三州の太守

芙伊 顕定

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【第十話】島津貞久

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 島津三郎は元服に際して、9代執権・北条貞時から「貞」の字を賜り、「貞久」と名乗りを変えた。
 同時に、大友親時の娘、梅を嫁に迎えることになった。

 貞久は15歳になっていた。
 弟たちはそれぞれ所領を与えられ、次男忠氏は和泉家を、三男忠光は佐多家をそれぞれ開いた。四男時久、五男資久、六男資忠、七男久泰はまだ幼いため、木牟礼城にいる。
「貞久よ、嫁や弟たちを大事にするのだぞ」
 島津忠宗は諭すように言った。
「はっ、承知いたしております」
「元が再び攻めてくるやもしれぬ。我らは引き続き西国警固番を仰せつかっておる。そなたも元服した故、こうして博多に同道させたのだ。しかと見聞を広めておくがよい」 
「はっ、父上」

 晴れた日の午後、弟の和泉忠氏を連れて各御家人の陣所を廻ることにした。
 最初に訪れたのは大友の陣であった。
「島津貞久にございます。お義父上さまはおられますでしょうか」
「はっ、島津さまでございますね。お取次いたします」
 しばらくすると陣所の中に招かれた。
「某は、大友親時が三男・大友貞宗にございます。生憎、父は領国に戻っておりましてな、某がお相手させていただきます」
「おう、貞宗どの。祝言の折以来ですな。大変ご無沙汰しております」
「貞久どの。妹は息災ですかな」
「薩摩で元気にしております。慣れない環境故、苦労も多かろうと思いますが、気丈に振る舞っております」
「左様ですか。あとでお引き取りの際に、兄からの土産をお持ちになってくだされ」
「かしこまりました。よしなにお伝えいたします」
「それにしても、貞久どの。先の元との戦では薩摩勢の働きは見事なものだったと伺いました。当然恩賞は莫大なものだったのでしょうな」
 探りはじめたなと、貞久は感じた。あの戦で目立った恩賞にあずかったものなどいないのだ。各所で不満が渦巻いていると聞いている。貞宗もそれをわかった上で島津がどんな思惑でいるのか探ってきているのだ。
「私は参加しておらなかったので、祖父や父がどのような働きであったかは存じ上げません」
「左様か、残念ですなあ。」
「恩賞の件ではみな不満が溜まっていると聞いている。かく言う我が大友は目立った働きもなく恩賞もなく、賦役の人工が嵩むばかり‥。いつ来るやもわからぬ敵に備え続けるのはなかなか酷な話ですのう」
「左様ですな」

 世間話もそこそこに、大友の陣所を辞した。
「兄上、大友はかなり不満が溜まっておるようですな」
「忠氏よ、我が島津も似たようなものであるが、おくびにも表に出してはならぬぞ。どこで誰が聞いておるかわからぬからな」
「はっ、畏まりました」

 少弐の陣所へ立ち寄ってみる。少弐家は元の襲来に際して総大将的な役割を幕府から割り当てられていた。
 一族から討死が出るなど、被害も相当なものであったと聞いている。
「少弐盛時が子・少弐貞経でございます」
「島津貞久及び弟の和泉忠氏にございます」
 少弐貞経は、自分と同じくらいの年齢にみえた。
 やはり、少弐家の負担は莫大なものであるらしく、不満が滲み出る部分はあったが、終始穏やかに世間話をして陣所を辞した。

 幕府は恩賞を出すことができず困っている。そもそも、御恩と奉公の関係で将軍と御家人は繋がっているのだ。
 御恩がないのであれば、奉公の義務はない。
 赤子でも理解できる単純な図式だ。
 だからこそ、関係は壊れやすい。

 貞久はその若さ故に、以前と空気感が変わってきてることを敏感に感じとっていた。
 このままでは必ず立ち行かなくなる。
 その時、島津はいかに動くべきなのか。
 時代は必ず動く。
 そう確信していた。

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