三州の太守

芙伊 顕定

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【第四話】薩摩の地へ

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 蒙古の再度の襲来に備えて西国御家人に対し、それぞれの所領に下向するよう幕府から指令が下った。
 島津久経もその命に従い、一族を引き連れて薩摩へ下向することになった。
「前回の戦では、博多まで上陸されたものの、なんとか押し返すことができたそうな」
「蒙古というのは火を噴く武器を使ってくるらしいですぞ」
「なんと!よく押し返したものじゃ」
「なんでも神風が吹いたとか吹かないとか」
「とにかく、暫くは安心できそうじゃな」
「次はもっと大軍で攻めてくるじゃろう」
「我々も手をこまねいているわけにはいきませぬな」

 幕府からの命に従い、領国へ下りながら、先の蒙古襲来についての話題は尽きない。
 三郎も7歳になり、馬に乗ったり輿に乗ったり歩いたりしながら一生懸命ついてくる。

 島津家の当主が領国へ下るのは初めてのことである。
 島津忠宗も、京へ赴いたことはあるが、そこから先の道中は見るもの、聞くもの、全てが新鮮であった。
 弟・久長は、早くから薩摩に領地を与えられ、先んじて領国へ下っており、彼からの文によってどのようなところかは、ある程度報告は受けているが、聞くと見るでは大違いのはずだ。

 それにしても、薩摩は遠い。女衆や子を連れての旅なので鎌倉から一月半はかかりそうだ。
 父久経は博多まで行ってそこで待機し、忠宗は国許まで帰ってから薩摩の兵を率いて博多まで戻る予定になっている。

 博多で父と別れ、薩摩までの残りの道中を進む。
 筑後平野を通過し、筑後川をやっとの思いで渡る。
 九州は、富士山のような火山がたくさんある。
 富士山のように高さはないが、阿蘇の山を遠くに眺める。
 山を越え人吉の盆地を通り、肥薩国境の峠を越える。
 峠の頂から、遠くに煙を噴く山が海の真ん中にあるのが見えた。
「あれが、桜島か」

 何やら人だかりが見える。
 人だかりから一際目立つ坊主頭ともう一人の武者が近づいてきた。
「もしや、若様のご一行ですか。おや、酒匂兵衛入道ともうしもんで。遠路はうばうゆうとおいでくださおいもした。国境までお迎えにあがいもした」
「おう、おぬしが国老の酒匂入道か!出迎えありがたいぞ」
「なんの、島津御一家の初めてんお国入いござんで。きばらんわけにんきません」
「おや、本田親保ともうしもんで。」
 もう一人の武者が口を開いた。
「おう、こちらも国老の本田親保か!ご苦労じゃ」
「なんの、おいも酒匂入道と同じ気持ちござんで」
「はっはっはっ!両名ともわしらが留守の間、領地をよう守ってくれた!感謝しておるぞ」
「はっ、あいがたき幸せ」
「ここからは、我らがご一行をご案内仕いもす」
「うむ、よろしく頼むぞ」
「しかし、薩摩の言葉は難しいのう」
 忠宗は苦笑した。
「そうですか?我らがちっとずつお教えしもんそ。三郎様いもご指南しもすぞ」
 忠宗の後ろに隠れていた三郎も少し面食らったようだ。

 一気に賑やかになった一行は、薩摩での島津の拠点である山門院の木牟礼城に向かう。
 道中見える薩摩の国はとても豊かに見えた。
 桜島はうっすらと煙を噴き、生き生きとして見える。
 田畑には人の手が行き届き、全国でも有数の広さを誇る島津荘の実りはとても大きなものなのであろう。
 島津荘は薩摩・大隅・日向の3カ国に跨る大荘園で、本来であればその全てが島津家のものであるはずであった。
 しかし、初代忠久のころ、比企の乱に連座した疑いで薩摩のみとなってしまった。
 大隅・日向には北条得宗家の一門が入り込み支配している。
 忠宗は、この先にあるであろう蒙古との再戦で手柄をたてれば、あるいは大隅・日向が戻ってくるのではないかとひそかな期待をしていた。
 そのためにも、何が何でも次の戦には勝たねばならぬと決意を新たにした。

 鎌倉から一月半、やっとの思いで、薩摩山門院木牟礼城に到着したのは、初夏から夏に季節が変わり始めたころであった。
 城では、弟の伊作久長が所領から訪ねてきてくれていた。
「おう、兄上!伊作久長にごさいます。久方ぶりですな」
「久長!達者にしておったか。会いたかったぞ」
「はっ!父上はお達者ですかな?」
「うむ、博多まで参られておる。達者にしておるぞ」
「今日は呑み明かしましょうぞ、鎌倉の話など聞かせてくだされ」

 宴は夜明けまで続いた。忠宗は代々領国を現地で支えてくれた国老たちを労い、弟たちとの再会を存分に楽しんだ。
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