三州の太守

芙伊 顕定

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【第五話】西国警固番役

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 三郎の父・島津忠宗は薩摩の軍勢を整えると、博多に出発していった。
 三郎は忠氏、忠光という弟たちと共に、薩摩山門院の木牟礼城で毎日を過ごしていた。
 今は父に替わり、祖父の久経が薩摩に国入りしていた。

「おじじさま、蒙古というのは我らと何が違うのですか」
「そうじゃのう、わしも直接見たわけではないが、我らとおなじ人間であることは確かじゃのう」
「何故、戦わねばならぬのですか」
「うーむ、まあ、蒙古の長のクビライという男が我らの領土を狙っている。それからは守らねばならぬからのう」
「クビライは大陸の大半を手に入れたと聞きました。まだ領土がほしいのですか。」
「人間の欲望に果てはないからの。いずれにしろ今度はもっと大軍で攻めてくるじゃろ」
「鎌倉の執権さまはこちらへは参られないのですか」
「執権どのが来るとなると関東御家人が総出でくることになろう。戦で大切ななのは、戦闘そのものよりも兵站をいかに繋ぐかが大切なんじゃ。それだけの大軍勢の兵站を繋ぐことは相当な離れ業じゃよ」
「それはきっと、蒙古にとっても同じことなんでしょうね」
「ふむ」
 久経は感心した。
 相手の立場に立って視点を変えて物事を考える。
 簡単そうにみえるが、なかなかできないことである。
 三郎はなかなか良いものを持っている、久経は孫の成長を喜んだ。
「三郎よ」
「はい、おじじさま」
「お前はものの考え方がなかなか柔軟なようじゃ。それはきっとお前自身の身を助けることになろう。どんな困難な状況になってもそれを忘れてはいかんぞ」
 三郎は何を言われているのかいまいちわかっていないような表情でキョトンとしている。
「よいよい、そのうちおじじの申したことがわかる日がくるはずじゃ。それまで精進せい!」
「よくわかりませぬが、おじじさまのお言葉はよく覚えておきます」

 博多にいる島津忠宗は、幕府の命に従い、蒙古の襲来に備えて警戒にあたっていた。
 前回の蒙古襲来から4年の月日が流れていた。
 幕府は前回の反省を踏まえて、異国征伐あるいは警固の総司令官・異国征伐大将軍として、北条実時の息子である北条実政を博多に遣わしていた。
 異国征伐の計画は頓挫したが、異国警固の役目は続き、日々、防塁など防御施設の建設や、博多の街の整備などにも力を入れていた。
 忠宗も幕府の方針に従い、防塁建設に日々忙殺されていた。
「これは、島津どの。精が出ますな。」
 その日も、防塁建設の監督をしていると、突然声をかけられた。
「おう、総司令官どのではございませぬか。」
 そこには、北条実政が供を連れて見聞に来ていた。
「事前に報せていただければ、おもてなしのしようもありますのに」
「なんの、なんの。ふらりと、薩摩衆の現場に寄りたくなったのよ」
「左様でございましたか」
「九州はよいところじゃな。風土も人も明るく、なんとなく薄暗い鎌倉とは大違いじゃ。特に薩摩衆は元気があってよい」
「そうですな。私も生まれは鎌倉ですが、数年前にこちらに来てからはすっかりこちらの生活が気に入っております」
「息子どのは、おいくつになられたかな」
「今年で11歳になります」
「おう!うちと一緒じゃの。ぜひ親子共々島津どのにはよき補佐役になってもらいたいものじゃ」
「共にこの国難にあたるのは当然のことと心得ております」
「頼もしいぞ、よろしくお頼み申す」
「心得ております」
 北条実政は、幕府一の切れ者と名高い実時の息子だけあって、九州に来てからの施策に無駄はなく、諸将の統制にも長けていた。
 忠宗も、直に実政を目の当たりににして、畏怖の念を抱かずにはいられなかった。
「奥方も達者にしておるかの」
「はっ、薩摩からの文では4人目の男子を出産したと言って参っております。産後の肥立もよいようで」
「なんと!それはめでたい!あとで何か祝いを届けさせよう」
「もったいなきお言葉、痛み入ります」
「それでは、大友どのの陣をまわってから戻るとするか」
「お気をつけてお戻りください」
 爽やかな笑顔で手をふりながら、実政は去っていった。
 改めて、執権・北条時宗の人事の妙に忠宗は感心した。
 今回は、関東の有力御家人の一部も博多に下向してきており、幕府の覚悟がその人事を見るだけで感じられるものであった。
 妻の事が話題に出たので、理子や息子たちが恋しくなったが、その幸せを守るためにも踏ん張らねばと覚悟を新たにした。
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