだったぁ。すまねえ、すまねえ。今は、カーンバーニュっちゅう村の近くに来てんだあ」

「頼むぜぇ、おっさん。途中で降ろしてくれるって約束だったじゃねえか」

 どこかのんびりとした牧歌的な風景の中、俺の不満が響き渡る。

「まぁまぁ。ええじゃないか。ちょうどカーンバーニュじゃ、祭りやってから、楽しんで行きなよぉ」

「そんな暇ねぇ……」

「おじさま!?カーンバーニュってコーエン伯爵領のカーンバーニュ村の事ですか?」

 おっさんに文句を言って引き返させようとする俺の言葉を遮って、落ち込んでいたはずのエルが声を掛けた。

「そうだぁ。ここら一帯ぜぇえんぶコーエン様ん所のブドウ畑さあ」

 そう言われて俺は辺りを確かめるために荷車から身を乗り出して、前方を確認する。
 そこから見えるのは地平の先まで続くブドウ畑。

「マシラぁ……お願い」

 名前を呼ばれ振り返ると、どこか期待のこもったエルの目が俺を見つめていた。

「しっかたねえなあ……」

 こうして、俺達は束の間の寄り道をすることになった。

「フフフフ。お前はなんだかんだ言ってエルに優しいんだな」

 馬車酔いで倒れているヴィーから、そんなことを言われ、とても否定したい気持ちが湧いてくるが、はたから見れば、その通りだと思い俺のなんともしがたい気持ちは腹の底に飲み込んでおいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...