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【第六話】白き足音
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鎌倉の足利屋敷に、新田基氏・六郎太郎親子が訪ねてきた。
新田氏は足利氏と同じく河内源氏の嫡流であったが、幕府内での扱いは足利氏と比べて低く、足利氏とは従属関係にあった。
そのため、何かというと新田氏は足利氏を頼っていたのである。
相変わらず冴えない男だ、と足利家時は思った。
高師氏が基氏に声をかけた。
「基氏さま、此度はいかがなされましたかな」
「実はの、師氏どの、我が一族の大館家氏の水田の件で、園田家・岩松家と争いになっておっての」
「六郎太郎どのは、貞氏どのと我が息子師重と遊んできなされ」
師氏が子どもは席を外すよう促す。
「はい」
六郎太郎は元気なさそうに立ち上がり部屋を出ていった。
基氏の話では、水田の利権争いで、自分の一族に肩入れしていたが、幕府の判決は園田家の勝訴となったようで、それを不満に思っているらしい。
実は、家時も似たような案件で高野山の僧と所領争いをしており、こちらも、高野山の僧が勝訴となっていた。
今の幕府は宿老であった、北条政村、北条実時が亡くなり、代わって、平頼綱というものが寄合衆として力を持っていた。
少なくとも北条一門は、足利一門を特別なものと認識し大切に扱ってくれているのはわかっていたが、寄合衆に北条一門がいなくなっただけであてつけのような訴訟結果を突きつけてきているのを感じた。北条一門以外の御家人たちには、足利に対して妬みや嫉みがあったのであろうと容易に推測できた。
その後もあれやこれや、基氏の愚痴めいた話に付き合い、適当に調子を合わせて合槌を打った。
「ところで基氏どの、ご子息どのは元気がなさそうにお見受けしたが、どこか身体の具合でも悪いのか」
「それも悩みの種でしてな、六郎太郎は生まれつき身体が弱く病気がちでしてな、今日は比較的元気そうだった故、気分転換にでもと連れて参った次第です」
「左様でしたか。お大事になさるとよい」
「今後とも我が足利を頼りにしてくだされよ」
「それはもちろん。こちらこそお願いし申す」
侍女に六郎太郎を呼びに行かせた。
「基氏どの、今回のような話は、他では他言無用ですぞ。足利は幕府に忠節を尽くしておる、新田も足利一門としてそのように振る舞っていただきたい」
「はっ!心得ております」
「よろしく頼みましたぞ」
六郎太郎が戻ってきた。貞氏らと遊んで少し気が晴れたようだった。訪ねてきた時より頬が紅潮しているのが見て取れる。
「六郎太郎どの、いつでも気兼ねなく遊びに参られよ」
「はい、貞氏さまにも同じように言われました。また寄らせていただきます」
新田基氏親子が帰ると、師氏が口を開いた。
「白き足音が少し聞こえて参りましたかな」
白は源氏一門の象徴の色である。
「ふむ、しかしまだ針の穴ほどの綻びもない。まだまだ雌伏の時ぞ。だが確実に足音は聞こえておる」
「しかし師氏よ、そなたも油断ならぬ男じゃな」
「はっ!恐れいりまする」
師氏は心底恐縮したように頭を下げる。
「はっはっはっ、そう畏まるな、高一族あっての足利ぞ。今までも今後も頼りにしておる」
「もったいなきお言葉」
「それにしても、西国の様子はどうなっておるのかの」
「北条実政さまが下向し、防塁や防御施設の建設に余念がないようです」
「実政さまもお父上に似てなかなかの切れ者であるからな」
「次は、蒙古も前回より大軍を準備しているとの風聞もございます」
「やはり、西国御家人の負担が大きいの。前回のように勝ったとしても防衛戦であるから恩賞にする土地が出せまい」
「その通りですな」
「幕府は信用を失っていくぞ」
「‥」
「時宗どのも頭が痛かろうな」
白き足音、それは小さいながらも確実に聞こえてきている、家時は身震いがする思いでそう感じていた。
新田氏は足利氏と同じく河内源氏の嫡流であったが、幕府内での扱いは足利氏と比べて低く、足利氏とは従属関係にあった。
そのため、何かというと新田氏は足利氏を頼っていたのである。
相変わらず冴えない男だ、と足利家時は思った。
高師氏が基氏に声をかけた。
「基氏さま、此度はいかがなされましたかな」
「実はの、師氏どの、我が一族の大館家氏の水田の件で、園田家・岩松家と争いになっておっての」
「六郎太郎どのは、貞氏どのと我が息子師重と遊んできなされ」
師氏が子どもは席を外すよう促す。
「はい」
六郎太郎は元気なさそうに立ち上がり部屋を出ていった。
基氏の話では、水田の利権争いで、自分の一族に肩入れしていたが、幕府の判決は園田家の勝訴となったようで、それを不満に思っているらしい。
実は、家時も似たような案件で高野山の僧と所領争いをしており、こちらも、高野山の僧が勝訴となっていた。
今の幕府は宿老であった、北条政村、北条実時が亡くなり、代わって、平頼綱というものが寄合衆として力を持っていた。
少なくとも北条一門は、足利一門を特別なものと認識し大切に扱ってくれているのはわかっていたが、寄合衆に北条一門がいなくなっただけであてつけのような訴訟結果を突きつけてきているのを感じた。北条一門以外の御家人たちには、足利に対して妬みや嫉みがあったのであろうと容易に推測できた。
その後もあれやこれや、基氏の愚痴めいた話に付き合い、適当に調子を合わせて合槌を打った。
「ところで基氏どの、ご子息どのは元気がなさそうにお見受けしたが、どこか身体の具合でも悪いのか」
「それも悩みの種でしてな、六郎太郎は生まれつき身体が弱く病気がちでしてな、今日は比較的元気そうだった故、気分転換にでもと連れて参った次第です」
「左様でしたか。お大事になさるとよい」
「今後とも我が足利を頼りにしてくだされよ」
「それはもちろん。こちらこそお願いし申す」
侍女に六郎太郎を呼びに行かせた。
「基氏どの、今回のような話は、他では他言無用ですぞ。足利は幕府に忠節を尽くしておる、新田も足利一門としてそのように振る舞っていただきたい」
「はっ!心得ております」
「よろしく頼みましたぞ」
六郎太郎が戻ってきた。貞氏らと遊んで少し気が晴れたようだった。訪ねてきた時より頬が紅潮しているのが見て取れる。
「六郎太郎どの、いつでも気兼ねなく遊びに参られよ」
「はい、貞氏さまにも同じように言われました。また寄らせていただきます」
新田基氏親子が帰ると、師氏が口を開いた。
「白き足音が少し聞こえて参りましたかな」
白は源氏一門の象徴の色である。
「ふむ、しかしまだ針の穴ほどの綻びもない。まだまだ雌伏の時ぞ。だが確実に足音は聞こえておる」
「しかし師氏よ、そなたも油断ならぬ男じゃな」
「はっ!恐れいりまする」
師氏は心底恐縮したように頭を下げる。
「はっはっはっ、そう畏まるな、高一族あっての足利ぞ。今までも今後も頼りにしておる」
「もったいなきお言葉」
「それにしても、西国の様子はどうなっておるのかの」
「北条実政さまが下向し、防塁や防御施設の建設に余念がないようです」
「実政さまもお父上に似てなかなかの切れ者であるからな」
「次は、蒙古も前回より大軍を準備しているとの風聞もございます」
「やはり、西国御家人の負担が大きいの。前回のように勝ったとしても防衛戦であるから恩賞にする土地が出せまい」
「その通りですな」
「幕府は信用を失っていくぞ」
「‥」
「時宗どのも頭が痛かろうな」
白き足音、それは小さいながらも確実に聞こえてきている、家時は身震いがする思いでそう感じていた。
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